迷子の秘密兵器 | 交心空間

交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

 ゴールデンウィーク真っただ中、快晴におおわれた行楽地はどこも人、人、
人……で賑わっている。となると決まって大忙しになるのが迷子センターであ
る。親とはぐれて不安気に待つ子。自分の居場所をアピールするかのように泣
き叫ぶ子。親の心配を尻目にセンターのおもちゃで遊ぶ子。人間模様さまざま
である。
 ところが最近は、迷子センターでお世話になる子供が減少しているようだ。


 人混みの中で行き交う大人たちの顔をキョロキョロ見る子供の姿がある。
「ボク、どうしたん?」
「パパとママがおらんようになった」
「そりゃいけんねえ。あそこに迷子センターがあるけえ、そこに行ったらママ
が迎えにくるかもしれんよ」
「ええよォ、行かんでも」
 男の子はポケットから携帯電話を取り出すと、慣れた手つきでダイヤルしは
じめた。
「もしもしママ、今どこにおるん?……ボク、さっきソフトクリーム買ォたと
ころ……うんうん、分かる。じゃ、そこまで行くけえ、絶対おってよ。変なと
こ行きんさんなよ」


 ──なるほどね。携帯電話があれば万事解決ってわけか。それにしても、迷
子になり親が迎えにくるまであれこれ浮かべる思いもなく、これからの子供は
育っていくのだろうか。迎えにきてくれる親へのありがた味も携帯電話に掻き
消されてしまう……物憂い時代になったものだ。