別れの情景(1) | 交心空間

交心空間

◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

『別れの情景』  作・坂本 博  語り・岩崎有子  音楽・THEN


  M1 ラララ…… ラララ……
     あなたは私にいつも言ってた
     覚えているでしょうか
     男は後ろは振り向かない
     男はいつか旅立つもの
     そんなあなたに振り回されて
     私はいつだって淋しい思い
     やっとあなたの
     優しさの数々
     気づきかけたら
     別れがきてた


  SE 雨の音
女 「雨……雨の朝だった……別れの言葉はあなたから。突然ね。
 分かってたけど……それから、何にも言わず頷くわ…………あな
 たに出逢ったのは一年半前。私がコーヒーショップでアルバイト
 を始めて一週間が経ったとき……大きな荷物とスケッチブックを
 抱えて、あなたが店に入ってきた」


  SE カランコロンとドアの開閉。
女 「いらっしゃいませ」
男 「この店で、いやいや、世界中で一番うまーいコーヒーいれて」
女 「え?」
男 「今朝、あの山から下りてきて……山ん中じゃインスタントで
 我慢してたからな。ぅんーと美味いの頼むよ」
女 「はい……いい絵、描けました?」
男 「絵?」
女 「だって、スケッチブックとか絵の具とか。見れば分かります」
男 「ァハハ、そうか……あの山に一週間もこもって描いてたけど。
 どうも思うように描けなくって……ァ、そうだ。ちょっとこれ見
 てよ。思ったこと何でもいいから聞かせて」


  M2 (イントロ)


女 「でも私、絵のことなんて分からないから……」


  M2 初めてあなたを見たのは春でした
     若葉の匂う五月でした
     よく覚えています
     初めてあなたとかわした言葉
     そして 初めてのデート


     輝くあなたを見たのは秋でした
     枯葉の舞い散る九月でした
     ボクは目を伏せました
     初めて見たあなたの楽しそうな瞳
     そして 初めてのくちづけ


女 「楽しかったわ……旅をしながら絵を描いていたあなたが、こ
 の町に来て半年。映画を観たり、テニスをしたり……そんなとき
 あなたは、海へ誘ってくれた」


  M3 (インストで海のイメージ)


女 「(M3をBGMに)浜辺を走る私。相変わらず絵のことしか
 頭にないあなたは、キャンパスに海を刻み込んでいたわ……秋の
 海はどことなく淋しいけど、君がいれば明るく見えるよって言い
 ながら、久し振りに思った通りの絵が描けそうだって、喜んでた
 わね……あなたの好きな色、それは白! だから、あなたへのプ
 レゼントは真っ白なベスト!……ァハ、ちょっと大き過ぎたので、
 少し太るかなんて、私のサンドイッチまで食べてしまったわ」


  SE 波の音、FI
  M3 (インスト、アップして終わり)
  SE 波の音が残る


女 「(M3終わって)……そして、夕暮れ……あなたは言ったわ
 ……一緒に暮らそうって」


  SE 波の音、FO