映画「半世界」この一生だけでは辿り着けないとしても | 忍之閻魔帳

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▼映画「半世界」この一生だけでは辿り着けないとしても

 

(c)2018「半世界」FILM PARTNERS

 

「顔」「KT」「魂萌え」「闇の子供たち」と次々に話題作を発表する

日本映画界の奇才・阪本順治監督の新作は、新しい地図の稲垣吾郎を主演に迎えた

オリジナル脚本による人間ドラマ「半世界」。

40歳を目前に控えた3人の幼馴染みが、折り返し地点に立った想いを抱えながら

日々懸命に生きている姿を描いている。

共演は長谷川博己、渋川清彦、池脇千鶴、杉田雷麟、小野武彦、石橋蓮司。

第31回東京国際映画祭コンペティション部門では観客賞を受賞している。

 

 

父親の跡を継ぎ炭焼きで生計を立てている主人公・紘(稲垣吾郎)、

一家で中古車屋を営んでいる光彦(渋川清彦)の暮らす小さな町に

自衛官として働いていた瑛介(長谷川博己)が突然舞い戻ってきた。

誰も住まずボロ屋になっている実家を掃除してまた暮らすという瑛介を歓迎する二人。

しかし、同級生だった3人は40歳を目前にして皆それぞれに悩みを抱えていた。

紘は息子の気持ちを汲み取ることが出来ない、瑛介は未だ独身で親兄弟と同居生活、

瑛介は心に大きな傷を負って帰ってきたようだが、詳しくは話さない。

行きつけの店で想い出話に花を咲かせながら、ゆっくりと時間は進んでいった。

 

(c)2018「半世界」FILM PARTNERS

 

近年は「北のカナリアたち」など、”らしくない”仕事もこなしていた阪本監督が

久々にやりたいことのど真ん中の描いてきたなという印象。

私の大好きな「顔」や「大鹿村騒動記」を思わせるテイストに

昔からの阪本ファンは大喜びに違いない。

公式サイトのストーリー紹介に書かれている

 

40歳目前、諦めるには早すぎて、焦るには遅すぎる。

 

とのワードにビビッと来た方ならば、必ず琴線に触れるはず。

自分の中にまだ芯が定まっていないため

腰を据えるにしても悪足掻きをするにしても躊躇してしまい、

決断力・行動力に欠ける自分自身を歯痒く感じる。

若くして大成功を収めた人物でもない限り、

似たような迷いや焦りを40手前の男は誰しも抱くのではないか。

新しい地図の一件にインスパイアされてこの本を書いたのかは不明だが

敷かれたレール(父親の仕事)をさしたる疑問も持たずに引き継ぎ、

妻や子供にも恵まれ、贅沢さえ言わなければ安泰だったはずの人生に

どこか物足りなさを感じている紘の心情を、稲垣が上手く表現している。

キャスティングを聞いた時には草彅剛の方が適任ではと思ったりしたのだが

妻や子供が居てもどこか掴みどころのない紘の人物像を考えると

生活感の無い稲垣にオファーを出した監督はさすがだ。

息子の心情を理解しない鈍感さも良い意味でハマっている。

息子を演じた杉田雷麟も、ぶっきらぼうな会話の節々から

ちゃんと愛情を欲する寂しさが滲み出ていて良い。

同級生役の長谷川博己は事実上のW主演。

静と動の芝居を見事に使い分けて、物語の影の牽引役になっている。

 

(c)2018「半世界」FILM PARTNERS

 

自衛官として後輩にも慕われていた瑛介には、紘や光彦の生活が呑気に映る。

紘には田舎を飛び出していった瑛介や、賑やかに暮す光彦が羨ましい。

光彦は家業に縛られたまま独身で四十路を迎えようとする自分が情けない。

自分にない部分ばかりが眩く映り、手の届くところにある幸せには鈍感になる。

他の道を目指すには背負うものが多過ぎる(重過ぎる)し

かと言ってこのまま老いていくのも悔いが残りそうな気がする。

 

僕の命を僕は見えない
いつのまに走り始め いつまでを走るのだろう
星も磔(こいし)も人も木の葉も
ひとつだけ運んでゆく 次のスタートへ繋ぐ

この一生だけでは辿り着けないとしても
命のバトン掴んで願いを引き継いでゆけ(中島みゆき「命のリレー」)

 

