脚本『放課後泥棒』 作・塾生A | 交心空間

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◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

 今年2月に入塾した塾生Aさんは、掌編・短編小説を主に創作していました
が「脚本も書いてみたい」とのこと……。そこで四百字詰め原稿用紙30枚程度
の作品を書いてもらいました。
 塾生Aさんが創作した脚本『放課後泥棒』の公開許可をいただいたので掲載
します。感想などあればコメント欄にお願いします。


※ シーンの柱は S1 S2 … と標記しています。
※ 脚本右横の【P1】【P2】…は四百字詰め原稿に対応したページ数です。



 今後の予定として、当該作品を坂本が補作(変更・削除・加筆)したものを
掲載し、さらに補作ポイントを解説していきます。お楽しみに!



========================================
タイトル『放課後泥棒』  作・塾生A

【事前説明】
集合住宅:A棟、B棟、C棟の三棟から成り、
それがコの字型に配置されている。裏に横長
の駐車場。コの字中央部に小さな公園。一階
部分は複数の通路になっており、駐車場につ
ながる。


----+----10----+----20
S1 集合住宅・A棟・2F通路(昼)     →【P1】
  壁に囲まれ薄暗い通路。
  息を切らして走るパツキン(12)。金髪、
  マスクで目付きが悪い。
  追いかける遠藤康太(12)。
  康太がパツキンの服を掴む。
康太「(早口で)12345678910!」
  パツキンは振り払おうとするが、観念し
  てへたり込む。


S2 同・公園(昼)
  ドス、水谷、少年A、B、C、D(12)
  が集まっている。
康太「これで全員捕まえたな(とパツキンを
 掴んで歩いてくる)」
パツキン「康太速すぎ……」
水谷「では、僕はそろそろ」
康太「え!? 水谷帰ったら一人足りなくなる
 じゃんか!」
水谷「塾があるので(行く)」
  そっと手を振るドス。           →【P2】
康太「どうすんだよ」
パツキン「康太のチーム、一人少なくすりゃ
 いいじゃん。ハンデでさ」
康太「(考える)」
  公園横道路を越前宗也(12)が歩いてい
  る。
康太「お。(走っていく)」


S3 公園横道路
康太「そこのお前、何やってんだよ!(と越
 前の肩を叩く)」
越前「通学路の確認ですが」
康太「つまり、暇ってことだな!」
越前「はぁ……」


S4 集合住宅・公園
康太「呼んできた(と越前を連れてくる)」
越前「(康太に)あの、何ですか?」
康太「ドロケイに入れてやる!」
越前「ドロケイ?」              →【P3】
康太「知らないのか!?」
越前「……」
康太「ま、やりながら覚えてもらうか」
パツキン「(立ち上がり)誰と誰でとりとり
 ?」
康太「(笑って)こいつにさせてみねえ? 
 えっと――」
越前「越前です」
康太「じゃあ、越前とさっき最後まで残った
 パツキンで」
パツキン「OK」
越前「(康太に耳打ち)何故不良が?」
康太「(笑って)不良じゃないって! あり
 ゃ地毛だ」
パツキン「(越前に)とーりとり、じゃんけ
 んほい(グー)」
越前「え?(チョキ)」
パツキン「よっしゃ! 康太もーらい」
ドス「大人気ないなあ……」
越前「これは?」               →【P4】
康太「この中から一人ずつ選んでくんだよ。
 チーム分けだって」
越前「……じゃあ、この人で(とドスを指さ
 す)」
康太「ドスか。顔に似合わずドスのきいた声
 だろ?」
ドス「声変わりしてるだけだよ……」
越前「(後退り)」
ドス「本気で怖がらないで!」
パツキン「次誰にしようかな――」
    ×    ×    ×
康太「こんなところか」
  康太・パツキン・C・Dと越前・ドス・
  A・Bが向き合う。
パツキン「じゃんけんぽん(パー)」
越前「(グー)」
パツキン「泥棒は俺達からな~」
  パツキンチームが逃げ去る。
ドス「(越前に)警察の僕らは、今逃げた泥
 棒達を捕まえて、この公園に連れてくるん   →【P5】
 です」
越前「結構大変そうですね」
ドス「あ、連れてくると言っても、服を掴ん
 で十数えたら泥棒は抵抗禁止です!」
少年A「ま、康太が相手チームにいるんじゃ
 一日警察で終わりかもな」
越前「そんなに速いんですか?」
少年A「水谷がいれば作戦で追い込んでくれ
 るけど、今日はもう帰っちまったし」
越前「とりあえず捕まえますか(風のように
 走り去る)」
ドス「へ?」


