脚本『放課後泥棒』の補作と解説(1) | 交心空間

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◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

 塾生Aさんの作品『放課後泥棒』(四百字詰め33枚/規定30枚程度)を読んで、私の受
け止めは次のとおりです。
  ◆素材として「子どものプライド」「ドロケイ遊び」に興味要因はありますが、それ
   らがドラマとして表現しきれていません。事実関係が展開しただけで、感動(ドラ
   マ性)を導く構築と表現が希薄です。
  ◆一番の原因は「一ノ瀬の(登場自体はヨシとしても)扱い方」に問題があります。
   一ノ瀬の扱い(作者が選んだ展開やキャラの方向性)が、結局「誰のドラマか(誰
   が主人公で誰が相手役か)」をウヤムヤにしており、ドラマ性は当然のこと、子ど
   もらしさも壊しています。

 これらを踏まえた補作の基本姿勢は次のとおりです。
  ◆補作後も30枚程度を維持するため、不要語句を削除して行数を確保する。
  ◆併せてドラマ性を構築(変更・追加)する。

 それでは原作と補作(部分掲載ですが全体としては四百字詰め30枚)を対比しつつ解説
していきましとょう。

脚本『放課後泥棒』 作・塾生A(補作前の原作/2014年10月15日掲載)


【事前説明】
集合住宅:A棟、B棟、C棟の三棟から成り、それがコの字型に配置されている。裏に横
     長の駐車場。コの字中央部に小さな公園。一階部分は複数の通路になっており、
     駐車場につながる。

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※ 脚本内の ピンク色 は削除、 黄色 は変更、 緑色 は追加した内容です。

脚本対比表1-A 
【原作】
----+----10----+----20・・

S1 集合住宅・A棟・2通路()】
  壁に囲まれ薄暗い通路。
  息を切らして走るパツキン(12)。金髪、
  マスクで目付きが悪い。
  追いかける遠藤康太(12)。
  康太がパツキンの服を掴む。
康太「(早口で)12345678910!」
  パツキンは振り払おうとするが、観念し
  てへたり込む。


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【補作】
----+----10----+----20・・

S1 集合住宅・A棟2通路(放課後
  息を切らして走るパツキン(12)。金髪、
  マスクで目付きが悪い。
  追いかける遠藤康太(12)。
康太「オリャ~と追いつきパツキンの服を
 掴み早口で)イチニサン!」
  パツキンが観念してへたり込む。
 

(1) 原作N02のト書き《壁に囲まれ薄暗い通路》とありますが、原作S22(シーン22/B
  棟3F通路)のト書きでは《匍匐(ほふく:腹ばいの意)して牢屋(下の公園)の様
  子を見ているパツキン、ドス》となっています。A棟B棟の違いはあれど、同様の造
  りと考えたら「壁に囲まれた廊下なのに腹ばいで下の様子が見える?」と脚本内に書
  かれた事実に矛盾が生じます。仮に造りが違うとして、両者のト書きを補足(違いを
  説明)した場合、さらに行数が必要になります。それよりも「削除して行数確保」を
  優先しました。このト書きを削除してもドラマの本筋には何ら影響ありません。

(2) 原作N07の台詞は「10」まで数えています。実際の遊びではそうかもしれませんが、
  こういったものはローカルルールです。早口で言うにしても「1~10」は長いです。
  テンポを考えると「123」で充分です。「イチニサン」「ワンツースリー」と使い
  分けもできます。(後日掲載する補作S7など)

(3) 補作N05の台詞「オリャ~」は、康太の活発さ(子どもらしさ)をイメージしました。

脚本対比表1-B 
【原作】
----+----10----+----20・・

S2 同・公園(昼)
  ドス、水谷、少年A、B、C、D(12)
  が集まっている。
康太「これで全員捕まえたな(とパツキンを
 掴んで歩いてくる)」
パツキン「康太速すぎ……」
水谷「では、僕はそろそろ
康太「え!? 水谷帰ったら一人足りなくなる
 じゃんか!
水谷「塾があるので(行く)」
  そっと手を振るドス。
康太「どうすんだよ」
パツキン「康太のチーム、一人少なくすりゃ
 いいじゃん。ハンデでさ
康太「(考える)」
  公園横道路を越前宗也(12)が歩いてい
  る。
康太「お。(走っていく)」


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【補作】
----+----10----+----20・・

