人生は、一度きり。映画「かぐや姫の物語」 | 忍之閻魔帳

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▼人生は、一度きり。映画「かぐや姫の物語」


発売中■Blu-ray:かぐや姫の物語

「アルプスの少女ハイジ」や「母をたずねて三千里」が放送されていた
1970年代にちょうど幼少期を過ごした私にとって
高畑勲監督は名作を子供にも分かり易い形で教えてくれる達人だった。
下校時に校門前で待ち構える紙芝居のおじさんが
「あんなものテレビでやられちゃ、そりゃそっちの方が面白ぇよなあ」と
苦々しそうにぼやいていたのを思い出す。
しかし、「じゃりン子チエ」までテレビで精力的に活動していた高畑監督は
1988年の「火垂るの墓」から少しずつペースを落とし
ついに本作「かぐや姫の物語」は、前作「ホーホケキョ となりの山田くん」から
数えて14年ぶりの劇場公開作品となった。

脚本の執筆に1年半、たった2分のシーンに1ヶ月費やしたこともあるという
絵コンテは今年の3月にようやく完成。
それでも、宮崎駿監督の新作「風立ちぬ」との同時公開はかなわず
11月までズレ込んでしまった。

「宮さん(宮崎監督)はまだいいよ。あの人は完成させたがってるから。
 パクさん(高畑監督)は完成させたくないって言うんだもん」

公開中のドキュメンタリー映画「夢と狂気の王国」の中で
鈴木敏夫氏がそう苦笑しながら話していたが、
ついに映画は完成し、こうして公開を迎えようとしている。
企画がスタートした2005年当時、まだ20代だった
西村義明プロデューサーは今やふたりの子を持つ父となったそうだ。
50億円もの製作費をかけ、8年もの歳月をたった1本の作品に没頭し続けた
スタッフの結晶が「かぐや姫の物語」なのである。

<スタッフ>

監督・原案・脚本:高畑勲
製作:氏家齋一郎
企画:鈴木敏夫
プロデューサー:西村義明
脚本:坂口理子
作画監督: 小西賢一
美術:男鹿和雄
人物造形・作画設計:田辺修
音楽:久石譲
主題歌:二階堂和美「いのちの記憶」

<声の出演>

朝倉あき:かぐや姫
高良健吾:捨丸
地井武男:翁
宮本信子:媼

高畑淳子、田畑智子、立川志の輔、上川隆也、伊集院光、
宇崎竜童、古城環、中村七之助、橋爪功、朝丘雪路、仲代達矢

「かぐや姫の物語」は日本最古の物語として知られ
絵本やアニメーションで広く親しまれている「竹取物語」を映画化したもの。
竹から生まれた幼子が絶世の美女として成長し、
いずれ劣らぬ名家筋の男5人からの求婚を全て拒んだ後に
迎えの使者と共に月に還ってしまうお話。
「竹取物語」の映画化は高畑監督にとって東映時代からの夢だったらしく
姫が地球に来た理由(姫が犯した罪)をはっきりとした形で提示することと、
かぐや姫の心情をより細かやかに表現すること。
このプロットは当時思い描いていたものから変わっていないのだという。
悩みも争いもない、清浄そのものの月で暮らす姫が
何故罪を犯してまで地球に憧れたのか。
その答えを137分かけて丁寧に描いてゆく。

この映画には、日本のどこに生まれた者であろうと
必ず奥底に持っている「日本人の心」が詰まっている。
恐れも悩みも知らず、ただ母親の胸に抱かれて乳を吸い、眠っていた頃の記憶まで遡り
姫の成長と共に己の人生を振り返っているような錯覚に陥る。
初めて乳をもらった時、初めて涙を流した時、初めて異性に恋をした時、
姫が大きくなる瞬間は、この世の素晴らしさをまたひとつ知った瞬間であり
ああ、自分もそうやってここまで来たのだと思い知る。
山の木々や花に季節の移り変わりを感じ、命を喰らって命を繋いでゆく。
連綿と続く命の営みを、現代の私達はどんどん忘れていってはいないか。
忙しく過ぎてゆく日々の中で、この一瞬が二度と戻らぬ一瞬であることに
無自覚になってはいないか。
無駄にした一日が七日になれば一週間が無駄になる。
一週が一月になり、一年になり、十年になる。
歳を重ねて誰もが呟く「振り返ってみれば、人生はあっという間」を
私達はあちこちで耳にしながら、しかし多くはその言葉から何も学ばない。

