推敲の余地… | 交心空間

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◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

 平成29年度『NHK中四国ラジオドラマ脚本コンクール』の審査結果が発表されました。


中四国ラジオドラマ脚本コンクールの審査結果 【NHK松山局】


入選 『ボクの、いじわるでえらそうなヒール』  菊池百恵
佳作 『母の島唄』               江口香奈子


そのほか最終選考作品
   『愛の夢なら』              黒瀬ゆか
   『耳をすまして、よろこびの歌を』     瀬津 広
   『ぼっけェおもれェ』           高橋良育
   『キッチン火曜日』            杉原美紀
   『どうぞ勝手に輝いて』          坂下泰義
   『赤い花 白い花』            阿部奏子


交心空間では、私の総評を掲載します。受賞作品の評論は後日掲載します。


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【総評】
 応募総数63作品は別にして、最終選考に残った数が例年の10~12作品に比べて8作品と
は“不作の年”といっていいでしょう。
 まず全体として“表面的”といえます。特に人物像に関しては、何らかの問題点が設定
されているものの、意外にも簡単に、しかも説明的に吐露してしまう展開が多く見られま
す。もちろん作者は“ドラマとして話を進めていかなければいけない”という使命はあり
ますが、会話の相手が出逢って間もない人物(擬人化も含む)であったり、身内であって
も唐突にそのシーンだけを描いていたり、回想やモノローグで淡々と伝えたりで、「そこ
まで話すか」と疑問を抱いてしまいます。もっとシーン構成をして台詞を精査すれば、よ
り多くかつ意義ある情報(内容)が伝えられます。いずれの作品にもその可能性を多分に
含んでいます。もっと奥深い人物像で魅了してほしかったです。
 次にストーリー展開が“類型的”で新鮮味が感じられません。地方を題材にした脚本コ
ンクールで特徴のひとつといえる“問題を抱えた人物が、都会(東京・大阪など)から地
方(中四国)を訪れ、その地の人々とふれあい、その地の特性を見たり触れたりすること
で、問題解決に繋がる何らかの新たな感情を抱き帰っていく”という構図が、『愛の夢な
ら』『赤い花 白い花』を除いた6作品もありました。作者にその意識があるかないかは
わかりません。パターンに当てはめたにしても、一ひねり二ひねりぐらいあれば際立って
くるのに、検討不足としか言わざるを得ません。
 斬新さにチャレンジしたのでしょうか、“非現実性”をモチーフにした作品が4つあり
ました。『愛の夢なら』『耳をすまして、よろこびの歌を』『ボクの、いじわるでえらそ
うなヒール』『キッチン火曜日(一部)』です。意欲は評価したいと思います。しかしな
がら“非現実界の中のリアリティ”を感じません。非現実だから“どんな設定や展開でも
まかり通る”と考えるのは都合が良すぎます。中には「夢オチ」と受け取れる作品や「な
ぜかわからないが」と間接的にぼかした作品もありました。


 結果、入選『ボクの、いじわるでえらそうなヒール』、佳作『母の島唄』と決まりまし
たが、推敲の余地を多々残した状態での受賞だと今も感じています。