S5 同・駐車場
康太「水谷は帰ったし、真っ向勝負なら捕ま
 る気がしねえや」
  視線の先に人影。
  見ると、越前が凄い速さでCを捕らえて
  いる。
康太「(微笑)少しは楽しめそうだ」      →【P6】


S6 同・公園
  にドスだけ。
  越前がCを連れてくる。
ドス「もう捕まえたの!?」
少年E「コイツ足速すぎ」
ドス「あと三人か」
越前「いえ」
  Dが歩いてくる。
越前「二人です」
ドス「(愕然)」
パツキン「(壁の陰から様子を見て)やるな」
越前「(パツキンに気づき走り出す)」
パツキン「やべえ(と逃げる)」
    ×    ×    ×
  越前がパツキンを連れてくる。
少年C「こんな序盤に三人捕まるとは……」
パツキン「康太が逃がしてくれるって」
越前「逃がす?」
パツキン「捕まった泥棒は、この木の周り    →【P7】
 (と木に手を置き)牢屋にいるとき、まだ
 捕まってない泥棒にタッチされれば、脱獄
 できる。そしたらまた捕まえ直し」
ドス「(越前に)もしよければ、僕と交代し
 て看守やってみませんか?」
越前「看守? 牢屋を見張ってればいいです
 か?」
ドス「(嬉)」
    ×    ×    ×
  捕まった泥棒三人と越前だけの公園。
パツキン「随分足速いよな。スポ少入ってる
 とか?」
  と越前と話し歩き、牢屋から遠ざかるよ
  う誘導している。
越前「いえ、そういうのは」
パツキン「いくら速くても、残りの康太は手
 強いぜ」
越前「一番速いんですか(と牢屋を見て)あ
 っ」
康太「パツキンナイス!」           →【P8】
  と飛び出してきて牢屋に走る。
  康太にタッチされた泥棒二人と康太が散
  り散りに逃走。
パツキン「大成功!」
  踵を返して追いかける越前。
  公園から出る前のC、Dにすぐ追いつき
越前「(Cの服を掴んで)1234――」
    ×    ×    ×
越前「(Dの肩を掴んで)――5678910」
  公園を出て、走りながら振り返る康太。
康太「んな馬鹿な」
  とB棟1F通路を通り、駐車場を走る。
  後ろに来た越前が距離を縮める。
康太「直線なのにッ」
  A棟1F通路に曲がる康太。追う越前。
  再び公園に戻る康太。
  越前の手が康太の服に一瞬触れ、康太が
  引き離す!
パツキン「康太!(と手を伸ばす)」
康太「(牢屋に手を伸ばし)クソォ!」     →【P9】
  と後一歩のところで地面に倒れこむ。
越前「12345678910(と康太を抱え
 る)」
パツキン「一人で全員捕まえちまった……」
少年C「こんなのアリか!」
少年D「間違いねえ……康太より速い!」
康太「(怒)認めない……認めないぞ!(土
 を掴む)」


S7 同・公園出口(夕)
  帰る越前。見送る一同。
ドス「すごかったね……」
パツキン「(越前に)また来いよー(と手を
 振る)」
康太「(小声で)……二度と来るな」


S8 学校・教室(日変わり)
  ザワついた教室に教師が入る。
教師「座って座って」
  生徒達が全員席に着く。          →【P10】
教師「(ドアに)入って」
越前「(入って康太を見て)あ」
康太「(目があって)あ!」
教師「エスシー学園小学校から転校してきた
 越前だ」
  ザワつく生徒達。
水谷「エスシーと言えば、全てにおいて優れ
 た天才だけが入れるエリート校ですよね」
康太「何でそんな奴が六年にもなってここに
 来るんだよ」
水谷「親の転勤ですかね? いや、そんなに
 遠い学校ではないし……」
康太「(考える)」
    ×    ×    ×
  放課。席に座っている越前。
水谷「(来て)学級委員の水谷です。よろし
 く」
越前「君が策士の」
水谷「どうして僕のことを?」
パツキン「(来て)昨日あれから、一緒にド   →【P11】
 ロケイしたんだ。そのとき話した。コイツ
 めっちゃ速えからな」
水谷「その越前君と偶然同じクラスに? 出
 会いって不思議ですね」
パツキン「(越前に)今日の帰りも来るか?」
康太「(来て)ちょっと待った」
越前「?」
康太「昨日は人数が足りなかったから入れて
 やったが、今日はわけが違う」
パツキン「人数なんていつも違うだろが」
康太「大体、何でわざわざこんな学校に来た
 んだ。折角厳しいお受験を勝ち抜いたのに」
越前「(顔を背け)僕の自由でしょ」
康太「ほう(意味深な笑み)」
パツキン「ハイハイハイ。じゃ、学校終わっ
 たら昨日の場所に集合な!」


