佳作『母の島唄』の作品評 | 交心空間

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◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

 平成29年度「NHK中四国ラジオドラマ脚本コンクール」で佳作に輝いた『母の島唄』
(作・江口香奈子)の作品評を掲載します。


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『母の島唄』(佳作)  作・江口香奈子


 瀬戸内海の野島で暮らす直(43歳)は、東京から訪れた優衣(21歳)と知り合い、口説
きと呼ばれる島唄を通して打ち解けるうち、直は22年前に出産し養子に出した自分の娘で
あることを知る物語。


 最終選考に残った8作品の中で1位評価をしました。だからといって、突出して優れて
いたというものではありません。一定の技量を持ち備えた書き手なら、問題を抱えた人物
の設定をし、ストーリーが展開するにしたがってそれらを葛藤の起伏を織り込みながら伝
えていくことで、ある種のドラマ性に到達する……いわば人物像・エピソード・台詞・舞
台背景(情景)・SE(効果音)などの設定で平均点を上回ることでアピールした作品だ
と感じました。
 そんな中で直は、育ての母親で直の親友である美和が亡くなり生活費学費に困っている
優衣に、まとまったお金を渡そうとするが結局渡せません。しかし優衣が東京に帰るとき、
直の父親が、優衣の祖父に借りていた金を返すという小芝居で200万円を渡します。こ
れには年の功という自然の流れで「そうきたか。アリだな」と感心しました。
 気になる点もあります。
 当然のことですが、作者は先の展開を知っています。人物のやりとりのとき、一方が自
分のことを話しているとき、もう一方の受けが「ごめんなさい。立ち入ったこと聞いて」
「見つかった?」「初めて?」「それがきっかけで?(離婚)」など先読み的な台詞があ
ります。確かに展開(会話)はスムーズになりますが、裏を返せば相手が話そうとしてい
る内容を知っていて、次の内容を話しやすい相づち、つまりどこか誘導しているようで違
和感を覚えました。
 また、妊娠した直が美和(優衣の育ての親で直の親友)に相談しているとき、美和は子
どもができないという境遇とはいえ、「あんた産んで、わたし育てるから」や、直の出産
のシーンでは、直が苦しんでいるのに、美和は「約束だからね。産まれたら、すぐに赤ち
ゃん引き取るから」も、唐突で短絡的な印象を受けました。