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SIS日記

NPO法人SIS(シス)スタッフによるリレー形式の日記です。
「こころが動いたこと」や「共有したいささやかな出来事」など
スタッフの「想い」を定期的に更新していきます。
どうぞお楽しみに!

ひきこもり問題「就労していない理由」 連載-4

                                                                                
【5】「就労していない理由」……その実情は? (自由記述11人)

◆ アンケート「就労していない理由」で、「自信がない」が8割超、「心の不調」が7割を超えていると書きました。自由記述の文面を読むと、「自信がない」も「心の不調」も「就労していない理由」としてはあまりはっきりとした区別がつけられないところがあります。

◆自由記述(11人)を読むと、そのほとんどが〝人間関係が怖い〟ことが「就労していない理由」になっていることに気がつきます。いくつか抽出してみます。

(1)「過去に就労していたが、人間関係がうまく築けず、コミュニケーションを取るのも怖かった」……だから、(自信がなく)就労していない。
 

(2)「自己否定と対人恐怖が強い今の状態では、仮に社会復帰できたとしてもそこでの人間関係に苦しむことなど分かっている」……だから、(心の不調が回復しておらず)就労していない。
 

(3)失敗するのではないか、怒られるのではないかと(人間関係に)不安で外に出られなくなる。(中略)新しいことに着手できない。……だから、(自信がなく)就労していない。
 

(4)仕事自体より、そこで発生する人間関係に対して気が重い。人間が嫌いなのでなく、人間関係が怖い。(後略)……だから、(自信がなく)就労していない。
 

(8)長期にわたる人間関係がとても苦手。……だから、(自信がなく)就労していない。
 

(10)人(人間関係)が怖い。コミュニケーション能力に自信がない……だから、(自信がなく)就労していない。
 

抽出した自由記述以外の記述にも、よく見ていくと人間関係の影響があることが想像できると思います。

私としては、とくに(4)の声に注目してみたいです。

(4)仕事自体より、そこで発生する人間関係に対して気が重い。人間が嫌いなのでなく、人間関係が怖い。迷惑をかけたり、傷ついたりするのがとても恐ろしい。気を遣わなきゃいけないのが、もう疲れた。つらい、しんどい。自分を演じてしまう。信じられないほどエネルギーをつかう。


 あらためて(4)を読み直してみて、どうでしょう。自分と仕事と人間関係との3つの関係について、これ以上にないほど掘り下げて言葉にしています。『仕事』の場において、とくに『自分』と『人間関係』を巡っては、「気が重い」「怖い」「恐ろしい」「もう疲れた」「つらい、しんどい」「信じられないほどエネルギーをつかう」と、畳みかけるように言葉が繰り出されています。言い尽くせないほどに心情を表す言葉が、絞り出されて来るようです。


(4)の声を聞くことによって、私たちは〝ひきこもり状態〟になる前の〝その人の現場〟に臨場できるような気がします。この(4)の声は、11人の自由記述の重点が少しずつは異なりながらも包摂するようなものではないかと思います。たとえば、(3)「失敗するのではないか、怒られるのではないか」も、(8)「長期にわたる人間関係が苦手」も、(4) の声が言い表していることと重なります。

  『白書』調査900人余、それから数十万人と言われる「ひきこもり状態にあり、仕事に就いていない人」の総ての声を代表しているとは言えませんが、じっくりと噛みしめ、受け取った上でひきこもりを考える手がかりにしたいと思います。
(4)の声は、よく整理された言葉になっているものの、その裾野には言葉未満の〝声〟が無数に存在していると思えるのです。

次回は「生きづらさ」について掲載します。(鮮)
 

ひきこもり問題 連載-3

  「白書」では、「就労していない人の声」を聞いています。


【3】「働きたいと思うか」……「働きたい」気持ち (回答者912人、単一回答)
  「とても思う」「思う」を合計すると
6割になります。「あまり思わない」「思わない」を合計すると3割です。「働きたい」と思っていることが高い割合で存在するのが分かります。3割の「思えない」人にしても、次の「就労していない理由」を見てもわかるように、精神的にどん底のときに「働きたい」なんて思えないんだと思います。

【4】「就労していない理由」……自信がない? (回答者
916人、複数回答)
◆ 「自信がない」(4)が
8割を超え、「心の不調」(2)が7割を超えています。「自信がない」「心の不調」は2つ共に漠然としていますが、後の自由記述を参考にして想像する必要があると思います。「体の不調」(1)が4割を超えていますが、「心の不調」+ひきこもり長期化と連動していることも考えられ、全体として〝心のあり方〟が就労していない実情になっていることが分かります。