S9 集合住宅・公園(昼)
  康太、パツキン、ドス、水谷、A、B、
  C、D、Eが集まっているところに越前   →【P12】
  が来る。
水谷「越前君!」
康太「(舌打ち)」
水谷「皆揃ったことですし、始めます?」
パツキン「水谷、俺ととりとりだ」
水谷「いいでしょう」
パツキン、水谷「とーりとりじゃんけんほい
 (手を出す)」
パツキン「うし、越前もらい!」
水谷「あれ、康太君ではなく?」
パツキン「だって越前の方が速えし」
康太「(鬼の形相)」
水谷「(康太を見て)ヒッ! つ、次からと
 りとりやめましょう!」
パツキン「何でだよ」
水谷「(必死に)こ、康太君と越前君が絶対
 違うチームになっちゃいますし!」
    ×    ×    ×
  康太・水谷・ドス・C・Dと越前・パツ
  キン・A・B・Eが向き合う。       →【P13】
水谷、パツキン「じゃんけんぽん(手を出す)」
パツキン「泥棒だ!」
  泥棒が散り散りに逃げ出す。
ドス「越前君が泥棒……捕まる気がしないよ」
水谷「僕に良い考えがあります」


S10 同
水谷(OFF)「彼はまだこのマンションに
 疎いはず」
  B棟1F通路でドスが越前を追いかける。
水谷(OFF)「先回りして逃げ道を塞ぎ」
  駐車場に飛び出す越前。正面に待ち構え
  るCを避け左に曲がる。
水谷(OFF)「一直線に走らせ」
  駐車場を走る越前。左を見るが、Dが逃
  げ道を塞いでいる。
水谷(OFF)「A棟の凹みに潜む康太が捕
 まえる!」
  A棟の壁面凹み部分から越前の正面に現
  れる康太。ニヤリと腕を広げる。      →【P14】
  だが、触れることもできず通り抜けられ
  る。
康太「(半泣き)何でだよォ」
  とがむしゃらに追いかける。


S11 遠藤家・ダイニングキッチン(夜)
  机上に白紙の原稿用紙。
  その前に座り、鉛筆を回しため息をつく
  康太。
栞奈「宿題進んでないみたいだけど?」
  とキッチンから顔を出す康太の母、遠藤
  栞奈(41)。
康太「自分の特技を発表するんだけど……」
栞奈「コウちゃんは足が速いことね!」
康太「でも、俺が一番じゃないから……」
栞奈「メダリスト以外は遅いってこと?」
康太「そういうわけじゃ……。クラスに俺よ
 り速い奴がいて発表しづらいんだよ」
栞奈「(考えて)人はね、二つ特技があれば
 特別なの。速いのは足だけじゃないでしょ   →【P15】
 ?」
康太「?」
栞奈「計算もじゃない!」
康太「まあ、ずっとそろばん習ってるし」
栞奈「走ることだけ得意な人は山ほどいるわ。
 計算だけ得意な人もね。でも、両方となる
 と……?」
康太「そうか……わかった気がするよ母さん
 !(書き始める)」


S12 学校・教室(日変わり)
  放課。
康太「絶対ワケアリだぜ。見たろ、転校理由
 聞いたときの越前」
パツキン「困ってるようだったけどな」
康太「つまりワケアリってことだ」
パツキン「……」
  康太が教室を見渡すと、越前がドスと話
  している。
ドス「へー、越前君は物知りだね」       →【P16】
康太「(行って)俺にも教えてくれよ」
越前「?」
康太「何でこんな時期に転校してきたんだよ」
越前「そんな話じゃなかったんだけど……」
康太「ごまかさずにさ」
越前「いや、まあ」
康太「言えない理由でもあるのか?」
越前「(怒)何だっていいじゃないか」
康太「お、図星?」
パツキン「(割り込んで)おい康太。越前に
 だけ酷くないか?」
康太「ただ質問してるだけじゃん。どこが酷
 いんだよ」
越前「ごめん(行く)」
康太「……」
ドス「越前君可哀そう……」
パツキン「越前が嫌がってるだろ!」
康太「何だよ越前越前と!(行く)」
    ×    ×    ×
  授業中。生徒達は黙々と算数の問題用紙   →【P17】
  を解いている。
康太(M)「あんな奴!(と答えを書き殴る)」
教師「全部終わった人から提出な」
  康太が越前の方を窺う。
  越前が立ち上がる。
康太「なっ!」
越前「終わりました(と教壇に用紙を提出)」
教師「早いなあ」
  半分しか解いてない康太の用紙。
  焦って続きを解く康太。


