高畑勲の傑作「かぐや姫の物語」がBlu-ray化、他 | 忍之閻魔帳

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映画 かぐや姫の物語 ジブリ 高畑勲


▼高畑勲の傑作「かぐや姫の物語」がBlu-ray化


12月03日発売■Blu-ray:「かぐや姫の物語」
12月03日発売■DVD:「かぐや姫の物語」

リピート鑑賞することも減った私が劇場に三度足を運んだ
高畑勲監督の傑作「かぐや姫の物語」がBlu-ray/DVD化決定。
年末商戦の真っ直中である12月3日に発売。
「宮崎駿作品集」に向こうを張って「高畑勲監督作品集」もリリースされるが
こちらは年明け1月21日の発売になるらしい。
Blu-ray/DVDには恒例の絵コンテ、完成報告会見の模様、
予告編集などが映像特典として収録。
Blu-ray版のみ追加でアフレコ台本も収録する。

【紹介記事】人生は、一度きり。映画「かぐや姫の物語」より抜粋。

1988年の「火垂るの墓」から少しずつペースを落とし
ついに本作では「ホーホケキョ となりの山田くん」から14年ぶりの
劇場公開作品なった高畑勲監督の新作が「かぐや姫の物語」。
企画がスタートした2005年当時、まだ20代だった
西村義明プロデューサーは今やふたりの子を持つ父となったそうだ。
脚本の執筆に1年半、たった2分のシーンに1ヶ月費やしたこともあるという
絵コンテは2013年の3月にようやく完成。
50億円もの製作費をかけ、8年もの歳月をたった1本の作品に没頭し続けた
スタッフの結晶が「かぐや姫の物語」なのである。

「かぐや姫の物語」は日本最古の物語として知られ
絵本やアニメーションで広く親しまれている「竹取物語」を映画化したもの。
竹から生まれた幼子が絶世の美女として成長し、
いずれ劣らぬ名家筋の男5人からの求婚を全て拒んだ後に
迎えの使者と共に月に還ってしまうお話。
悩みも争いもない、清浄そのものの月で暮らす姫が
何故罪を犯してまで地球に憧れたのか。
その答えを137分かけて丁寧に描いてゆく。

この映画は、日本のどこに生まれた者であろうと
必ず奥底に持っている「日本人の心」を呼び覚ます。
恐れも悩みも知らず、ただ母親の胸に抱かれて乳を吸い、眠っていた頃の記憶まで遡り
姫の成長と共に己の人生を振り返っているような錯覚に陥る。
山の木々や花に季節の移り変わりを感じ、命を喰らって命を繋いでゆく。
連綿と続く命の営みを、現代の私達はどんどん忘れていってはいないか。
忙しく過ぎてゆく日々の中で、この一瞬が二度と戻らぬ一瞬であることに
無自覚になってはいないか。
歳を重ねて誰もが呟く「振り返ってみれば、人生はあっという間」を
私達はあちこちで耳にしながら、しかし多くはその言葉から何も学ばない。
高貴な姫君としてきらびやかな着物を羽織り、
帝にまで愛されても心は満たされなかった姫が最後の最後に後悔の念を口にし、
無表情となって月に還ってゆく後ろ姿を見送りながら、ふとそんなことを想った。

「新しい表現に挑み、達成できた。
 この作品で、アニメーションが一歩進んだと思っている」

高畑監督がそう語るアニメーション技術については、掛け値無しに凄い。
日本だけでなく、アニメ好きを自認するファンはもちろん
アニメ製作に関わる全てのクリエーターは必見だろう。
スケッチがそのまま動き始めたような、気が遠くなるほどに繊細な動きと色使いは
「となりの山田くん」から格段に進歩していて、もはや文化財レベルに達している。
このニュアンスが伝わるかは分からないが、人の手で「動かしている」のではなく、
命の宿った絵が「動き始めた」ようにしか見えないのだ。
姫の感情の変化によって、絵(線)そのものが意志を持ったかのように
温かくなったり暴力的になったりするのである。

まごうことなき傑作ではあるが
興収は25億円、製作費の半分ほどしか届かなかった。惨敗である。
しかし、公開前の紹介記事でも触れたように
本作が10代や20代の方々の心を打つには、多少の時間が必要だと思う。
童話や昔話に込められたメッセージが意外に深いことを知るのは
大人になってからであるように、本作がズシンと響くのは
高畑アニメと共に人生を歩んできた私と同世代ぐらいの人間ではないか。

これほど贅を尽くした作品は今後日本のアニメでそうそうは出て来るまい。
アニメファンならば食費を削ってでもBlu-rayを購入して家宝にしておきたい。


12月03日発売■Blu-ray:「高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。
ジブリ第7スタジオ、933日の伝説」


製作現場の様子を捉えたドキュメンタリーも同日発売。これも見たい。