この疑問に答える前にいくつか明らかにしておきたいことがあります。まずは
ウォルターは結果がよく見えていない
これから行きましょう。
ソログッドのプロシーディングに載っている、ウォルターの手が物質化した写真を見てください。
ミナの顔と、そこから不自然に突き出た左手がテーブルを持ち上げています。これは部分的に拡大したものなので、全体写真を見てもらいましょう。
ミナの両手はソログッドが持っています。そしてこの部屋にはこの二人以外に写真を撮っていたアダムスしかいませんでした。というわけで、小型のテーブルを持ち上げているのはウォルターの手なのですが、彼はこのとき「右手」を物質化したと言っていたのです。拡大写真はどう見ても左手ですよね。
ウォルターに限らず、他の霊たちも、物質世界を見えていないのがよく分かる例をもうひとつ書きましょう。
体外離脱を研究するモンロー研究所においてとても優秀な被験者だった、ROMCと呼ばれる女性がいます。彼女は毎週水曜の夕方に実験セッションをしていたのですが、ある水曜日、彼女はその実験をキャンセルしていました。その日は、モンロー研究所の研究に強い不信感を抱いている、ある女性心理学者が訪ねてきました。モンローたちはその女性にたくさんの説明を試み、その末に、実際にヘミシンクを試してもらうことになったのです。この際、ROMCと呼ばれる女性がキャンセルしたために空いていたブースを使うことになりました。
開始後5分くらいして、彼女の声がモニターを通してそこにいたモンローに聞こえてきました。
「ブースに誰かいます」
私はマイクのボタンを押して「確信が持てますか?」と聞いた。
「もちろん確信できます。実際のところ四人いますよ。」
私はもう一度彼女とコンタクトし、「四人いることは確かですか?」と聞いた。
「極めてはっきり彼らが見えます。私の足許に二人、頭の所に二人です。」
私は再度マイクのボタンを押した。「彼らは何をしているのですか?」
「私を私の体から持ち上げようとしてるんですよ、信じられないかもしれないけど。」
ここでモンローは気づきました。時間的にちょうどROMCがこのブースにいて、この見えない存在たちの助けを借りて体外離脱するはずだったのです。つまり彼らはこの心理学者をROMCと間違えて、体外離脱させようとしたわけなのです! モンローは思わず笑い出しながら成り行きを見守りましたが、結局五人目の存在が現れ、持ち上げるべきではないと言い出し、議論になった末に、彼らはやっと別の人だと気づいたようです。実験セッション後心理学者は、呆然となりながら帰っていきました。
こんな風に、毎週会っているはずの女性が別の人になっていても、議論しなければならないほど、その違いに気づいていないのです。他にも例を出せば出せるのですが、長くなるのでこれくらいにします。とにかくまず言えるのは、ウォルターが自分の右親指の指紋の作成に挑み、それが成功したと思っていても、実は他の人の指紋ができていたというのは有り得そうだということです。
次に、
物理心霊現象の結果は、列席者の精神とエクトプラズムによって変わる
これを説明します。
ゴライヤーサークルという、家族で霊現象を楽しんでいた人たちがいます。家族で集まった際に当時はやっていたテーブルターニングを行い、その中のひとりに霊媒の素質があることがわかりました。彼らはしばしばテーブルを浮かせたりしていたのですが、時々ゲストを呼んで、テーブルが浮かないように抑えさせて、どれだけ強く抑えても浮くのを見せたりして楽しんでいました。アイルランドのクイーンズ大学機械工学の講師だったウィリアム・ジャクソン・クロフォードが彼らと出会い、6年間かけて調査した末に本を書きました。詳しくは述べませんが、いかに彼の見つけた結果をいくつ書きましょう。
- 霊媒と浮遊するテーブルとの間に、見えないけれど、手で触ると感じる何かがある(冷たい、柔らかくネバネバしたもの)
- その部分を手で遮るとテーブルが落下する
- この「何か」はしばしば目に見えるようになり、写真にも撮られた
- テーブルが浮遊している間、霊媒の体重がほぼテーブルの重さだけ多くなる