S2 同・公園・大木の周辺  
  ドス、水谷、少年A・B・C・D(全員
  12)が集まっている。
康太「これで全員捕まえたな(とパツキンを
 掴んで歩いてくる)」
パツキン「康太速すぎ……」
水谷「(ポケットから子ども用携帯電話を取
 り出し見て)僕はそろそろ。塾があるので
康太「え~、もうそんな時間かよ
水谷「バイバイ(行く)」
  そっと手を振るドス。
パツキン「じゃあ、こっからはいつも通りに
 康太のチームを一人少なくして、ハンデな
康太「(口をすぼめて頷いている)」
  前の道を越前宗也(12)が歩いている。
康太「オッ(走っていく)」

(1) 原作N07~14について、「水谷が塾のため帰る」のがこのとき初めてなら、これらの
  やりとりは違和感ありません。しかし「初めてかどうか」は、脚本内には描かれてい
  ません。「これまでも定例的に帰る(たとえば週に何度か)」とも考えられます。そ
  うなると康太の驚きや「どうするんだよ」、またパツキンの「康太のチーム、一人少
  なく…」の提案は定例性に反して不自然なやりとり(これまでも経験した事態なのに、
  さも今が初めてのような反応)といえます。このほかに、いつも偶数人数でドロケイ
  をしているのも考えがたいです。奇数人数でチーム分けして、4人対3人といったと
  きもあるのが自然です。原作S8(対比表3-B)でも、パツキンが「人数なんてい
  つも違うだろが」と言っています(脚本内に書かれた事実)。つまり偶数人数も奇数
  もあると考えられます。したがって補作の変更意図は「想定内の遊び方」をイメージ
  したやりとりにしました。
    ★脚本を考える(書く)とき「人物の日常性を考慮した台詞や行動を取り入れる」
     と、より深みを増すことができます。

(2) 原作N15のト書き《考える》は抽象的です。ダメではありませんが、具体的なリアク
  ション(補作N14)のほうがイメージできます。

(3) 原作N16のト書き《公園横道路》でもいいのですが、ト書き全体(N16~17)で2行
  になるのが気になります(もったいない)。補作N15《前の道》とすれば1行に収ま
  ります。
    ★この補作においては、いかに削除して行を確保するかも優先課題としています。
     通常で考えても、行確保ができればそれだけ多くの内容書き込みに繋がります。
     推敲の考え方として参考になればと思います。

脚本対比表1-C 
【原作】
----+----10----+----20・・

S3 公園横道路
康太「そこのお前、何やってんだよ!(と越
 前の肩を叩く)」
越前「通学路の確認ですが」
康太「つまり、暇ってことだな!
越前「はぁ……


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【補作】
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S3 公園前の道路
康太「チョイチョイチョイチョイ(と越前の
 肩を叩き)……暇?
越前「通学路の確認ですが、まあ……
康太「いいね、いいねェ」 

(1) 原作の康太の声かけが「堅い・威圧的・尋問的」な印象です。子どもらしくフレンド
  リーに誘いたいですね。

(2) 康太から「暇?」と訊くのと、越前の答え「通学路の確認ですが」の「が」を生かし、
  さらに「まあ……」と暇であるのを肯定して続ければトントン拍子のやりとりに転じ
  させられます。

(3) このシーンで、誘い(下記★印の“何を”に該当)の目的を越前に説明したりその結
  果まで描く必要はありません。前の流れと次のS4のはじめ(越前を連れてきた様子
  や何のためか)で伝えられています。やりとり(下記★印の“どのように”に該当)
  の内容は別として、シーンの流れ(下記★印の“どこからどこまで”に該当)は原作
  の考え方でOKです。
    ★シーンとして「何をどのようにどこからどこまで書くか」の見極めは重要です。
     これを見誤るとダラダラと二重書きになります。

脚本対比表1-D 
【原作】
----+----10----+----20・・

S4 集合住宅・公園
康太「呼んできた(と越前を連れてくる)」
越前「(康太に)あの、何ですか?」
康太「ドロケイに入れてやる!
越前「ドロケイ?」
康太「知らないのか!?
越前「……」
康太「ま、やりながら覚えてもらうか」
パツキン「(立ち上がり)誰と誰でとりとり
 ?」
康太「(笑って)こいつにさせてみねえ?
 えっと――」
越前「越前です」
康太「じゃあ、越前とさっき最後まで残った
 パツキンで」
パツキン「OK」
越前「(康太に耳打ち)何故不良が?」
康太「(笑って)不良じゃないって! あり
 ゃ地毛だ」
パツキン「(越前に)とーりとり、じゃんけ
 んほい(グー)」
越前「え?(チョキ)」
パツキン「よっしゃ! 康太もーらい」
ドス「大人気ないなあ……」
越前「これは?」
康太「この中から一人ずつ選んでくんだよ。
 チーム分けだって」
越前「……じゃあ、この人で(とドスを指さ
 す)」
康太「ドスか。顔に似合わずドスのきいた声
 だろ?」
ドス「声変わりしてるだけだよ……」
越前「(後退り)」
ドス「本気で怖がらないで!」
パツキン「次誰にしようかな――」