この前の「チコちゃんに叱られる!」の総集編で、

年をとると一年が早く感じるのは、感動することが減るからだと言っていた。

同じことを繰り返すだけの毎日は足早に過ぎるものらしい。

しかし、この物語で最初から最後まで迷い無く行動し笑っている人がいる。

池脇千鶴演じる初乃の父である吉晴(小野武彦)と、光彦の父・為夫(石橋蓮司)だ。

40手前の3人が見た世界が半分なら、その父親の世代なら7割方は見ただろうか。

いや、もしかしたらもっと少ないまま田舎暮らしで人生を終えるのかも知れない。

それでも父親達は実に良く笑い、シャキシャキと動き、感動の少ない日常を謳歌している。

「大鹿村騒動記」で出てきた老人達のように。

まだ見ぬ世界の何割かを残りの人生で探し求めるのではなく

自分の知らない何割かを誰かの目や意見を通して埋めて、

それでも完成しない地図は空白のままでいいじゃないかという潔さ。

あの域に達するには、あと何年生きれば良いのだろう。

「こっちだって人生なんだよ」と声を荒げる紘の気持ちが、今の私にはまだ良くわかる。

それだけに、この作品がとても愛しい。

 

 

 

『THE・阪本順治作品』といった作りになっているので

稲垣吾郎主演作という響きにいくらかの華やかさを期待している方には不向き。

45歳という実年齢なりの衰えもそのまま見せていて、私はとても好感を持った。

(髭を伸ばしても炭まみれになっても汚し切れないのは演技力云々の話ではなかろうし)

これからどう生きようかとの迷いに答えをくれる作品ではないが、

「迷ったまま生きていけばいいじゃないか」と背中を押してくれる良作だ。

 

映画「半世界」は2月15日より公開。


▼併せて観たい阪本順治作品 その1「大鹿村騒動記」

 

配信中■Amazonビデオ:大鹿村騒動記

 

南アルプスと大鹿歌舞伎がウリものの長野県下伊那郡・大鹿村。

村人の間で300年に渡り受け継がれてきた伝統ある大鹿歌舞伎を軸に

村民達の悲喜交々を詰め込んだ阪本監督らしい人情劇。

阪本作品の常連である原田芳雄の遺作にもなった作品。

共演は大楠道代、岸部一徳、石橋蓮司、小野武彦、

三國連太郎、佐藤浩市、松たか子、瑛太。

 

今はもう疎遠になってしまったが、父方の田舎に良く行っていた頃は

田舎の人達というのは、何故あんなにもイベントに命懸けなのかと思っていた。

祭りや選挙が近づくと、まるで何かに突き動かされるかのように活発に動きだす年寄り達。

ローカルイベントに盛り上がる大人達を、冷めた視線で見つめる冷めた子供だった私だが、

この映画で大いに笑い、少しホロリときて、大鹿村に遊びに行ってみたくなったのだから

つまりはそういう年になったということなのだ。

些細な出来事は起こるものの「騒動記」と銘打つほどの深刻な事件は起こらない。

新幹線が止まるか止まらないかより、歌舞伎の上演こそが一大事である人々は

やってくるトラブルをあっさりと受け入れて、少しばかりの憎まれ口と酒で洗い流したら

明日にはもう笑っている。痛みに対して麻痺しているわけではなく、

幸も不幸もたくさん経験してきた上で「人生そんなもんさ」と受け流す。

 

原田芳雄の好演は言わずもがな、大楠道代のはつらつとした笑顔や

岸部一徳のダメ男っぷり、佐藤浩市のちゃめっ気など、役者陣は全員◎。

歌舞伎のシーンが長過ぎかなとも思うが、

ここを削ったら大鹿村の方々が怒りそうなので仕方ないか。


▼併せて観たい阪本順治作品 その2「団地」

 

発売中■Blu-ray:団地

 

「顔」の藤山直美と再びタッグを組んだ団地が舞台のコメディ。

共演は岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司、斎藤工。

いつも通り阪本印の人情劇だろうと思わせておいてまさかの●●という衝撃作。

「半世界」や「大鹿村騒動記」ともさほど変わらない会話の中に

謎めいた登場人物が紛れ込んでくる、説明し難い世界観は不条理マンガのよう。

終盤の展開には口あんぐり必至。

正直もっと話題になっても良い映画なのだが、あまり知られていない気がするので

「半世界」をきっかけに阪本監督の他の作品にも興味を持った方は是非ご覧いただきたい。
ただし、相当変な映画であることはご了承を。



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