《つづき》

あいりさんと男は別の狩場に2人の仲間がいることを
知り、移ることとしたのだ。

 

その2人とは

「みきちー」

あいりさんの姉である。

世話好きで、人望は厚く、容姿の優れた娘ではあるが、
男勝りの言動によって下世話な
男どもの格好のからかい
相手となっているようだ。

 

もうひとりは

「魔ぺジ」

狩りの腕は一流。武器も若干の得手不得手はあるものの、
結局はうまく使いこなす天性の才能がある。

が、性格は多少難あり。

だが、能力と性格との不一致が逆に親近感をわかせ、
かなりの人望を得ている。

 

この4人が揃うのは久しぶりだった。

魔ぺジさんが別の職業を見つけて、狩りにあまり来なく
なった為だった。

だが、今はジョーのお祭りに合わせてやって来ていたのだ。

そんな魔ぺジさんを、あいりさんは、しばしば
「なじって」いる。

特に、最近は姉のみきちーさんにも転職をそそのかし、
みきちーさんがその別の仕事をやり始めたこともあって、
その攻撃は一段と激しくなっていた。

 

いつも一緒にいた大事な姉を取られた
と思っているのだろう。


 

狩りの目的は皆同じだった。

闘技場でのイベント、2頭のジョーだ。

2頭が同時に攻撃してくるカオス状況を楽しむという、
腕に自信のある狩人が

少々マゾ的な感覚で臨むのだ。

 

まずはそれぞれ自分の好みの武器で臨む。

お互いの状況も見ながら、常に助けあい、
ちょっと間に合わない時もあったが

なんとか危機を乗り越え、無事に完了させた。

 

問題はその後だった。

みきちーさんが、全員ハンマーで臨もうと
言い出したのだ。

男はジョーどころか、上位になってからハンマーを
街で使ったことは無い。

持ってはいる。
だが、使い方がいまいち分からないのだ。


しかし、闘技場は試す場所。

後には引けない。

 

見よう見真似で、ハンマーで戦う男。

どうしても、無駄な回転での攻撃が多い。

その隙をジョーに攻撃されて、逃げ惑う。

結局、攻撃しているよりも、まわりをうろちょろ
している方が
多かったが、ハンマーを使いなれた
他の3人のお蔭で、なんとか完了したのだった。

 

あくまで3人のお蔭で完了したのだ。

 

にもかかわらず、男は調子に乗ってしまった。

 

この後、同じく少し前に仲間になった、てんてんさんと
キングがやって来たが、あいりさんが帰宅する際、
なぜか
キングも消えていった。
彼らの間になにがあったのかは分からない。

 

なので、先ほどとはあいりさんとてんてんさんが
入れ替わった組み合わせとなった。

 

やめておけばよかったのだ。

どうして、そんなことを言ってしまったのだろう。

ハンマーを少しでも有効に使うべく、狂走薬グレートを
飲んだ影響かもしれない。

 

次に男は大剣での戦いを提案してしまったのだ。

結局、男が最後に噛みつかれてバックヤード送りになり、
失敗してしまった。

ここでかなりの傷を負ったのだ。

 

 

次に、なんとか挽回しようとする気持ちもあったのか、
男は斧での挑戦を提案した。

ハンマーや大剣に比べれば、まだ勝手がわかる武器だった。

しかし、しかしだ。

相手はジョー。

しかも2頭。

なかなか思うようにはさせてくれない。

2頭が出てきて混乱する中で、味方を攻撃してしまう
こともしばしば。

 

「なぜだ、なぜなんだ。」

男のあせりは募る一方だった。

 

冷静さを完全に失った男は、こともあろうことか、
2頭が並んでいる状況のところに
突っ込んでいった。

 

もはや、切りつけているのが、どっちのジョーなのか、
腹なのか、尻尾なのか、

闘技場の中心がどこなのか、壁がどこなのか、
そういったことも分からなくなって
しまっていた。

 

すでに2回バックヤードに運ばれていて後がない。

 

体力も限界に来ていた。

 

突っ込んだと同時に動き出したジョーの足にひっかかっり、
転倒。

 

「しまった」

 

一瞬にして体が骨までとけそうなくらい熱くなるのを
感じたが、
直後には、体中にまとわりついている汗のつぶ
までもが凍ってしまう
のではないかと思う寒気が
男の全身を駆け巡った。


 

捕食されたのだ。

 

「終わった」


 

たった一言が、頭の中いっぱいに投影される。

 

死に際に過去の事が走馬灯のように駆け巡るという話を
聞いたことが、
あったが、どうもそうではないらしい。

たった一言が、全ての記憶を排除して、
頭の中を占拠するのだ。

 


この後の記憶は定かではない。

どうやら、テーブルクロスに出来たコーヒーの
「記憶のシミの周辺部分」に
辿り着いてしまった
らしい。

 

ただ、もがきあがく自分の手足らしきものと、
何とか引き離そうとしてくれている
と思われる
仲間の姿の断片が、かすかに、ぼんやりと脳裏に
残っている。

 

