入選『ボクの、いじわるでえらそうなヒール』の作品評 | 交心空間

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◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇


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 平成29年度「NHK中四国ラジオドラマ脚本コンクール」で入選に輝いた『ボクの、い
じわるでえらそうなヒール』(作・菊池百恵)の作品評を掲載します。


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『ボクの、いじわるでえらそうなヒール』(入選)  作・菊池百恵


 父親のパニック障害のため東京から瀬戸内海の島に引っ越してきた翔(8歳)は、下校
中に友だちに追いかけられ息苦しくなり倒れてしまう。島のアイドル猫(ヒール)が母親
を連れてきて助かる。これを機に翔はヒールと話ができるようになり、徐々に心を交わし
ていく物語。


 ほかの審査員には好評でしたが、私は疑問点が多くプラスの評価に至りませんでした。
 設定として“猫と話ができる”ですが、翔が「この時からぼくには謎の声が聞こえるよ
うになって」と宣言しただけです。それはなぜか、明確でないにせよ匂わせ程度の根拠が
ないと、作者のご都合主義に受け取れます。そしてヒールはなぜ翔のことをいろいろ知っ
ているという設定も、大いに疑問です。引っ越してきて二ヵ月間、ヒールが翔のことを観
察していたとしても、それはなぜかという次の疑問が浮かびます。つまりヒールの存在は、
猫らしさを逸脱して“ストーリー展開のためのナビゲーターであり、翔の答えを導くため
の(自問自答用に設定された)もう一人の翔”に受け取れてなりません。
 あらすじでは父親の病気は“パニック障害”とありますが、本編では病名は出さず“心
の病気”として展開しています。それはそれでヨシといえますが、心の病気としてもその
症状がまったく描かれず、翔が言っているだけなのは納得いきません。そもそも島に引っ
越してきた理由であり、友だちには隠しているわけですから、何らかの表現があってしか
りと考えます。さらに翔は「見えない病気」と言っていますが、果してそうでしょうか。
見える状態を描き、翔も知ることで、翔と父親の溝も埋まると考えます。
 クライマックスとして、ヒールが生徒たちにいじめられていると聞き、助けに行った翔
が興奮したあまり父親の心の病気のことを吐露してしまうのですが、「それだけ?」とい
った感じで、葛藤としては非常に弱く物足りません。もっと生徒たちと思いをぶつけ合っ
てこそ、お互い理解し合えるのではないでしょうか。
 モノローグも多く、相手の名前を呼んでからの台詞や「あー」とか「え?」といったテ
ンポを損なう台詞も気になります。
 ストーリー展開や葛藤の振れ幅が小さいので共感には至りませんでした。



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