人生は、一度きり。

私自身、今からではもう取り戻せないことが山のようにある。
あの時こうしていれば、と考えたところで時間は巻き戻らない。
一秒とて止めることも出来ずに、先へ先へと動いていく。
ならせめて、まだ間に合いそうなことに目を向けて
残り何年か分からない人生を生きてゆかなければ。
高貴な姫君としてきらびやかな着物を羽織り、
帝にまで愛されても心は満たされなかった姫が最後の最後に後悔の念を口にし、
無表情となって月に還ってゆく後ろ姿を見送りながら、ふとそんなことを想った。

「新しい表現に挑み、達成できた。
 この作品で、アニメーションが一歩進んだと思っている」

高畑監督がそう語るアニメーション技術については、掛け値無しに凄い。
日本だけでなく、アニメ好きを自認するファンはもちろん
アニメ製作に関わる全てのクリエーターは必見だろう。
スケッチがそのまま動き始めたような、気が遠くなるほどに繊細な動きと色使いは
「となりの山田くん」から格段に進歩していて、もはや文化財レベルに達している。
このニュアンスが伝わるかは分からないが、人の手で「動かしている」のではなく、
命の宿った絵が「動き始めた」ようにしか見えないのだ。
姫の感情の変化によって、絵(線)そのものが意志を持ったかのように
温かくなったり暴力的になったりするのである。

まごうことなき傑作である本作が、
では「風立ちぬ」のようにヒットするかと言われると難しい。
子に見せる昔話にしては尺が長過ぎる(2時間17分)し、一部テンポも悪い。
特に石作皇子や阿部右大臣が貢ぎ物を持ってやってくるシーンは長過ぎる。
捨丸の存在を除けば、それほど大胆なアレンジをしているわけではなく、
基本的に「竹取物語」の忠実な映画化であることに失望するファンもいるだろう。
二種類ほど作られたティザー予告や「姫の犯した罪と罰」というキャッチコピーが
ジブリらしからぬミスリードであることも否定できない。
コピーに採用するほど「罪」の部分はクローズアップされていないのである。

こういった諸々の問題を解決するには、ベタな言い方だが時間が必要。
20代ぐらいの方が観てもピンと来ないかも知れない。
童話や昔話に込められたメッセージが意外に深いことを知るのは
大人になってからであるように、本作がズシンと響くのは
高畑アニメと共に人生を歩んできた私と同世代ぐらいの人間ではないか。
小学生以下のお子さんを連れて劇場に行くのではなく、大人同士での鑑賞がお薦め。

製作期間や費用の面から考えても、これほど贅を尽くした作品は
今後日本のアニメでそうそうは出て来るまい。
アニメファンは一食抜いてでも、足代を払ってでも、借金してでも劇場で観ておくべし。

映画「かぐや姫の物語」は11月23日より公開。

<最後に>

本作は通常のアニメーションが採用しているアフレコ(アフターレコーディング)ではなく
プレスコ(プレスコアリング)という手法で台詞が吹き込まれている。
絵のない状態で先にセリフを収録し、そこに絵を載せていく
アフレコとは真逆の手法で、本作の音声も2011年の夏に収録されたもの。
そのため、物語で重要な役割を果たす翁の声を
2012年に亡くなられた地井武男が演じている。
久しぶりに声が聞けたのも嬉しかったのだが、その仕事ぶりがまた素晴らしく
「まんが日本むかしばなし」の常田富士男を思わせるほどだった。
改めて、ご冥福をお祈りいたします。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
  タイトル:かぐや姫の物語
    配給:東宝
   公開日:2013年11月23日
    監督:高畑勲
   出演者:朝倉あき、高良健吾、地井武男、宮本信子、他
 公式サイト:http://kaguyahime-monogatari.jp
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



11月20日発売■CD:「ジブリと私とかぐや姫 / 二階堂和美」

高畑監督が主題歌にと熱望した二階堂和美のニューアルバムが来週20日に発売。
手嶌葵が「ゲド戦記」や「コクリコ坂から」の公開時に発売した歌集のような位置付けで
主題歌に起用された「いのちの記憶」、劇中で何度も流れる「わらべ唄」を始め、
ジブリソングのカバーも多数収録したお買い得版。
収録曲は以下の通り。

01. あの山のむこう
02. 私の宝
03. わらべ唄(映画『かぐや姫の物語』より)
04. 歩き回って 走り回って
05. 月の使い
06. 歓喜
07. めざめの歌<オーケストラ・バージョン>(アルバム『にじみ』より)
08. いのちの記憶(映画『かぐや姫の物語』より)
09. 君をのせて(映画『天空の城ラピュタ』より)
10. あしたはどんな日(テレビアニメ『赤毛のアン』より)
11. 愛は花、君はその種子(映画『おもひでぽろぽろ』より)
12. バケツのおひさんつかまえた(テレビアニメ『じゃりン子チエ』より)
13. ケ・セラ・セラ(映画『ホーホケキョ となりの山田くん』より)
14. いのちの記憶<オーケストラ・バージョン>
15. はにゅうの宿(映画『火垂るの墓』より)