本当のところは残ってないのかもしれない。

今の自分が、今までの記憶から勝手に作り上げた映像
なのかもしれない。

もう、男にはその境目が判らないのだ。

 

 

たった今、全身を襲う、その痛みだけは事実だった。

体はまったく動きそうにない。

誰かが助けてくれて、誰かが処置を施し、誰かが
運び込んでくれたのだろう。

 

どうして一命を取り留められたのだろうか。

医学の進歩のたまものか。

捕食される直前に飲んだ硬化薬グレートの効き目か。

 

そこまで記憶を辿り、なんとなく自分が置かれた状況を
理解したとき、

傍らに人の気配がすることに初めて気が付いた。

首から下は全く動きそうもなく、声も出ない。

そんななかで、男は眼球だけをなんとかその方向に
少しでも向けられないだろうか
と試みた。

 

そこには

 

 

そこには、昨日一緒に戦った仲間たちの姿があった。


 

無理に眼球を動かしているせいで、焦点はきちんと
あっていないが

一様に心配している表情が感じ取れた。


 

「ああ、居てくれたんだ」

 

そう思うとともに襲って来た睡魔に、
男は再び目を閉じた。

春の暖かい太陽の下、広い草原に寝ころんだときの
ような心地よさのなか

深く深い海の底に沈んでいくような感覚。


もがく力もなく、闇へ闇へと落ちてゆく。


 

「もう一度、もう一度、彼らと狩りに行こう。」


 

「私の今の唯一の望みです」

 

誰に聞かれたわけでもなく、誰に話しかけるわけでもなく

男は消えゆく意識の中で、そう考えた。




【 完 】

※この物語はハクションです。
 実在の人物・団体との関係は一切不明です。


あ、さんざん引っ張ったあげくに
落ちもなければ、タイトルも関係なかった。
ねばまいんら~。


《つづき》

この4人での組み合わせは初めてだった。

そこで彼らは最初に狩場ではなく、闘技場に行くことを
選んだのだ。

闘技場は狩人が自分の技と力を試す場所。

各地の狩場で殺されず、捕獲された獲物たちはここに
連れて来られ、
この闘技場で狩人の力量を図るべく、
獲物として提供されている。


4人が選んだ獲物は2頭のジョーだった。

 

ジョーは大型の肉食獣で、その大きな体と、
凶暴な性格で、狩りの難易度が高く、
上級の狩人の
人気を呼んでいる。

その為、闘技場送りになる個体数も多く、
ストック出来なくなった闘技場
側は、その人気を利用する
目的もあって、月に一度くらいの頻度で、2頭を
同時に
出して狩人と戦わせることを行っているのである。

現にこれが開催されている間は、街はお祭り騒ぎで、
普段は閑散としている街も

たいそう賑わうこととなるのだ。

 

4人はそれぞれの武器と防具を慎重に選び、
闘技場に向かった。

男も最近お気に入りのドーベル装備に、いつもの太刀で
臨んだのだった。

ドーベルは通気性がよく、暑い夏場にはちょうど良い。

ただ、仮面もセットになっているのが難点ではあるが。

 

開始早々、まだ2頭目が姿を出すまでは比較的
落ち着いた戦いだった。

だが、2頭目が現れるとともに、皆の表情からは
余裕が消えた。

ジョーと戦いつつ、自分の身を守り、
また仲間の体力もお互いに気にしながら。

 

途中、男とあいりさんがそれぞれ倒れ、
一時バックステージで治療を受けるという
ことがあった
ものの、何とか2頭とも討伐し、闘技場を後にした。


「悪くないんじゃない。」
誰かがそうつぶやいた。


闘技場を後にした4人はいよいよ狩場に向かい、
ディアブロスをまずは
1頭だけ、

次に2頭続けて狩った。

ディアもなかなかの手ごわい獲物ではあるものの、
ジョーと戦った後ということもあり

かなり早い時間で倒すことができたのである。

 

ここで、ひでまんさんとせれめるさんとは別れた。

彼らは翌日に備えて、早めに帰路についたのだった。

 

男は今思えば、この時自分も帰っていれば、
こんなことにならなかったのに
と、少し後悔した。



《つづく》

《つづき》

すれ違う一瞬。

ほんの一瞬だけれど、彼の名前を刻んだプレートが
目に入った。

「ひ・で・ま・ん」

心臓がチクっと刺された気がした。

だが、走り出した男は止まることなく、その場を
後にしたのだった。

 

別の狩場に向かうべく、その中継地点ともいえる
場所に辿り着いて

ようやく男は僅かな落ち着きを取り戻した。

狩りを重ねると、ちょっとした興奮状態となり、
狩りを終えた後も
しばらくはトランス状態になるのだ。

狩りの最中に消耗した体力を回復する為のドリンクを
飲みすぎるせいかも
しれない。

 