S13 悪夢
  暗闇の中、越前、パツキン、ドス、水谷
  が笑って走っていく。
康太「待てよ皆! 待ってくれー!」
  と手を伸ばして追いかけるが、追いつけ
  ない。
  友人の姿は遠く消える。
    ×    ×    ×
  遠藤家リビングのソファでハッと目を覚   →【P18】
  ます康太。
栞奈「大丈夫? 随分うなされてたけど……」

康太「(息が荒い)」


S14 学校・教室(日変わり)
  授業中。
少女A「これで私の発表を終わります(着席)」
  拍手。
教師「では次、越前」
越前「はい(と立ち上がる)」
  康太が見る。
越前「僕の特技は、チェロです」
康太「(愕然)」
越前「幼少期からレッスンを受けており、幾
 多のコンクールで受賞しています。チェロ
 を始めたきっかけは――」
康太(M)「越前にとって、走ることも計算
 も、特技ですらないんだ……」
  越前の声が遠くなっていく。
    ×    ×    ×        →【P19】
教師「次、遠藤」
康太「(我に返り)ハイッ(と立ち上がる)」
  作文用紙を持つ手が震える。
    ×    ×    ×
  (フラッシュ)
越前「走ることと計算が特技? あの程度で
 ?(冷笑)」
    ×    ×    ×
教師「どうした?」
康太「宿題忘れました」
教師「(ため息)ちゃんとやってこいよ。次
 ――」


S15 集合住宅公園横道路(数日後・昼)
  一人下校する康太。
  横から騒ぐ声が聞こえ、それを見る。
  公園で皆が遊ぶ姿。それを横目に通り過
  ぎる。


S16 集合住宅・C棟1F通路         →【P20】
  越前、ドス、水谷が歩いている。
越前「最近康太君来ないね……なんだか僕を
 避けてるような」
ドス「そんなことないよ! 多分……」
越前「特に理由はないはずだからね」
水谷「誘ってはいるんですが。あれで康太君、
 結構プライド高いとこありますからね……
 越前君がそれを逆なでしていると感じてる
 のかも」
越前「え、そんなつもりは」
水谷「自覚なくってことも」
越前「自覚がない……」
    ×    ×    ×
  (フラッシュ)
  一ノ瀬少年(12)の不気味な笑み。
    ×    ×    ×
越前「(愕然)そんな……」
水谷「まあ、越前君は何も悪くないんですけ
 どね(苦笑)」
                       →【P21】

S17 遠藤家・リビング(昼)
  テレビゲームをしている康太。
栞奈「またゲーム? 最近ずっとじゃない。
 小学生なら外で遊びなさい!」
康太「ガキの遊びには飽きた」
栞奈「(呆れて)何言ってんの……買い物行
 ってくるね。七時頃帰るから留守番よろし
 く」
康太「(ゲームに夢中)」
  ため息をついて部屋から出ていく栞奈。


S18 分かれ道(夕)
  ドスと水谷は右、越前は左の道へ行く。
ドス「僕達はここで」
水谷「(越前に)康太君にはとりあえず謝っ
 ておくのが吉ですかね」
越前「謝るって……」
水谷「それでは(ドスと共に行く)」
越前「……余計傷つけるだけだ。僕には分か
 る」                    →【P22】


S19 遠藤家・リビング(夜)
  テレビゲームをしている康太。
栞奈「ただいま(と入り、怒って)あ、まだ
 やってる。ゲームは一日一時間まで」
  とコントローラーを取り上げる。
康太「あ」
栞奈「だいたい、宿題終わったの!?」
  舌打ちして部屋を出て、家から出る康太。
栞奈「あ、こら待ちなさいこんな時間に!」
  部屋を出て、玄関ドアから顔を出す栞奈。
栞奈「すぐ帰ってらっしゃいよ!」


