交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇


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 モノは切りようで丸にも四角にもなります。何をどう書くかで『平凡』にも
『斬新』にもなるということです。辞書によると、平凡とは「特にすぐれた所
がなく並みな様子」で、斬新とは「趣が際だって新しい様子」とあります。
 たとえば日々食べる「家庭料理」を平凡と考えるなら、洒落たレストランや
料亭で味わう「お出かけ料理」は斬新に相当するでしょう。味付け、盛り付け、
器の華麗さ、ムードあるBGM、眼下に望む夜景など、いずれをとっても毎日
食べる家庭料理と違う点で、どこか満足感や感動を覚えます。家庭料理がつま
らないのではありません。そこに日々の生活と違う「別の空間で体験する楽し
みがある」、その素晴らしさに注目してもらいたいのです。ドラマは『楽しま
せて何ぼのモン』『客をノーリアクションにするな』が前提なのです。
 「世の中」という名の冷蔵庫があるとします。「さあ、何を作ろうか」と思
ったとき、客(ディレクター、スポンサー)の注文に応えるか。お任せならば、
客(視聴者、時代)は何を食べたがっているかを考えます。新聞、雑誌、テレ
ビ、見るモノ聞くモノ、全てがネタ探しの対象です。また、流行りモノ、過去
の出来事、季節モノ、そして未来予測もできたら有効です。冷蔵庫の中からい
くつの料理を思いつき、どう料理するかで「ドラマ創りの名シェフ」と呼ばれ
るでしょう。
 「恋愛」という玉子を料理するときも、工夫を凝らしてください。以前放送
されていたテレビ番組『モグモグGOMBO(モグモグゴンボ)』(日本テレ
ビ/1993年4月~2003年9月放送)に登場して、懸命に料理を作る子どもの発
想は実にユニークでした。『着想の観点』からすれば参考になるものがあり、
何をどのように『創作』するかで客ウケは違うものでした。
 アイディア(着想)を凝らすことが、脚本家に求められる条件です。何がア
イディアかですが、「オムライス」を例に取りましょう。オムライスは、今や
珍しい料理ではありません。しかしご飯を取り巻く黄色い玉子が、パセリのみ
じん切りを多量に混ぜれば緑と化し、明太子なら赤になり、色彩や味の面でも
新たなものになるでしょう。中身のご飯も工夫を凝らせば中華にも和食にもな
り、さらには未知の料理になっていくでしょう。


 ドラマは虚構の産物です。発想を促すとき、世の中で実際に起こった事象を
ヒントにする場合があります。事例として不謹慎・不適切な面もありますが、
「食べ物に混入した毒物を食べて死亡者が出た」という事件が発生したとしま
す。この出来事を発端にドラマを考えたなら、ほとんどの人は「殺人事件のス
トーリー展開」を思い浮かべるでしょう。しかしここでは観点を別のところに
置き、次のような展開を考えてみます。以下は、どこにどう着地させるかは別
にして、ドラマ創りの考え方「着想と展開」の一例です。