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【補作】
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S4 集合住宅・公園・大木の周辺
康太「呼んできた(と越前を連れてくる)」
越前「(康太に)あの、何ですか?」
康太「一緒にドロケイやろうぜ
越前「ドロケイ?(と首を傾げる)
康太「何だ、知らないのか。泥棒と警察。鬼
 ごっこなんだけど、ルールは、ま、やりな
 がら覚えてもらうか」
パツキン「誰と誰でとりとり?」
康太「お前やってみる? えっと――」
越前「越前です」
康太「じゃあ、越前とさっき最後まで残った
 パツキンで」
パツキン「OK(と金髪を掻き上げる)
越前「(康太に耳打ち)何故不良が?」
康太「じゃなくって、地毛だ、地毛
越前「遺伝子変異ですか?」
康太「知らねえ。どうでもいいことだし」

パツキン「(チョリースポーズ。越前に)と
 ーりとり、じゃんけんほい(グー)」
越前「え?(チョキ)」
パツキン「よっしゃ! 康太もーらい」
ドス「(声が低い)大人気ないなあ……」
越前「これは?」
康太「この中から一人ずつ選んでくんだよ。
 チーム分けだって」
越前「じゃあ、この人で(とドスを指さす)」
康太「ドスか。顔に似合わずドスのきいた声
 だろ」
ドス「声変わりしてるだけだよ」
越前「(後退り)」
ドス「本気で怖がらないで」
パツキン「次誰にすっかな――」
 

(1) 原作N05の越前「ドロケイ?」と聞き返し台詞はなくてもいいのですが、「ドロケイ」
  という言葉の認知度を考慮して聞き返す方向性でもいいでしょう。
    ★「よく聞こえなかったから聞き返した」の根拠は、騒音があるわけでもなし、
     聞き取れなかった様子は描かれていませんから、これは論外です。ドロケイと
     いう「言葉の意味が分からない」が聞き返した目的に当たります。
      【ちなみに】
       ドロケイ遊びはについては → ■ケイドロ【ウィキペディア】
       実に懐かしい遊びです……。
    ★認知度のある言葉を聞き返す台詞は、テンポを損なうし行数も費やすだけで好
     ましくありません。聞き返し台詞の使用はケースバイケースといえます。認知
     度の高い言葉でも強調したいときもあります。逆に低い言葉でもテンポを重視
     して聞き返さない場合も。いずれにしても、作者の根拠が明確であることが大
     事です。

(2) 原作N06~07の康太「知らないのか!?」越前「……」は、「ドロケイ?」の聞き返し
  を、さらに知る知らないのやりとりで強調したにすぎず(疑問形で聞き返したという
  ことは、知らないと解釈してもいい)、クドイやりとりと考えます。
  しかし別の見方をすると、(原作S8で明らかになる、秀才校から転校してきて学識
  のある)越前が「ドロケイ遊びを知らない」というキャラクター付けに繋がります。
  前者の根拠なら削除対象ですが、後者はドラマにとって有力情報を含んでいます。
  補作では後者の意図を採用しました。ただし「知らないのか!?」と驚きの疑問形「!?」
  ではなく(疑問形だとクドイ)、聞き返したことから知らないことを感知したうえで
  「何だ、知らないのか」とぼやいたニュアンスにしたのがポイントです。

(3) ドロケイ遊びのルール説明はこのあとのシーンでドスが伝えていますが、とりあえず
  補作N06で言葉の意味「泥棒と警察。鬼ごっこ(の一種)」を伝えておきます。

