『しのゼミ』 -28ページ目

『しのゼミ』

日常で出会った「気付き・笑い・学び」を綴っています

新型フルの休校措置により中間テストが無くなった新中一の長男いっ君。

放っておいたら何もしないので,ここは上手に勉強へと誘ってやることが必要かもしれん。

っと言っても,父が役に立てることなどあまりない。

ヘタに口を出すと,かえって逆効果になる。

何かいい手はないか・・・と,いっ君部屋の机上を漁っていると,地理のプリントが置いてある。

世界の国名と首都名を暗記するプリント。

これなら,なんとかなるかも・・・・・



「ヒマ~~~」と,セイウチのようにソファーに寝転ぶいっ君。

「ほんならいっ君,地理の勉強しよか」と話しかける父。

「勉強には,口挟まんといてよ」と拒絶されるが,なんとか勉強部屋に連れ出すことに成功。

例の地理のプリントについて問うと,自分で調べて覚えるようにということらしい。

「なら,お父さんにも覚えさせてくれ」と,地理のプリント暗記を一緒にするように仕向ける。

まずは,何も見ないでプリントを埋めてみると,2割くらいしか埋まらないいっ君。

イギリスはわかる。

しかしイタリアやフランスがどこにあるかわからんらしい。

地理には興味がないので,ありったけの知識でこれくらいなのも無理からぬところか?

