▼会社の金で自分探し♪映画「わたしのハワイの歩きかた」
TBSの名物クイズ番組「アップダウンクイズ」が1985年に放送を終え、
ハワイが日本人にとっての「憧れの地」の座から降りて約30年。
ハワイは今やこんなにもお手軽になった。
「わたしのハワイの歩きかた」は、ハリウッドではお馴染みの自分探しムービーの日本版。
主演は「図書館戦争」の榮倉奈々。
共演は高梨臨、瀬戸康史、宇野祥平、池松壮亮、安田顕、鶴見辰吾、加瀬亮。
監督は「婚前特急」の前田弘二。
仕事をバリバリこなす女性が『人生を見つめ直す』を掲げて旅に出る。
しかしその実は、行く先々で美食と美男を喰い散らかすだけの観光ムービー。
ストレートDVDも含めると、そんな作品が年間10本や20本は日本に入って来ている。
それら全てに共通する「しゃらくささ」は
ハリウッドスターのオーラとハイブランドを惜しげもなく使ったファッションによって
「こんな人生を送ってみたいわ」へと昇華し、世の女性達の現実逃避先となっている。
娯楽映画にはそういった需要もあるのだから、そのことはいい。
しかしこの映画はイカン。
この主人公は仕事を一体何だと思っているのか。
女性讃歌どころか、真面目に働く女性の地位を著しく貶めるという意味で
女性蔑視にすら見える、ちょっと許し難い映画になっている。
「婚前特急」では鼻持ちならない高慢な主人公(吉高由里子)を
コテンパンに叩いて笑えるコメディに仕上げた前田監督も
今作では完全に榮倉奈々の下僕と化してしまった。
本当にこんな出来で満足しているのだろうか。
本作が下敷きにしたと思われる「食べて、祈って、恋をして」も
仕事に行き詰まった女性が旅に出て、年下の男といちゃいちゃしたり
料理を喰い散らかしたりする映画なのだが、あちらは主演がジュリア・ロバーツ。
共演はハビエル・バルデム、ジェームズ・フランコ、ヴィオラ・デイヴィスである。
全てが上手く回り過ぎるものの、仕事もできる女性という設定で
一応離婚もしてからロマンスを楽しんでいる。
同性からの反発を極力減らすための仕掛けはきちんとしているのだ。
しかしこの「わたしのハワイの歩きかた」は酷い。
上司(鶴見辰吾)が高級外車を買ったことに腹を立てた
安月給の女性編集者(榮倉奈々)が「皆にバラすぞ」と脅しをかけ、
ハワイの観光ガイドを作るという名目で会社からハワイへの旅費を巻き上げる。
現地ではろくに働かず、酒をあおるか男を漁るかのどちらかで
日程を無駄に潰した挙げ句、「取材費が尽きたので追加の活動資金を送れ」と
上司にメールを入れるのである。
いい加減にしろよこのバカ女
と何度スクリーンに向かって毒づいたことか。
電話で現状報告すらせずメールで「金送れ」と送ってきた編集者に対し
はいそうですかと金を送る会社が一体どこにあるのか。
2週間の約束で戻るつもりが、大金持ちの御曹司(加瀬亮)と出会って家まで転がり込み
すっかり嫁さん気分で3週間が経過。その間も会社に一切連絡はなし。
心配した上司は、元不倫相手だった男性社員(池松壮亮)を現地に送り込む。
普通クビだろう、こんなクソビッチ
年下の男性社員との不倫も旅に出る理由のひとつだったと
御曹司に愚痴っていたが、相手は年下であり妻は懐妊中の身。
上司である立場を使って酔った勢いで喰らっておいて被害者面はないだろう。
被害者はむしろ部下の方ではないのか。逆セクハラで訴えろ。
いっそ金目当てと思われた御曹司のSPに殺されるぐらいのオチでも良かったのだが
さらにその御曹司まで振って、若い男(瀬戸康史)とねんごろになってエンドロール。
いつの間に作っていたのか、思い出したようにガイドブックは出来上がっている
御都合主義過ぎるオチにも眩暈がする。
「わたしのハワイの歩きかた」というタイトルに偽りはないのだろうが
この歩き方は年齢性別に関わらず賛同は得られまい。
食欲と性欲だけで人生が出来ているかのような着地をして
誰に共感して欲しかったのだろう。全く分からない。
「これだから女は使えない」と世の男性上司達に刷り込みたかったのだろうか。
唯一良かったのはハワイ式の葬送の儀が感動的だったこと。
私もああいう葬り方をされたいと思いながら見ていたが
本当にそこ以外に見どころが全くない。
ハワイを舞台にしながらハワイの良さが微塵も出ていないし
そのことを自覚してかエンドロールでは
観光ビデオから拝借したような映像でお茶を濁している。
これぐらいならレンタルで「ホノカアボーイ」でも観ていた方がマシ。
映画「わたしのハワイの歩きかた」は6月14日より公開。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
タイトル:わたしのハワイの歩きかた
配給:東映
公開日:2014年6月14日
監督:前田弘二
出演者:榮倉奈々、高梨臨、瀬戸康史、加瀬亮、他
公式サイト:http://www.watashinohawaii.com/index.html
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配信中■iTMS:「アロハ式恋愛指南 / 竹内まりや」
07月23日発売■CD:「Big Wave 30th Anniversary Edition / 山下達郎」
07月23日発売■CD+DVD:「静かな伝説(レジェンド)初回限定盤 / 竹内まりや」
09月03日発売■CD+DVD:「TRAD 初回限定盤 / 竹内まりや」
映画の主題歌は竹内まりやの書き下し。
「夢の続き」を思い起こさせる佳曲だが、歌詞はちょっと頑張り過ぎて空回り気味。
7月には桑田佳祐夫妻と共演した記念シングル「静かな伝説(レジェンド)」が、
そして9月には7年振りとなる待望のニューアルバムも控えている。

