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『しのゼミ』

日常で出会った「気付き・笑い・学び」を綴っています

「寵過ぐる者は,怨の招なり.昵甚しき者は,疎んぜらるるの漸なり.」

『上の人や同僚から,余りに可愛がられるとそれがかえって怨みを招くことになる.また,余りになじみ過ぎると,かえって疎遠になる基を造るものだ.』

(「言志四録」佐藤一斎著/川上正光訳 講談社学術文庫)






<しの訳>

ビジネスにおける人間の「距離間」は難しい.

そんな人間関係なんて,

無理せず自然に任せておけばええんちゃう?と思ってしまうが,

そうはいかぬ.

どうしても自分の好きなタイプ・やりやすいタイプができてくるし,

そんなヒトにはすり寄ってしまいがち.

当たり前だけれどもその逆のパターンもあるワケで・・・・・.

自分に合うタイプのヒトだと自覚したら,

あえてそのヒトとの距離を少し離し気味にしてみる.

それくらいの「距離感覚」でいいのかもしれない.
小学6年の長男いっ君が本にハマっている.

赤川次郎と北杜夫が現在のお気に入り.

プチブーム中は一日でヘタすると1~2冊読んでしまう.

そうなると本代もバカにならなくなってきて,

じゃあ図書館に連れてけっとなったワケであるが・・・・・



閉館間近の図書館.

父がいっ君を連れて行ったが,

いっ君の読みたい本が見つからない.

蔵書検索したところ,

閲覧棚には置いてないようだが,

図書館奥の書庫にはある模様.

「ないみたいやから,時間も遅いし,あきらめえ」と言っても,

「イヤや,どうしても読みたい!」とこだわりを見せる.

人もまばらになった図書館では,

閉館時間を告げる放送が鳴っている.

また明日来れば・・・と一瞬思うが,

あきらめる前にもう一度やってみろ・・・

なんてエラそうなことを日頃言っている手前,

無駄足にするのは面目が立たぬ.

・・・・・しょうがない・・・頼んでみるか・・・・・

「閉館間際ですいませんが,これを借りれますか?」

差し出した検索シートに受付係のヒトはイヤな顔も見せずに,

「いいですよ.ちょっと探すのに時間かかりますが・・・」



「・・・お待たせしました」

ようやく手にできた赤川次郎を見ていっ君は満足気.

「よかったな,いっ君・・・・・.遅くにすいませんでした」

時間ギリギリだったがなんとか辻褄を合せることができて,

父もホッと一息である.



帰る道すがら,

いっ君の借りた本をちらっと見てみると,

表紙には「女社長に乾杯 下巻」とあった.


・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・なんで・・・・・

・・・・・下巻?・・・・・

・・・・・おい,いっ君・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・


問い詰めてみると,

蔵書検索した結果をプリントする時に,

「女社長に乾杯 下巻」と「女社長に乾杯 上巻」があって,

どっちにしようかな・・・と思って,(そんなとこで迷うなっ)

五十音順で上にあるやつでいいか・・・って思って,(上下よりも意味を考えって)

わざわざ「下巻」を選択したらしい.


・・・・・くぅぉのドアホがっ!・・・・・


「この本は上巻の内容を想像しながら下巻から読め!」

父の命令にいっ君は珍しく「・・・うん」と答えた.
ガンが隠れている.

どっかには隠れている.

胃ガンで手術になり,切り取られた胃袋の中.

探しても探しても,しかしガンは見つからない.



手術前の検査である「胃生検」では,確かにガンが出ている.

手術で取り出した胃にくっついているリンパ節にもガンが転移している.

・・・ってことは,必ず胃のどっかにはガンがいるはず!.

ぜったいに,おる!.

胃袋の中での生検が取られた場所も,内科の先生から教えてもらった.

このへんにおると思うよ・・・って,外科の先生にも教えてもらった.

(どこにいるか)わっからへんから多めに切ろうねって話し合って,

胃のほとんどを刺身のように切り刻んでたくさん標本を作ったのに,

その標本を舐めるように時間かけて検鏡したのに,

ど~~~うしても見つからん.



仕方がないので,

ここがあやしい!という場所の標本ブロックのいくつかを,

技師さんに頼んで100μm刻みに切ってもらったが,

これでもかあ~ってくらい切ってもらったが,

それでも出てこん.

最初は「ガンがない?・・・やりましょう!」って,

二つ返事で再薄切を引き受けてくれた技師さんも,

次には「えっ?まだないですか・・・」となって,

だんだん「え~,またですか・・・」とあやしくなり,

とうとう「え”~~ぢょっとお~」って濁ってきた.

今度頼んだら,

「え”か”け”ん”に”せ”~」って,

濁点にまみれてしまいそう・・・・・



どっかへ行ってしまったもんはしょうがない・・・

きっと探してほしくないんだろう.

そっとしておいてやるか.

彼には彼の生き方があるし.

そうかそうだなそうしよう・・・

・・・とは決してならん.

何が何でも見つけ出し,

どんな顔をしてるかをしかと見て,

こんな顔しとるからあちこちに転移しやがってこの野郎しょうがねえ奴,

・・・って感じにまとめないと,

収拾がつかん.



どこ行ったんじゃ~?

もうかくれんぼは終わり.

頼む!

出てきてくれ~.
とある天然芝のグランドにいる.