「イタリアはここや,見てみー,ブーツみたいな形してるやろ?」

「ブーツって何?」

・・・ダメだこりゃ。



次に,地図で調べてプリント空欄の国名と首都名を埋めてみる。

それを丸暗記するんだが,こういう暗記モノはクイズ形式で遊びながらやると覚えやすい。

「ならいっ君,20分でヨーロッパとアジアの国と首都を覚えよか?その後にテストやで~」

「問題に全部答えられたら,DVD一本ね」

・・・あくまでも目前のニンジンをはっきりさせるいっ君。

ところでクイズ形式で問うには,ある程度こちらも知っていなければならぬ。

特に東欧や元ソ連がややこしい。

初めて聞く地名もあるので,自分も丸暗記が必要になってくる。

ユーゴスラビアがあれへんし・・・しかも幾つに分かれてんねん・・・

リトアニアがビリニュス・・・か・・・ビリのニュースと・・・

スリランカは・・・スリじゃ,やー,悪だなぁっぷらこってぇ~・・・えらいこっちゃ~・・・



20分経過。

父もなんとか一通りは覚えてみる。

けれども,モンテネグロのボドゴリツァとかスロバキアのブラチスラバとかスロベニアのリュブリャナはなかなか覚えることができない。

それ以外はなんとかなるか。

「じゃ~問題や。マケドニアは?」

父は勇んで問うてみるが・・・・・



・・・いっ君はウトウト睡眠中。

「オイ!なんで寝てんねん!」

「・・・ハァ~・・・眠い」

「マケドニアは?覚えた?」

「え~っと・・・アテネ」

「ブーー!」

「なこと言われても知らんわ,そんな国」

「知らんから覚えるんやんか」

・・・結局,半分くらいしか覚えることができなかったいっ君。

父が地理の勉強を楽しんだに過ぎなかったのかもしれん。




▼ 自宅では・・・

件の新型インフルの影響にて,長男いっ君の通う中学校は休校中。

件の事情で休校中は自宅待機しなければならぬ。

加えて,この休校期間に中間テストの日程がちょうど重なっている。

入学後はじめての定期テストになるが,延期はせず“やむなく”中止と決まる。

学校の集団発生が発端という事情を鑑みると,已むを得ない対応と思えるが・・・・・

テスト中止が決まったいっ君はご機嫌だ。

「ラッキー!・・・たまにはエエことあるわ」と,勉強はもうそっちのけ。

いきなり近所の元・友人に電話して,バスケする約束を取り付けようとする。

「いっ君,そんなバスケなんてあかんに決まってるやろ!」と慌てて止める母。

「熱もあらへんし,新型インフルエンザなんて怖くないし」

「伝染ってるのがまだわからん潜伏期ってのがあるから,罹ってるかもしれんでしょ?」

「なんやねん,潜伏って」

「とにかく,休校中は外出禁止やからね」

「ハイ,ハイ」

母にキツク言われて,なんとか濃厚接触付きの遊びは思いとどまらせる。

が,「ヒマや~~なんもすることねーやん!」と不平不満タラタラないっ君。

「インフルエンザなんて流行らせて,メキシコは豚やし,迷惑やし!」と暴言を吐き続ける。

あまりの傍若無人ぶりに手を焼くシノ家。



▼ 外では・・・

しょうがないので,室内レジャー用にDVDをレンタルしに行く父。

子供のお使いで,なぜ自分がわざわざ出向かなきゃあかんのか・・・

レンタル店で要望の品を借り,自宅に帰ると,待ちきれないいっ君が自宅前でお待ちかねだ。

あれほど外出するなっ!ちゅーたのに・・・

とうとう,父もいっ君に対して声を荒げてしまう。

「おまえなぁ,外へ出るなっちゅーたやろ!」

「前で待ってただけやん!」

「そんでもあかん,言うこと聞けや!」

「これくらいならええやん!」

・・・「あかん」「ええやん」という,あまり意味のない押し問答。

そうしていると,そこへ近所の奥さんが通りかかる。

すると「あっ,こんにちは」と,元気且つさわやかに挨拶するいっ君。

なんやこいつ,急に優等生になりよって・・・・・

「あ~ら,いっ君。明日,うちの〇ースケと遊ぶ約束,どうするん?〇ースケは楽しみにしてたけど」

「ハイ,でも休校中なんで,自宅で待機しなあかんのです」

「そうやわね」

「ボク,潜伏してるかもしれんのです」

「元気やし,そんなことあれへんって思うけど」

「でもわからんので,〇ースケ君にはまた今度ってゆーといてください」

「じゃあ,また今度ね」

「ハイ,じゃあ失礼します,さよなら」

「さよなら,さすがいっ君やね,ウチの〇ースケに今の言葉,聞かせたいわ・・・」



いちおう件の事情は理解しているらしいいっ君。

それにしても,このイヨーに外面がいいのは,どういうこと・・・・・?



先日の夕方に。

実習医学生・武佐苦クンの電子カルテアクセスカードが,病理部に置き忘れてあったらしい。

「医学部 学生 武佐苦○○」という所属・名前が記してある大切なアクセスカード。

これがないと,電子カルテを読むことができない。

気づいた秘書さんが知らせてくれたからよかったものの,紛失したら大変だ。

再発行には手間と時間とお金がかかる。

それに電子カルテが読めないので,病院実習の体を為さない。



秘書さんから預かった彼の大切なアクセスカードが,なんとも変わっている。

カードには顔写真が印刷されているんだが,その上にわざわざ細胞の写真が貼ってある。

どうやら好中球の顕微鏡写真のようだ。

何でこんなもんを貼ってるのか?

何を意図して?

何を狙って?

・・・ワケわからん。



次の日,アクセスカードがないと慌てている武佐苦クンに,「これやろ?」と渡してやる。

「あれ~,やっぱ忘れてましたか?ありがとうございます」

「それはええけど・・・貼ってあるその好中球って何やねん,それ?」

「自分の好中球です」

「ホントにおまえのか?」

「そうっす」

「なんでまた?」

「検査実習の時に,採血した自分の血をギムザ染色する機会があったので,頼んで写真を撮ってもらいました」



確かに自分の顔写真をグーグルアース的メッチャ・ズームインすると,原理的には細胞一個一個が見えてくるはず。

なのでメッチャ拡大解釈すれば,顔写真のドアップと言えん事もないが・・・

それにしても,何故そんなアホなことをしているのか?

たぶん遊び心なんだろうが・・・ちょっと外れてるっちゅーか。

かなりズレてるっちゅーか。

そんな変わり者の武佐苦クンに,なぜか親近感が湧いてくる。

それはそのズレ具合が,自分に似ていなくもないからか?





