人物像がストーリー展開を生む | 交心空間

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◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

 ドラマ創作で登場人物を設定するとき、その人物と作者(自分)をオーバー
ラップさせて考える人がいますが、これはとんでもない発想です。
 確かに、想定したエピソードに対する「人物の行動や発言」を、作者自身の
個性にあてはめて判断するわけですから、これほどスムーズにストーリー創り
が進むやり方はありません。しかしそうしてでき上がった作品は、登場人物が
どこか似かよっていたり、主人公に都合のいい展開になっているはずです。
 これではドラマとは言えません。自分(作者)を主人公にしたいなら、ドキ
ュメンタリーか自叙伝として書くべきです。『登場人物≠作者』と認識してく
ださい。


 以下に「人物設定のポイント」を示します。


1.想定される人物を列記する
 詳細なストーリーを考える前に想定される人物を書き出します。テーマや素
材が発想の原点だとしたら、まずその観点に適した主人公を考えます。観点を
どこに置くかで主人公も変わってきます。
 記事『平凡と斬新の境目』で述べた事例では、「毒物を食べても死なない人
間の惨劇」が観点ですから、主人公は毒物を食べた人になります。決して事件
を捜査する刑事でもなければ、スクープを追う新聞記者でもありません。彼ら
は、展開上主人公を際立たせる存在(相手役、脇役)です。また、このドラマ
の展開が主人公の家庭も背景とするなら、登場人物には主人公の家族や友人な
ども想定されます。あるいは医学的な解明シーンがあるなら、医師の登場も想
定されます。


記事『平凡と斬新の境目』 (2013年5月22日掲載)


2.人物の位置づけを考える
 列記した人物を、登場(執筆)の度合いや展開上の重要度を考えて、階層的
な位置づけ(人物構図)を作ります。
 記事『平凡と斬新の境目』の事例が事件性を中心に展開するなら、刑事か新
聞記者が相手役《図A》になります。惨劇に耐える主人公を支える家族を中心
に展開するなら、相手役は家族や友人《図B》になります。つまり、人物の位
置づけはドラマの観点に大きく依存するのです。


【事件性を観点にした位置づけの例】《図A》


 ┌──────────── 友人
 │      ┌─ 娘
 │      ├─ 息子
 ├──────┴─ 妻
 │   ┌ 記者
主人公 ─┤
 │   └ 刑事
 └──────────── 医師




【家族愛を観点にした位置づけの例】《図B》


            ┌─ 記者
 ┌──────────┴─ 刑事
 ├──────── 医師
 │   ┌ 娘
主人公 ─┼ 息子
 │   └ 妻
 └───── 友人




3.人物のキャラクター(個性)を考える
 人物のキャラクターは、「性格」「思考・言動・行動のパターン」「生い立
ちや経歴」「人間関係」「社会性や理性」などを把握しておきます。
 そのうえで想定したエピソードを照らし合わせて考えます。また、そのエピ
ソードの対応自体(ドラマ内での経験)が、人物の新たなキャラクターとして
構築され、その後に起こるエピソードの対応を考える根拠になります。
 キャラクターがしっかりしていると、ストーリー展開でバリエーションに富
んだエピソードを設定できます。また、この考え方を応用すれば多彩な展開が
要求される連続ドラマの創作にも役立ちます。


        ※        ※        ※


 魅力的なドラマは『個性豊かな人物』で成り立っています。そして魅力的な
キャラクターとは『ドラマの中で人物が成長する』ところにあります。ドラマ
の開始から終了まで人物に何の変化も見られないのは、一見「備えた個性を貫
いた」と賞賛されそうですが、これはエピソードを替えて似かよった対応を何
度も見せているだけです。
 たとえば「いつでも誰にも優しい」という人物設定をして、どんなエピソー
ドにもキャラクターどおりの対応をしたのでは、ストーリーに展開はあっても、
人物に進展のないドラマと言えます。その人物にも我慢できないことがあり、
周囲も驚くほど激怒するときがあるはずです。人物の『葛藤』を見せてこそド
ラマです。激怒のあとに「これまでとは違った優しさ」を見せて『人間らしさ』
を伝え、新たな優しさが芽生える姿で『成長』が表現できます。