落ち着いた男の心臓がまたチクっとした。

何かが、引っかかっているのだ。

さきほどの男か。

「ひでまん」

男が記憶をたどろうとするやいなや、
まるで記憶の方から男のところに

駆け寄ってくるように、記憶がよみがえった。

 

男には仲間を持つきっかけとなった日があった。

その日にさきほどの男も居たのだった。

ただ、その時は彼が別の名前を使っていたことと、
連絡先の交換を漏らしてしまって

いたので、すぐには気づかなかったのだった。

 

男を追っかけるように彼の携帯にメールが入った。

差出人は「ひでまん」

どうやら男を見つけて、一緒に狩りを行おうと
わざわざ探して来てくれたようだ。

と、その直後、また別のメールが。

 

「あいり」

気は強いが、心優しい3姉妹の次女だ。

このところ、男が一人で居ることに気を使って、
良く狩りに誘ってくれるのだ。

もちろん、狩りの腕前はその辺のやわな男どもより
ずっと上だ。

彼女が狩りに出ていることは途中で気が付いていた。

ただ、その時には既に4人のパーティーを組んで
いたので、声をかけずにいた。

今は一人で居るようだ。

ちょうど良いタイミングだったので、
男はひでまんさんと一緒に

あいりさんの待つ部屋に向かうことにした。

男たちがその部屋に到着するやいなや、
もう一人やって来た。

「せるめる」

ここ最近、一緒になる機会が出来た仲間の一人だ。

女性の槍使いで、こちらも一級の腕前。

 

どうやら、いつもの時間が始まったようである。



《つづく》

《つづき》


男は昨日、早めに狩場へ出かけた。

最近仲間が増えたものの、彼らの狩り時間は
もっと遅いのだ。

ただ、ターゲットは至るところに居るし、
それを狩る連中も、以前に比べれば

少なくなったとはいえ、まだまだ居る。

一人では難しいので、狩場に来てその時限りの仲間を
見つけることも
よくあることだ。

 

もちろん彼もそうした「残っている」狩人
のひとりであり、つい先日までは
固定した仲間を
持たずに居たので、
以前と同じように、その日限りの仲間を
探した。

 

そんな中、まだまだ駆け出しと思われる狩人が、
仲間を募っているのを見つけ、

「今日の狩りはここから始めるか」

そう思い、その狩人のところへ行き、声をかけた。

「ご一緒させて頂いても、よろしいですか?」

男はできるだけ、初めての人には丁寧に声をかける
ことを心がけていた。

若い頃はそんなことにはあまり興味がなかったが、
それなりに歳を重ね、
いつの間にか、自分よりも若く、
経験の浅い狩人と出会う機会が多くなる
につれ、
その重要性を感じたからだった。

 

声をかけられた狩人は一瞬、けげんそうな顔をし、
まるで男を値踏みするように

慎重にその男の姿を見つめた。

「宜しくお願いします。」

どうやら受け入れてもらえたようだ。

 

ただ、本当の腕と力は狩りの現場に行ってみなければ
判らない。

連続してパーティーを組めるかは実戦次第だ。

 

幸いにして、組み合わせはそう悪くはなかった。

獲物はレウスだったが、男の太刀と彼のハンマーで、
どちらかが
ひるませ、そこに一気に攻撃することを
やりあったのだった。

 

狩りは順調だった。

既に短時間に5頭は狩ったであろうか。

そこで、男は別の獲物を探すこととし、
狩場を移ることにした。

ちょうど、別の狩人が仲間に入ると言ってきたので、
残された彼が
困ることもないだろう。

 

一緒だった仲間たちに別れを告げ、

「また、どこかでお会いしましょう。」

と言い残し、狩り場への基地として使っていた酒場を
離れようと
駆け出したとき、
また別の一人とすれ違ったのだった。


《つづく》

ゆっくりと視界が開けてゆく。

「ああ、寝てしまったのか」

男はそう思った。

 

飛びこんでくる光が、陽の光なのか、あるいは
部屋の電気なのか
よくわからなかった。

今が朝なのか、夕方なのかも、わからなかった。

目が覚めたというよりは、目が開いただけという方が
正しいからだ。

 

ただ、そこが自分の部屋のベッドのうえであること
だけは直感的に
認識できた。

 

その状態で、しばらく昨日の出来事を思い出そうとした。

体に重さを感じる。

「いつ寝てしまったんだろう」

「昨日なにをしてたんだろう」

必死に思い出そうとするのではなく、ただなんとなく
思い出そうと
していた。

 

不意に携帯電話の妙に乾いた電子音が部屋に鳴り響く。

その音に体が自然に反応しようとしたとき、
全身に激痛が走った。

と、同時に先ほどまで、思い出せなかった
昨日の出来事が脳裏に広がる。

それはまるで白いテーブルクロスのうえに溢した
コーヒーのように、

ある程度までさっと広がったのちに、ゆっくりと
範囲を広げてゆき、

だけれども、周辺はぼんやりしているといったような
感じだった。

 

そして男は心のなかでつぶやいた。



「ああ、まだ生きてたんだ。」


《つづく》