発売中■DVD:「ホノカアボーイ」
吉田玲雄の実体験を元にした同名エッセイを、
当時はまだそれほど知名度の高くなかった
岡田将生主演で映画化したスローライフ・ムービー。
ハワイ島にある小さな村ホノカアでの生活をのんびりしたテンポで描いている。
共演は倍賞千恵子、松坂慶子など。
ホノカアの街並や海は美しいし、雰囲気も悪くないのだが
「あざとい」と感じる部分が多いのは残念。
もう少し下心を隠してくれれば名作にもなれた気がする。
松坂慶子のふっくらした体型とチャキチャキしたおばさんぶりが
ハワイの風景と上手く馴染んでいていい。

発売中■DVD:「めがね」
発売中■Blu-ray:「めがね」
観光や買い物目的で旅をするのはもう止めよう。
私がそう考え始めたのは、もう散々遊び尽くした後のことなので、
今が遊びたい盛りの方や、まだまだ遊び足りない方、
一生アクティブな旅を楽しみたい方などには、この映画はピンと来ないかも知れない。
しかし、気持ちをリセットするために
「何もない場所」を求めて旅したことのある方ならきっと分かる。
荻上直子監督の「めがね」は、そんな映画である。
都会から(束の間)逃げ出したいという欲求は
都会から(完全に)撤退したいという気持ちとイコールではない。
何もない田舎の暮らしに憧れながら、物の溢れた都会の暮らしも捨てきれない。
そんな気持ちを抱いている方なら、
「めがね」は2時間の現実逃避として上手く効いてくれる。
惜しいのは、「かもめ食堂」でも感じた言葉選びの稚拙さと
演出過多な部分がいくつか見受けられたこと。
「何が自由か、知っている。」(キャッチコピー)というなら、
「たそがれる」ことを良しとする考え方そのものが押し付けがましいし
「メルシー体操」もコミカル過ぎてかえって不自然。
キャスト(全員)、景色(与論島)、食べ物(特にロブスター)は文句なし。
音楽(金子隆博)、主題歌(大貫妙子)は最強。

発売中■Blu-ray:「ファミリー・ツリー」
仕事ばかりに精を出し、子育てを任せきりにしていた夫が
妻が事故をきっかけにして人生を見つめ直すドラマ。
ジョージ・クルーニーが貫禄の上手さでキャスト全員を引っ張る姿は
家族再生を描いた作品の父親像そのもの。
ハワイを舞台にしたことにもちゃんと意味がある。
派手さはないが、脚本と芝居はピカイチ。
本物のハワイを感じたいならお薦め。

発売中■Blu-ray:「食べて、祈って、恋をして」
ジュリア・ロバーツを主演に迎えた本家本元の自分探しムービー。
ニューヨークでジャーナリストとして活躍する女性が
平凡な生活に満たされずに離婚を決意、年下の男との火遊びにも区切りをつけ
イタリア、インド、インドネシア・バリ島を巡る1年間のひとり旅へ出る。
旅とグルメとロマンスと、「観る女性誌」として割り切るなら優秀な作品。
ただ140分は長い。