★事例として不謹慎・不適切な面もあります。
 不快感を覚えた方は、速やかに退室することをお勧めします。


【着想と展開の例】
(1)食べ物に混入した毒物事件が発生し、現場は警察やマスコミや野次馬で
   大騒ぎになります。
(2)ところがみんなと同じように毒物を食べたのに、「身体に何の変調も起
   きない人がいたら」と考えます。根拠として、「この人は食べたと見せ
   かけて実は食べておらず、その人が犯人でした」では、ありきたりのサ
   スペンスドラマで平凡になります。そこで観点を、変調を起こさないと
   いう「理由」から「事象そのもの」に移して、「毒物を食べても死なな
   い人間の惨劇」の方向で考えます。つまり、人間の毒に対する慢性化と、
   逆に自然物への抵抗力の低下。そんな時代の到来に直面した人の苦悩に
   スポットを当てるのです。
(3)ドラマは虚構の産物「ウソっぱちの世界」といっても、『根拠あるウソ
   をつく』ことが大事です。「毒物を食べても死なない」と「そんな時代
   の到来」は、現代医学や社会では考えられない「真っ赤なウソ」です。
   したがって当然その根拠をドラマの中で見せる必要があります。
     ※ 探りの糸口としては、「人類の進化論」や「突然変異」などが考
      えられますが、この場はそれを探るのが目的でないので「その作
      業も必要である」に留めておきます。
(4)ドラマの側面となる「殺人事件の捜査」が行われる中、世間の注目は死
   ななかった人間に集まり、医学的解明が進められます。やがて殺人事件
   より大事件となっていきます。「世の中とはこんなものではないだろう
   か」という発想です。
(5)真相が解明されようがされまいが、当事者には今の現実が深刻な問題で
   す。毒物を食べても死なない、そして毒物しか食べられない、さらなる
   現実に直面していきます。つまり、漠然としたものですが「突然変異」
   という根拠を利用して、ドラマの中で「より具体的な現実を見せてこそ」
   真実味を増すと考えます。
(6)これが一人だから珍しいのですが、二人目、三人目と類似的な事象が発
   生します。「大異変か人類の危機か。地球規模に拡がった事変は、やが
   てクライマックスに向かい、直面した当事者や周囲の人々は……!!」と
   考えていきます。


【注意点】
  ◆実際の出来事を発端にしても、決してその現実に捕らわれない、惑わさ
   れない。
  ◆オイシイ部分をつまむ。
  ◆常に「もしも」を考える。
  ◆突飛な発想の裏づけを現実的に考える。
  ◆独創的すぎるとリアリティに欠けるので、その根拠をしっかりさせる。
  ◆根拠を基に逆転の発想を使いこなすことも必要。


 様々な観点から見る姿勢が、ワンパターンの作品を創らないコツです。しか
し、一旦この観点から書くと決めながら、構成や特に脚本に入って別の観点に
移るのは禁物です。毒物に免疫がある人間を観点に書き始めたのに、それを追
う新聞記者のユニークな個性に作者自身が惹かれてしまい、いつの間にか事件
を追う人間のスクープドラマになったのでは、ドラマを最悪にして何の意味も
ありません。
 考えていく中、要所要所で振り返り、自分が創ろうとする観点に沿っている
かの確認が大事です。「優れた料理人は、要所要所で味見をしながら作ってい
く」ものです。


 観点は『テーマ』につながります。「何かの事象を書いただけ」「ある人が
登場して動いて会話したのを書いただけ」ではテーマがあるとは言えず、単な
る「お話」「報告文」にすぎません。ドラマはテーマがあって成り立ちますが、
『テーマの観点』もちょっとした考え方と描き方で、いくつも打ち出せるもの
です。
 こう考えてみてください。
 リンゴを食べて感じることは、「甘い」「酸っぱい」「腹の足しになった」
「血が出たかな?」といったところでしょう。次に、串の棒に刺さったリンゴ
飴ではどう感じるかですが、「甘い」「酸っぱい」「腹の足しになった」……
これでは同じなので、イメージの範囲(観点)を拡げてみましょう。「縁日の
香り」「浴衣姿のおねえさん」「露天商の裸電球」「お父さんの肩車」なども
浮かびます。どこか懐かしく心に沁みる風情は浮かんできませんか。これらを
匂わせてテーマにつなげていきます。
 この印象を踏まえて、「もしも家でお母さんがリンゴ飴を作ったら」と考え
ます。それが、空腹感を癒すだけのオヤツでなく、縁日の懐かしさも思い出し
て欲しいと願う、母親の優しいメッセージなら、母親の料理も『平凡』でなく
なります。そして「お母さん、凄い。美味しいよ。お祭りの日みたいだね」と
子どもが喜ぶことで、素敵なドラマ性が生まれてくるのです。



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