◆「望む勤務条件がない」(6)が30,8%、「やりたい仕事がない」(5)が24,6%。これは、「就労した人の声」の【条件面】【内容面】の裏返しとなっていると言えそうです。先に見た「就労した人の声」で「望む勤務条件だった」が26,9%、「自分のやりたい仕事だった」が25,0%でした。数的にも似ています。



次回は、「仕事に就いていない理由」生の声(自由記述)を紹介します。

※この原稿を書いている時点で、ロシアによるウクライナ侵攻は壁に突き当たっている。その一つ。命令されてウクライナ領内に入ったロシアの若い兵、そこで初めて自分がウクライナ人に銃を向ける存在であることを知った! いったい、何なんだ、これは! と。 (鮮)

ひきこもり問題 連載-2


【2】「就労できた理由・就労して感じること」……就労の実際 (自由記述8人)
  就労できた理由および就労して感じることについて、自由に記述されたことを元に考えてみます。8人しか記述していませんが、大まかな傾向は分かります。


◆「勤務先が自分の現状に理解を示してくれた」(1)「週4日4時間の希望に応えてもらった」 (2)は、上記アンケートで見た【条件面】に関わる事例でしょう。こういう条件の存在はたしかに心強いことです。その理由は、自らを保持できる条件が存在するからです。
                                                                                
◆「『自分のペースで働く概念』を知って、仕事に行きやすくなった」(3)は、就労先の【条件面】にかかわる理解というよりも、自らの内面において〝働き方への物差し・構え〟を持つことができたということです。これは、とても心強いことです。選択権は自らにあるという発見だからです。だとすれば、この(3)のケースはひきこもることの意味と意義を示唆するものと言えそうです。このことは、順次考えていきたいと思います。

◆「生活のため、回復していなくても働くしかない」(4)、「つながりが切れてしまう危惧があった」(5)は、やはり上記アンケートで見た【経済面】および【文化・自由(保証)面】でしょう。

 さて、自由記述8人のうち(6)(7)(8)の3人は、ひきこもりから脱して就労したが〝きつい〟という趣旨のことを書いています。ここには、私たちが考えなければならない問題が詰まっていると思います。ひと言で言えば、果たしてひきこもりにとって〝就労がゴールなのか〟ということです。

◆「本当はひきこもりたいが親に許されず……精神的に非常にきつい」(6)は、ゴールのあり方と場所を本人でなく親が指定したということでしょう。「今でもひきこもりたい誘惑にかられる。十分に心、身体が改善したとは思っていない。」(7)は、心と身体の不調があるのに就労がゴールだと見なされるなら〝人生にとって働くとは何であるのか〟ということです。 「自分に合わない仕事で毎日死にたくなる」(8)は、「自分に合わない仕事」に就労せしめた〝力学〟は何か、また当人がそれを本人が受容した背景や心境には何があるかなどしっかり検討してみる必要がありそうです。

◆「生活のため……働くしかない」(4)、「つながりが切れてしまう危惧があった」(5)の2つには就労して「きつい」という表現は見当たりません。ただし、この記述には〝余儀なく就労した〟ニュアンスが見え隠れしており、グレーゾーンかと思われます。


  以上のように、こうして「就労した人の声」から浮かび上がってくるのは、やはり、ひきこもりにとって果たして〝就労がゴールなのか〟ということです。であるならば、話は振り出しに戻ることでしょう。ひきこもりとは何なのか、どういう状態のことをひきこもりと呼ぶのか、そのひきこもり状態からの回復とは何か、ひきこもりからの回復と就労との関係をどう捉えるか、などです。
 とくに、自由記述8人の具体的な声は〝就労がゴールなのか〟について、一定の答えを出しかけています。それは、〝自分が自分らしくあり続けられる〟ことによるのではないかではないでしょうか。


 『白書』は、ひきこもり状態にあり、仕事に就いていない人の声を取り上げています。次回、考えてみたいと思います。

 

※ウクライナ出身で歌手・バンドゥーラ奏者のナターシャ・グジーさん。パブロ・カザルスの「鳥の歌」をウクライナ語で歌ったり、ジブリの曲を演奏したり、チェルノブイリ原発事故避難者とヒロシマを結びつける活動をしたりしています。(鮮)