「一物の是非を見て,大体の是非を問わず。一時の利害に拘りて,久遠の利害を察せず。政を為すに此くの如くなれば,国危し。」

『一つの物が道理に適しているかどうかを見て,全体の是非善悪を問わない。
また,一時の利害に拘泥して,永久の利害を考えない。
もし,政事を担当するものがこのようであれば,国家は危険である。』

(「言志四録」佐藤一斎著/川上正光訳 講談社学術文庫)






<しの訳>

政治に限らず,目の前の一事のみをクリアして,その場さえしのぐことができれば・・・と考えがちだ。

木を見て森を見ずはダメ。

問題先送りはダメ。

そんなことをしていると,そのうちロクな事にはならない。

・・・・・そりゃそうかもしれん。

この考えは,生き方一般にも当てはまる気がする。



毎日の雑事に追われて,それをこなすのに精一杯な自分。

なんとか時間内にこなせれば,それで満足してしまう。

時間が余れば,普段出来ない調べ物やコミュニケーションなどに割けばいいものを・・・・・

そうして,初心というか本来の目標を見失いがちになる。



「生活を為すに此くの如くなれば,ヒト危し」

全体と永遠(=理想や夢)を想おう。



医学部6年の学生が実習に来ている。

6年生前期は,自由選択で臨床科に実習に行くことになる。

病理に興味がある子もいて,わざわざ実習科として病理を選んでくれる。

しかしそれは実は例外的で,大体は何かの機会に知り合った子だったり,お酒が好き?だったり,中には病理って楽チン?だから・・・という理由が多いようだ。

まぁいろんな学生がいるが,手抜かず分け隔て無く教えるだけだ。



今月の学生は,パッとせんむさ苦しい男子が一人。

「武佐苦クン」とでも名付けよう。

この武佐苦クンに「病理ってどうよ?」と聞くと,

「将来の選択として病理医も考えてます」という優等生的答えが返ってくる。

それはいいんだが,なんかこう・・・地味というか,奥手というか,引っ込みじあんというか・・・そんな印象の学生だ。

生意気さというか勢いだけというか視野が狭いというか強引さというか・・・・・

そんな学生らしさが感じられない武佐苦クン。



早速,手術材料の切り出しを見学してもらう。

後ろに立たせて説明してやるんだが,あれやこれやとやたら周りに気を使う。

「ボク,邪魔になっていないでしょうか?」

「ボクのために,みなさん迷惑してないでしょうか?」

そりゃあ邪魔で迷惑と言ってしまえばそうやけど。

そんなに周りに気使ってもしゃーないやん・・・

「おまえなぁ,学生やから実習して学ぶ権利があるやろ」

「ハイ」

「なら,堂々としとればええやん」

「ハイ」

・・・そう言われても,やはり「あっ,スイマセン」などとモショモショ謝っている武佐苦クン。



「じゃあ,HE染色でもやってみるか?」と武佐苦クンに聞いてみる。

実習たるもの,やっぱ実際に手を動かさないとダメだ。

顕微鏡をのぞいての診断以外にも,切ったり染めたりと出来ることはたくさんある。

まずは,病理の染色の基本であるところのヘマトキシリン・エオジン染色をマスターしたらどうだろうか?

すると,「やったことないので分かりません」と悲しい答えが返ってくる。

その答えを聞いて少しカチンとくる自分。

当たり前やン。

初めての病理実習やし,やったことあるワケないし,そんなこと期待してない。

やったこと無いことをやってみるかと聞いているのに,やったことないですとはどーいうこっちゃ?

なんかおかしいぞ,こいつ。

「あのなぁ・・・この部屋では“やったことない”とか“分かりません”と言うな!」

「ハイ」

「〇〇がやってみたい,と言え!ええか?」

「ハイ」

・・・返事だけはいい武佐苦クン。

この実習が彼のためになるかどうか・・・・先が思いやられる。