高畑作品を中心に選曲されているが
どれも二階堂氏の声にぴったりはまりそうで楽しみ。これは買い。


11月20日発売■CD+DVD:「にじみ Delux Edition / 二階堂和美」

同日には、高畑監督が二階堂氏に惚れ込むきっかけにもなった
名盤「にじみ」が新たに映像DVDを付けて価格据え置きで再販。
初回限定生産商品。


11月20日発売■CD:「かぐや姫の物語 サウンドトラック 音源ディスク付き」

宮崎駿監督との付き合いは長いが、高畑監督作品を手掛けるのは
今回が初となる久石譲のサウンドトラックCDが発売。
初回特典は5曲入りの音源ディスク。


11月18日発売■BOOK:「キネマ旬報 高畑勲 「ホルスの大冒険」から「かぐや姫の物語」まで」
11月20日発売■BOOK:「SWITCH Vol.31 No.12 スタジオジブリという物語」
11月20日発売■BOOK:「かぐや姫の物語 ビジュアルガイド」
11月27日発売■BOOK:「ユリイカ 2013年12月号 高畑勲「かぐや姫の物語」の世界」

「かぐや姫の物語」公開に合わせて関連書籍が続々と発売。
「SWITCH」は「夢と狂気の王国」プロデューサーである
川上量生が責任編集を務め、砂田監督のインタビューも掲載。




12月06日発売■Blu-ray:「太陽の王子 ホルスの大冒険」
03月26日発売■Blu-ray:「赤毛のアン Blu-ray メモリアルボックス」

高畑監督の初監督作品である「太陽の王子 ホルスの大冒険」は12月6日発売。
名作劇場の中でも女性からの支持が高かった「赤毛のアン」は2014年3月にBlu-ray化。


発売中■Blu-ray:「火垂るの墓」
発売中■Blu-ray:「ホーホケキョ となりの山田くん」
発売中■Blu-ray:「平成狸合戦ぽんぽこ」
発売中■Blu-ray:「おもひでぽろぽろ」
発売中■Blu-ray:「じゃりン子チエ 劇場版」
発売中■Blu-ray:「未来少年コナン Blu-rayボックス」
発売中■Blu-ray:「アルプスの少女ハイジ Blu-ray メモリアルボックス」

既発作品はこのあたり。



iOS Podcast 鈴木敏夫のジブリ汗まみれ
配信中■iOS用Podcast:「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」
配信中■iOS用Podcast:「Podcast」(ユニバーサル)

2007年から現在まで289回を数えるTOKYO FMの人気プログラムが
ポッドキャストでも配信中。
最新号のゲストは「かぐや姫の物語」で主題歌を担当した二階堂和美。
購読は無料だが、専用アプリ(無料)をDLしてインストールしておく必要あり。



▼マミちゃんのジブリ見学。映画「夢と狂気の王国」

夢と狂気の王国 宮崎駿 高畑勲 鈴木敏夫 映画 吾朗
(c)2013 dwango

宮崎駿監督の長編引退作「風立ちぬ」が興収100億円を突破し
今週末からは高畑勲監督の最新作「かぐや姫の物語」が公開されるスタジオジブリ。
ジブリの顔とも言うべき二大監督の新作が同じ年に出揃う
お祭りイヤーである一方で、高齢の両監督は揃って活動を総括し始めている。
次世代を担う若手が複数名頭角を現してはいるが、
宮崎・高畑の後継者と呼べるほどのクオリティには未だ達しておらず
稀に見る大収穫の年であるにも関わらず、スタジオジブリは今、夕暮れ時を迎えている。

続きはこちら。




11月08日発売■DVD:「竹取物語 期間限定プライス版」

市川崑監督、沢口靖子の主演で1987年に実写映画化された「竹取物語」。
東宝シンデレラだった沢口を主演に据え
東映の「里見八犬伝」(1983年)に向こうをはって
東宝が送り出したSFファンタジー巨篇(半分嫌味)。
主題歌はシカゴのピーター・セテラが担当した「ステイ・ウィズ・ミー」。
大ヒットしたので、映画を観たことのなくても聞けば知っている方も多いはず。
衣装デザインはワダエミ。十二単だけでも総製作費の1/10にあたる
2億円をかけるなど、節々でバブリーな時代を思わせる作品である。
「未知との遭遇」のパクりだと総突っ込みが入ったのも今では懐かしい想い出。
ちょうど今月廉価版が発売。
東宝、狙ったな。