S20 歩道(夜)
康太「母さんの言うことなんて(とぼとぼ歩
 く)」
  後ろから走る足音。
  ジャージ姿で走るパツキンが康太を追い
  越す。
  走って追い、横に並ぶ康太。        →【P23】
パツキン「お、康太」
康太「こんな時間に何やってんだよ」
パツキン「見てのとおりだ。毎晩走ってる」
康太「よくやるな」
パツキン「……最近遊びに来ないけど、どう
 したんだよ」
康太「そんなことないって」
パツキン「あるって(目で迫る)」
康太「……俺が行く必要ないじゃん」
パツキン「?」
康太「俺より速い奴がいるんだから」
パツキン「どうしてそうなる(笑う)」
康太「……」
パツキン「足が速いから遊んでるわけじゃな
 いっしょ」
康太「じゃあ何で……何で俺なんかと」
パツキン「何でって言われてもな……康太だ
 から?」
康太「え?」
パツキン「確かに越前の方が速いかもしれな   →【P24】
 い。でも、康太は康太のままだろ? 何か
 変わるのか?」
康太「俺は……」
  パツキンが足を止め、康太も止める。
パツキン「(荒い息)」
  とポケットからストップウォッチを取り
  出し見る。
パツキン「昨日の俺より速くなった」
康太「……」
パツキン「明日もドロケイするからな」


S21 集合住宅・公園(日変わり、昼)
  に集まる越前、パツキン、水谷、ドス、
  A、B。
パツキン「今日はこんだけ?」
  歩いてくる康太。
  それを見る仲間達。
  康太が仲間達の下へ。
康太「(照れて)久しぶり」
パツキン「待ってたぜ」            →【P25】
    ×    ×    ×
  木の近くには越前が立っている。
  それを康太がうろうろして見張っている。
  無言の二人。
康太「(気まずい)まさか俺がいない間に越
 前を捕まえられる程になっていたとは……」
越前「(気まずい)水谷君の作戦勝ちかな」
康太「えっと、まあ水谷って――」
越前「(公園の外を見て)あ、あ……どうし
 てここに(怯える)」
康太「越前?」
  公園に入ってくる一ノ瀬、少年F、G、
  H(12)。制服(ブレザー)を着ている。
一ノ瀬「久方ぶりだね、越前宗也君」
康太「誰?」
越前「(怯える)」
一ノ瀬「それほど驚くことかね? 文化博物
 館への立ち寄りついでに、君の自宅にも伺
 っただけさ。なに、時には貴重な時間を割
 いてでも、伝統ある芸術を賞玩するのも悪   →【P26】
 くないと思ってね。しかし聞くところによ
 ると、ここで来る日も来る日も低俗な遊戯
 に興じているそうではないか」
越前「はい……」
一ノ瀬「(驚)なんと。聞き違いではなかっ
 たのか。転校後とはいえ、誉れあるエスシ
 ーの学徒が、このような連中と投合すると
 は……嘆かわしい限りだ」
越前「はい……。では、これ以上貴重なお時
 間をお取りするのも忍びな――」
一ノ瀬「(遮って)まあ待ちたまえ。転校後
 は温ま湯に浸かるような生活を強いられて
 きたのだろうが、それで君の将来が閉ざさ
 れてしまったわけでは、ない」
越前「?」
一ノ瀬「義務教育の時間は打つ手なしとしよ
 う。が、今の時間はどうだい? いくらで
 も使い道はあろう」
康太「(イライラ)」
一ノ瀬「フフ、一時的な気の迷いは誰にでも   →【P27】
 あるもの。さあ、我々と共に来たまえ。歓
 迎するよ(と手を差し伸べる)」
  手を取ろうとしない越前。
  手を戻す一ノ瀬。
一ノ瀬「これは一体どういう了見だい? 越
 前宗也君」
越前「……今は、この木の周り――牢屋から
 出られないんです。仲間が助けてくれるか
 もしれないから」
一ノ瀬「(顔をひきつらせてから笑みを浮か
 べ)そうかそうか、君はそういう奴だった
 な。自分より劣る者を巧みに探し出しては
 悦に浸る。敵わぬ猛虎に挑もうとはせず、
 手近な羽虫を潰して自尊心を満たす。そう
 して流下の摂理に身を委ね、下流下流へと
 流された挙句転校とは、とんだお笑い種も
 あったものだ」
  笑うF、G、H。
越前「ここで言わないで……」
一ノ瀬「(呆れ)それでいて我々の最後の情   →【P28】
 けすら無下にする。全く、飽和しきった虚
 栄心には手の付けようもない」
越前「やめてくれ……」
康太「(我慢)」
一ノ瀬「鶏口牛後など奴隷道徳を正当化する
 まやかしに過ぎない。化けの皮を剥げば、
 臆病者の烙印に怯えるだけの哀れな世迷言。
 (嘲笑い)もしや、君にとっては座右の銘
 だったかな? が、与えられた吹き溜まり
 に安住するだけの君は、満足した豚に他な
 らない!」
越前「(涙目で)黙れ!」
  一ノ瀬の股間を思いきり蹴る康太。
  悶絶する一ノ瀬。逃走する康太。
一ノ瀬「アレを追え!」
  F、G、Hが追い始める。
越前「……」
一ノ瀬「(越前に)何を突っ立っている!? 
 君も手伝いたまえ! 見たろあの野蛮を!」
  動かない越前。              →【P29】
一ノ瀬「私があらゆる面において君に勝って
 いること、よもや忘れたわけではあるまい
 な(と越前の肩に手を置く)」 
  怯えた越前は走り出す。
一ノ瀬「エスシーの我らに楯突くとどうなる
 か、思い知らせてくれる(走る)」