- テーブルを重くしてほしいというと、実際に重くなり、その分霊媒の体重が減った
- 列席者の体重を交霊会の前後で計るとみな、140〜280gくらい体重を失っているが、霊媒はほとんど体重を失わない
心霊研究では、絶対的に超常性が示されたと感じられる証拠と、明らかに不正と思われる証拠とが、同一の霊媒から得られることがよくあります。一般的に本物と思われていながら、反論しようのない不正を行った霊媒で有名なのはフローレンス・クックでしょう。彼女は物理学者ウィリアム・クルックスが研究したことで有名で、彼女がよく物質化していたケイティー・キングの写真が沢山残されています。
フローレンス・クックと一緒の写真も何枚かあります。
後ろのケイティーはまだ物質化の途中のようです。手前でクックが椅子から落ちそうになっています。
この写真にはクルックスとケイティー、そして倒れているクックが写っています。ケイティー・キングは霊の存在を証明するために3年間だけ現れていましたが、こんな印象的なエピソードもあります。1873年12月9日、ある家に呼ばれて物質化のデモンストレーションをしている際、W・ボルクマンという男が「こいつは霊媒だ!」と叫びながらケイティーを捕まえました。それを見ていた法廷弁護士のヘンリー・ダンフィー氏はスピリチュアリスト誌に次のようなことを書いています。
「ケイティーの足首がまず消え失せ、続いて両足が無くなり、あたかも水中の海豹みたいな格好をしてくぐり抜けようとしている。ボルクマンはそれをしっかりと掴んで離さないようにしていたが、ケイティーは消え失せ、肉体の一部らしきものも、衣服の断片らしきものも何も残らなかった。そしてキャビネットが開けられた時、そこには腰をテープできつく巻かれ、結び目はケイスネス伯爵の刻印のついたリングで封印された、交霊会を始めた時と同じ状態のクックがいた。」
なお、クックはこの後数日間、起き上がれない状態になったと言います。エクトプラズムをつかむと、霊媒にショックが伝わるのです。これがエクトプラズム式交霊会の難しいところです。
一方では、ケイティーが去ってしばらくして今度はマリーという霊が物質化していた頃、物質化中にジョージ・シットウェル卿がマリーを捕まえると、それはクック本人だったという事件が起きたのです。以後クックは交霊会の間自分の手足を縛り、さらに自分がこもっているキャビネットに立会人を入れておくことを要求し、それでもマリーを出現させ続けました。
トランス状態で霊現象を生み出す霊媒は、その状態で不正をすることがあるのです。これはフローレンス・クックだけでなく、ユーサピア・パラディーノの研究など、何人かの霊媒で確認されています。実はトランス状態になると、被暗示性が高まるのが普通です。また、通常は特に変わった能力を示さない人でも、深い催眠状態では周囲の人の心を読んだりする現象があります。催眠という手法がまだ確立していなく、動物磁気あるいはメスメリズムと呼ばれていた17世紀後半の頃、トランス状態での異常行動の研究はまだそれほど変に思われず、自由に行われていました。当時の哲学者として名高いショーペンハウアーは著書「パレルガ・ウント・パラリポメナ」において「今日動物磁気やそれによる透視を疑う人は、物事を信じないのではなく、物事を知らないと言うものだ」とまで書いています。こうした研究結果は残念ながら主流の科学から敵視され、一旦忘れ去られてしまいました。しかしここ数年、この頃の研究に少し光が当たってきています。
さて、私が言いたいのは、悪意のある列席者がいると、トランス状態の霊媒はその心に引きずられて不正をする可能性があるし、物理心霊現象の結果も、その悪意によって変わってしまうかもしれないということです。
このように考えていくと、ウォルターが自分の指紋だというものが、実際には生きている他の人の指紋だということがあり得るのがわかってきます。しかしソログッドは、この指紋を詳細に、マイクロスコープまで用いて検査した結果、ウォルターの指紋と歯科医の指紋は、非常に似ているけれど一部が異なると言っています。次回はその差異を紹介し、指紋に関する疑問にさらに踏み込んでいく予定です。