こみゅにけーしょんぶれいくだんす。
駅のベンチにずっと座っている。 別に電車が来ないわけではない、人を待っているだけだ。
そうこうしていると、ベンチの逆側のはじっこに、ひとりの男性が腰かけた。 やせ形で、目がぎょろっとして、背中まで伸びた髪を後ろでくくった、一癖も二癖もありそうな男だ。
ほどなくして、電車は来たのだが、待ち人は来なかった。 一方、長髪の男性も人を待っているのか、ベンチに座ったままである。 人を待つ長髪とおじさんという、誰も望まない風景が、このまま続くのかと思われたが、それは、ひとりの女性の声で打ち消された。
ハーイ!
まさかの外国人。
長髪の男性は、この金髪の美女を待っていたようだ。 人は見かけによらないというのか、いや、この場合、見かけのまんまなのか。 美女は、男性のとなりに腰かけた。
「ペラペラ、ペラペーラ」
「あー、うん、どうしようかな」
「ペラペラ? ペラ、ぺペラペーラ」
「それは先週の話でしょ?」
英語と日本語で会話をするふたり。 これはアレか? バイリンガルの人は、バイリンガル同士で話すとき、ついつい、自分の話しやすい言語で話をしてしまうというアレか?
「ペラペラ? ペラペーラ?」
「あー のーのー! らすとういーく のーぷろぶれむ」
「ペラ? ペラペラ?」
「のーぷろぶれむ ふぃにっしゅ おーけー?」
突然、明らかにカタコト英語で話しだす男。 話す内容が、ほぼ、「らすとういーく」「のーぷろぶれむ」「おーけーおーけー」だけで構成されている。
翻訳アプリを使ってコミュニケーションをとりはじめるふたり。 最初の日本語と英語の会話はなんだったんだ? まったく通じてなかったのか? だとしたら、どうしてなんとかなると思ったのだろうか? ふたりは、おそらく要領を得ていないであろう会話を続けている。
男性のほうは、翻訳アプリの訳をみて、首をひねったりしているので、おそらく、単純に会話の内容が込み入った話になっていて、苦労しているだけなのだと思うのだが、はたから見ていると、『最初からアプリを使えば良かったのでは?感』が拭いきれない、そんなふたりなのであった。
ちなみに
ぼくの知り合いが駅について、電車に乗り込む際も、ふたりはスマホを見せ合っていたので、ふたりの会話がその後どうなったのかは、ぼくにもわかっていない。
ぼくの人生につづく。
こーくすくりゅー雀鬼。
近所に昔からあるラーメン屋。 美味いという評判も、かといって、不味いという話もなく、最寄りの駅といえば、ふたつの駅の丁度、中間あたりで、立地も良いわけではなく、駐車場もない。 にもかかわらず、この店がつぶれないのは、
建物の二階に
雀荘があるから。
……などといわれていた。 雀荘に遊びに来たお客さんが、出前を取るので、それでなんとかなっているのだとか、みんなで好き勝手にいっていたのである。 実際、そのラーメン屋が混んでいるのを見たことがないし、ぼくを含めて、この店でラーメンを食べた人がいないので、なにか理由があるとしか思えないのだ。
そんな謎のラーメン屋、先日、久しぶりに店の前を通った。 コロナ禍で、大変であろうと思うのだが、相も変わらず、客の気配がないのに健在である。 雀荘の看板もまったく同じで、持ちつ持たれつで、頑張っているのだろう。 頑張っているのであろうと思ったのだが、二階の雀荘を見上げると……
吊り下げられた
サンドバッグ
窓際に並べられた
ボクシンググローブ。
これ
ボクシングジムじゃない?
二階の雀荘が、どうみてもボクシングジムなのである。 最近変わったばかりで、看板を外していないのかな? と思って、生まれて初めて、このビルの中をのぞいて見たのだが、入り口にもしっかりと雀荘の看板が出ている。 どういうこと?
ポン!
リーチ!!
ロン!!!
ってこと?
まぁ、いつのまにか雀荘がつぶれて、雑なジムオーナーが、看板も店の入り口もまったく変えずにボクシングジムを始めただけだとは思うのだが、ひょっとすると、なぜだかつぶれないラーメン屋の上で、ボクシングと麻雀が融合した、謎のスポーツが誕生しているのかも知れない。 そう考えると、…… 特になにも感情が湧いてこない、ぼくなのであった。
あるいは
雀荘という名の
ボクシングジム
ぼくに人生につづく。