S22 同・B棟3F通路
  匍匐して牢屋の様子を見ているパツキン、
  ドス。
水谷「(来て)見つけた!」
パツキン「(立って)待て待て! あれを見
 ろ!」
水谷「その手には――(牢屋の方を見て)ん
 ? 絡まれてる?」
パツキン「なんかエラいことになってないか
 ?」
ドス「あっ、追いかけ始めた」
水谷「(二人を見据え)僕に良い考えがあり
 ます」                   →【P30】


S23 同・B棟2F通路
  階段を駆け登り、通路に出るF、G。
少年F「足音が聞こえた! こっちだ!」
少年G「誰かいる!」
  暗闇の人影を見るF、G。
  暗闇に薄っすら見えるのはパツキン。
ドス(OFF)「(怒声)おどれら、ワイの
 マブダチに手ェ出したらどないなるかわか
 っちょるやろなぁ!」
少年F、G「(半泣きで)ヒ! すみませー
 ん!(逃走)」
  逃げ道(1F通路)でHに出会う二人。
少年H「どうした!?」
少年F「(荒い息で)あいつと関わっちゃい
 けない! 反社会的勢力とのパイプが!」
少年H「!?」
    ×    ×    ×
水谷「やりましたね」
ドス「が、がんばったよぅ(陰から出てくる)」 →【P31】
パツキン「(笑って)いつの時代のヤクザだ」


S24 同・B棟4F通路
康太「(息を切らして)駄目だ、もう走れな
 い(倒れこむ)」
  越前が現れ、近づく。
越前「聞かれたくなかった(と隣に座る)僕、
 エスシーの落ちこぼれだったんだ」
康太「びっくりした(と座り直す)」
越前「劣等感を感じる毎日だった。でも皆の
 中に紛れたら気分よくなっちゃって……最
 低だよ、僕」
康太「俺も人のこと言えねえ。勝手にライバ
 ル意識持って、八つ当たりして……」
越前「僕が、無自覚だったんだ」
康太「俺が何もわかってなかっただけだ。友
 達が教えてくれた……」
越前「(笑み)あいつの股間を蹴ってくれた
 とき、とてもスカッとしたよ。ありがとう」
康太「と、当然のことをしただけだ! (口   →【P32】
 ごもり)俺は牢屋の看守で、お前を逃がす
 わけにいかなかったし(照れて顔を背ける)」
越前「(ハッとして笑み)」
一ノ瀬「(来て)おやおや、これで隠れたつ
 もりかね?」
康太「!」
越前「(康太の服を掴んで立ち上がり)捕ま
 えましたよ。こいつの仲間に見せしめしま
 しょう。(一ノ瀬に近づき)牢屋へ連れて
 いって(悪そうな微笑)」
康太「(越前の顔を見る)」
越前「(康太の目を見る)」
一ノ瀬「(高笑いし)君、面白いよ! 及第
 点をあげよう、越前宗也君。我々の同胞だ
 !」
  越前と康太は一ノ瀬を横切る。
  次の瞬間、走り出す二人!
一ノ瀬「な?」
  笑い合う二人。
康太「二人一緒に泥棒だな!」         →【P33】
  公園まで走る二人。
  公園では皆が待っている。


                おわり