ピッチのど真ん中でプレーしている自分.

その足下には,とりあえずキープしたサッカーボールがある.

どうやらフリーでボールを持たせてもらっているが,

おそらくそれもほんの一瞬なはずで,

すぐ近くに迫るディフェンスの気配を感じる.

ゴール前では味方フォワードが相手ディフェンスの裏をとろうと狙っている.

相手ディフェンスラインの下がりが中途半端で,

ゴール前がガラ空きなのだ.

自分に与えられたこの瞬間に,

この一瞬のタイミングを逃さずに,

ディフェンスの頭を越して,

やわらかタッチの浮かせたボールを,

ゴール前のキーパーから5~6m前あたりに,

ふんわりと落とすことができたなら,

確実に得点機を演出できるであろう.

そのパスするボールは,

ゴール前で失速するような,

スピンがかかってゴール前で止まるような,

そんな弾道であることが望ましい.



味方フォワードの飛び出そうとする気配.

さあ今だ.

瞬間的にパスの弾道をイメージして,

スピンをかけるために,

地面とボールの間に,

つま先をねじ込むように蹴りこんで・・・・・・・・







どんっ!






「痛~っ!」






寝静まった真夜中に,

壁を思いっきり蹴とばして,

その痛みで目が覚めた.



よりによって,

つま先で「トウキック」したようで,

親指の爪を壁にしこたま打ちつけた模様.

痛いのなんのって,

完全に目が覚めてしまって,

夢の続きはどこへやら消え,

キラーパスの行方は知れず・・・・・.



これを夢占いすると,

「人生のターニングポイントで少し焦っている」

なんて感じになるんだろうか・・・
「お~う,シノ・・・」

ノックもせずに同級生の某外科医JOが病理の部屋にいきなりやってきた.

「お~う,JO・・・,なんかあった?」

「あのなぁ.この病理報告書,ちょっと見てよ」

プリントアウトした病理報告書を手にしたJO.

いつもは饒舌でアホな話から入る彼だが,この日は様子がチト違う・・・.

「・・・あぁこれかぁ,覚えとるよ・・・」

「・・・これって,病理診断のところに〇〇,compatible withって書いとるけど・・・・」

「あぁ,よく書くよ」

「このcompatible withって,どういう意味?」

「辞書を引けや,辞書を・・・」

compatible withというのは,「〇〇と考えても矛盾はしない」という意味である.

そんなことは英和辞書を引けば書いてあるが,なんで病理診断にこんなことが書いてあるのか?というのが質問である.



説明が長くなるのでめっちゃええ加減にしておくと,

要は顕微鏡をのぞいても診断が決められん病変があるということ.

たとえば,病態が「形態変化」としてあらわれにくかったり,病理よりももっとふさわしい検査法があったり,サンプルが不適切だったりする場合.

そういうケースに対して病理診断ははっきりと断定的につけることができない.

したがって「〇〇,compatible with」(〇〇で矛盾せえへんちゃう?)と書く.

もうちょっとストレートにぶっちゃけで言うと,

「〇〇っちゅう診断をつけたいんなら,あんたらで決めてくれ,わしらは知らん」

というような,

逃げ逃げっちゅうか責任回避的な言い回しである.



「ちょっと言いにくいけど・・・・・このcompatible withって取れんの?」

「・・・ってことは,言いきってほしいってこと?」

「まぁ・・・いらんもんは取ってもええんちゃうって言うか・・・・・」

「気持ちは分かるけど・・・(上記説明)・・・っということでなかなか言い切れんこともあるよ」



治療を行う場合に病理診断がはっきりというかしっかりと決まっていることが前提となる.

よって治療する医師側からすると,診断をハッキリ言い切ってくれないと困る.

だからごまかさずに言い切ってくれ・・・ということになる.

でも言い切れんもんは言い切れん!

言い切りすぎたるは言い及ばざるがごとしであって,

言い切れんもんを言い切ったら,

病理医のレーゾンデートルの根幹が揺らぐ.



「ちょっと言いにくいけどな,シノ・・・・・」

「まだあるんか?」

「・・・・・この矛盾しないって,ちょっと使いすぎちゃう?」

「うっ・・・・・・・(スルドイ指摘)」

「なんでもかんでも矛盾しないって書いてある感じやし・・・・・」

「・・・・・・・」

「うちの科でもいろいろ言われてるで~・・・・・」

「・・・・・・・」



悪い評判はできれば聞きたくはない.

こちらの言い分も聞いてくれ~と,情けなくなるし腹が立ってくる.

しかし,それは往々にして自分たちの足りない部分を的確に指摘している.

だからそんな評判から取捨選択して,

ヒトの顔色を伺うのではなく,

正しいと思ったことをするのみである.



「わかったわかった,JO,ありがとう」

「お~,わかってくれたか」

「ああ,言いたいことはな.でもこれは変えれんよ」

「・・・・・そうか」

「悪いな,JO」



・・・でも・・・

・・・ホントは・・・

「矛盾しない」を連発する自分の語彙の貧困さを指摘されたみたいで,

内心いたくプライドが傷ついた.

自分は,

これでもけっこう,

文章にはこだわりたいタイプである.

たとえ病理報告書でも,

その気持ちは変わらない.

これからは,

同じ文書表現はなるべく使わないように工夫してって,

・・・・・・・・・まぁ無理か.