変人のすすめ(2) | 交心空間

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◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

 ことわざの「一を聞いて十を知る」に習い、脚本家は「一を聞いて(見て)
十の可能性を考える」意欲を提示します。十までいかなくても、最低でも三つ
は考えてください。ひとつは『最初に思いついたこと』、次は『その逆にある
こと』、そして三つ目は『それらの中間にあること』です。余裕があれば、四
つ目として『全く別の観点から考えられること』です。
 たとえば、肉が好きだからといって、ビフテキばかり食べていると栄養が偏
ります。魚や野菜も考えるべきです。さらには、リンゴ飴の存在も考えてもら
いたいのです。
 ここで例にあげた料理「ビフテキ」に注目してください。フランス語「ビー
フステーキ」の略語ですが、今ではレストランのメニューで見かけない懐かし
い言葉(名称)です。「一を聞いて十を知る」という古い言葉に同調させまし
た。通常キーワードが「肉料理」なら「ステーキ」や「焼き肉」「しゃぶしゃ
ぶ」が考えられますが、それらが浮かんでもすぐに採用するのではなく、『何
が内容に適しているか』『何が興味を抱かすか』を常に吟味します。
 もうひとつ着眼して欲しいのは「リンゴ飴」です。デザートを観点にするな
ら「ケーキ」があげられますが、記事『平凡と斬新の境目』(2013年5月22日)
で伝えた「リンゴ飴」を伏線とするなら、ここで登場する納得性もあります。
この場合は丸ごとのリンゴ飴ではなく、それをスライスしたものをイメージし
てもらえたらデザートらしくなり、コース料理としても成立します。


記事『平凡と斬新の境目』(2013年5月22日掲載)


 『発想』は常日頃の鍛錬が導いてくれます。いろいろな可能性を考え、それ
を外に発信し、相手の反応を見て、何が有効かを蓄積できる『実践』こそが大
事なのです。もちろんこの『実践』は、あらゆるところで可能です。


※次の記事のお読みください。
記事『変人のすすめ』(2010年1月1日掲載)


 脚本家は「どれだけの風変わりを思いつくか」「どれだけ冷静かつ客観的に
なれるか」が、ユニークな作品創りにつながります。ひとつのエピソードを思
いつき、何の疑いもなく書くようでは、ドラマは一定方向にしか転がりません。
ワンパターンで味気ない『脚本止まり』がいいところでしょう。そうならない
ために、考えたエピソードが「誰の何について語るものか」「そのドラマにと
って何を意味するものか」を明確にしたうえで、本当にそれが必要かを吟味し
てください。そして、「脚本を書く」ではなく「ドラマを書く」を目指してこ
そ、その果てにでき上がったものが『真のドラマ』なのです。