(4) S3・S4で、康太が出逢ったばかりの越前に対して高圧的に感じます。「お前、何
  やってんだ/暇ってことだな/ドロケイに入れてやる/知らないのか!?/こいつにさ
  せてみねえ?」の台詞(口調)の連なりが、どこかそれをイメージさせます。
  「プライドが高い」という康太のキャラクター付けの表れか、先の展開で「康太が越
  前にライバル意識(敵意)を持つ」のが先走って表面化しているかです。
  前者はキャラクター付けの根拠として、まだ納得できうる余地があります。後者だと
  「先の展開を知って書いている作者が、無意識のうちにその気持ちで書いている」
  いえるので(断じて)いただけません。
    ★作者はすべての展開を把握したうえで書いています。その時点の心境(どの時
     点で気持ちの変化があるか)を意識する必要があります。作者のみの先走りは
     厳禁です。
  前者とした場合でも、康太のキャラクターが「プライドの高さ」だけで単調になりま
  す。したがってS4でも、S3の説明(1) で「フレンドリー」としたのを継承するの
  が妥当です。この時点では、気持ちの変化が起きる要因はありません。今後展開する
  に連れて「フレンドリー → ライバル意識(敵意) → 仲間」と、康太の心境の変化
  (メリハリ)も見せられます。

(5) 補作N14のト書き《金髪を掻き上げる》は、パツキンを見た越前が「不良」(N15)
  と思った要因(原作ではなぜ不良と思ったかが不明瞭)と、康太が「地毛だ」(N16)
  に対する前振り、つまり話の矛先が何かを示唆するためです。
    ★「小学生なのに金髪 → 不良」の論理は“偏見”“飛躍”とも受け取れますが、
     これは越前(登場人物)が「校則違反をして金髪に染めている」と自分本位な
     想像をしたためと解釈します。この論理は描かれていませんが(描くと話が脇
     道に逸れる)、想像できる範疇なのでヨシとします。
  「地毛だ、地毛」と二度繰り返しているのは、康太の越前への念押しの表れです。

(6) 補作N17の「遺伝子変異」は越前の学識を覗かせた台詞です。ほかにも補作S6にあ
  る「運動力学」も同じ意図です。先の展開(補作S14)でドス「越前君は物知りだね」
  越前「まあね」のやりとりを裏付ける構築(伏線)になります。

(7) 補作N18の康太「知らねえ。どうでもいいことだし」と、N19のト書き《チョリース
  ポーズ》はドラマの核心を担う伏線です。補作S23・24を経て、最終目的はS27のた
  めにあります。(別途説明します)
    ★ドラマ性は突然生まれるものではありません。台詞やト書きによる構築がもた
     らす産物なのです。

脚本対比表1-E 
【原作】
----+----10----+----20・・

    ×    ×    ×
康太「こんなところか」
  康太・パツキン・C・Dと越前・ドス・
  A・Bが向き合う。
パツキン「じゃんけんぽん(パー)」
越前「(グー)」

パツキン「泥棒は俺達からな~」
  パツキンチームが逃げ去る。
ドス「(越前に)警察の僕らは、今逃げた泥
 棒達を捕まえて、この公園に連れてくるん
 です」
越前「結構大変そうですね」
ドス「あ、連れてくると言っても、服を掴ん
 で十数えたら泥棒は抵抗禁止です!」
少年A「ま、康太が相手チームにいるんじゃ
 一日警察で終わりかもな」
越前「そんなに速いんですか?」
少年A「水谷がいれば作戦で追い込んでくれ
 るけど、今日はもう帰っちまったし」
越前「とりあえず捕まえますか(風のように
 走り去る)」
ドス「へ?」


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【補作】
----+----10----+----20・・

    ×    ×    ×
康太「こんなところか」
  康太、パツキン、少年C・Dと越前、ド
  ス、少年A・Bが向き合う。
パツキン「泥棒は俺らからな~」
  パツキンチームが逃げ去る。
ドス「(越前に)警察の僕達は、今逃げた泥
 棒を捕まえて、ここに連れてくるんです」
越前「結構大変そうですね」
ドス「連れてくるといっても、服を掴んで
 つ数えたら泥棒は抵抗禁止です」
少年A「ま、康太が相手チームにいるんじゃ
 一日警察で終わりかもな」
越前「そんなに速いんですか?」
少年A「水谷がいれば作戦で追い込んでくれ
 るけど、今日はもう帰っちまったし」
越前「とりあえず捕まえますか(疾走で去る)」
ドス「(目を見開いて)へ?」
 

(1) 原作N05~06では泥棒か警察かを決めるじゃんけんをしますが、補作ではすでにじゃ
  んけんは終えた想定をとりました。パツキンの「泥棒は俺らからな~」で充分です。

(2) 補作N18のト書き《目を見開いて》は表情を追加してみました。

(3) ドスによるドロケイのルール説明(S6にもある)は必要な(欠かせない)やりとり
  です。遊びの流れに乗っているし、少年Aが口を挟んだりするのも説明っぽさを緩和
  しています。

*--------------------*
■脚本『放課後泥棒』の補作と解説(2)へつづく