●島耕二×成田三樹夫「怪談落とし穴」。
雰囲気は完璧。生前も死後も素晴らしい熱演の渚まゆみ。不気味な船越(英二)はいつでも最高。貯水槽に閉じ込めて殺すアイデアを思いとどまったミッキーのナイス判断。
上記文章は、ある大映映画に関する本の後書きに載っていた、遠藤倫子氏(音楽家・映画愛好家)の「大映映画某月某日鑑賞日記」からの抜粋です。
44本の大映映画鑑賞日記が載っています。
洒落た映画感想の語り口が気に入り、また、成田三樹夫、渚まゆみ。ファンだったので、早速、未見の映画「怪談落とし穴」のDVDを購入しました。
『深夜、無人のビルに響く女のすすり泣き! タイプ室から、更衣室から、
エレベーターの天井から……
身も凍る戦慄があなたの背中につきまとう! 』
ポスターのキャッチコピーも雰囲気出ています・・・。
昭和時代の怪談噺、現代版「四谷怪談」。
怖いもの見たさに最後まで・・・DVDでご覧ください。
シニア世代からのお薦めです。
深夜のビルを巡回する警備室の坂部、無人の文書部室からタイプの音が響く!?
<警備室・坂部役の早川雄三>
早川雄三は大映の名脇役。
TV「特別機動捜査隊」の松木部長刑事役でレギュラー出演しました。
この後、アップで亡霊が振り向いてタイトルに続く演出にビックリです。
脚本は舟橋和郎のオリジナル、撮影は小原譲治、音楽は大森盛太郎、
昭和43年公開/モノクロ・スコープサイズ/78分/大映映画
成田三樹夫、唯一の劇場用映画主演作品。
共演は渚まゆみ、船越英二、三条魔子、見明凡太朗、早川雄三、片山明彦、渥美マリ、ナレーターを若山弦蔵が担当しています。
監督の島耕二は俳優から監督に転じた人。
実子で名子役“片山明彦”主演の「風の又三郎(1940年)」、「宇宙人東京に現わる(1956年)」、「猫は知っていた(1958年)」など、監督作品は文芸、娯楽、SF映画まで多彩です。
倉本治夫(成田三樹夫)は貧乏な生い立ちだった。社内の西野悦子(渚まゆみ)と結婚の約束をしていたが、社長(見明凡太朗)に才能を認められ、令嬢みどり(三条魔子)との結婚話が纏まる。
<倉本役の成田三樹夫 悦子役の渚まゆみ>
悦子:「ねえ、お話があるの まじめな話」
倉本:「結婚してくれ・・だろ 判ってるよ」
妊娠している悦子は、倉本と社長令嬢みどりの結婚話を知り、倉本に結婚を迫った。
社長に認められた蔭には、悦子の南米バイヤーへの肉体提供という犠牲があったのだ。
社長:「新婚旅行だがねぇ 2か月かけて世界一周して来たら・・」
みどり:「わーっ 素敵だわぁ」
倉本は悦子に迫られ、社長に令嬢との結婚話を断る偽りの電話をする。
倉本:「どうだい これでいいだろ ひょとすると首だな 俺は」
悦子:「ごめんね」
悦子より出世を選んだ倉本は、結婚しようと言って悦子を深夜の会社に呼び寄せる。
屋上と地下を結ぶパイプシャフトに投込まれた悦子の死体は、誰にも発見されなかった。
倉本:「誰にも逢わなかったか?」
悦子:「誰にも逢わなかったわ」
倉本は悦子の死体を地下に通ずるパイプシャフトに投込む。
新婚旅行から帰って、倉本は悦子の兄・西野文雄(船越英二)の訪問を受けた。
西野は妹・悦子の失踪や妊娠の心当りを求めて訪ねて来たのだ。
<ビルの受付係役は、まだブレイク前の渥美マリ>
受付係:「西野悦子さんのお兄さんが見えまして 倉本部長様にお目にかかりたいと 仰っておられますが?」
倉本:「僕に?」
<西野文雄役の船越英二(左)>
倉本:「ご用件は?」
西野:「実は 悦子の事で 倉本部長さんとは かなり親しく交際していたようだと言う人がおりまして・・・」
倉本:「仕事の上では 付き合っていましたが プライベートでは何も・・・」
悦子を殺害した倉本は、西野を軽くあしらった。
倉本の部下・安原(片山明彦)は、蒸発した悦子から電話があったと伝える。
<片山明彦(右)は「路傍の石」の名子役で島耕二監督の実子>
安原:「部長が休んでいた時 西野悦子さんから電話かかってきましたよ 居所を聴いたんですが すぐ切ってしまったんです」
倉本:「・・・」
安原:「しかしこれで 彼女が生きている事がハッキリしました」
安原と別れた倉本は・・・
倉本:「誰かがやってるんだ 誰かが? 悦子か死んでいる事は絶対間違いない」
倉本が一人で残業をしていると、無人の文書部室からタイプの音が響くなど、社内に異変が起こる。
悦子が生きている筈はない。次第に殺したはずの悦子の幻覚に錯乱する。
やがて、悦子の亡霊が次々出現!!
みどり:「どうかしたの?」
倉本:「気のせいだったんだろうか?」
運転中にも、後部席に乗る悦子の亡霊がルームミラーに・・・
幻覚は誰かの策略か、まだ悦子が生きているのか、倉本は悦子の死体を確かめに、深夜、ビルの地下室に降りていった。
地下室、ライターの炎で悦子の死体を確かめるショッキングシーン!
特殊撮影は大映で「秦・始皇帝(1962)」や、ガメラシリーズに携わった金子友三。
そこには西野文雄が待ち構えていた。
西野:「妹を殺したのはお前だなぁ!!」
倉本:「・・・・・」
倉本と西野は格闘になり、錯乱した倉本は、悦子と同じパイプシャフトに落ちていった。
ホラー映画はストーリーが判っていても、視覚に訴えるビジュアルが面白い。
島耕二監督の正攻法な演出と、生前も死後も素晴らしい熱演の渚まゆみ。
ラストまで飽きない。
《ファンだった主役の二人》
成田三樹夫:愛称はミッキー、大映では市川雷蔵や勝新太郎の敵役を務めた。大映退社後、映画・テレビにも活躍の場を広げた。
1966年の大映TVドラマ「土曜日の虎」で、社会悪と闘う企業コンサルタント津村公役で主役を務めた。スキルス胃癌のため死去。55歳没。
渚まゆみ:大映で幅広いジャンルの映画に数多く出演、歌手としても活動した。1973年、浜口庫之助と年齢差27歳の結婚をして事実上引退、翌年に長女を出産した。
<浜口庫之助と渚まゆみ>
《「怪談落とし穴」スチール写真集(スチール・椎名勇)》
昭和の時代、映画館のウインドウに “上映中”“次週上映”のスチール写真がポスターと一緒に貼りだされており、飽きもせずに見入っていた事を思い出します。
観客が最初に目にする、その映画作品の宣伝ツール「スチール写真」は、映画ファンにとって、まだ見ぬ物語の想像を膨らませる嬉しい存在でした。
もうひとつ「大映映画某月某日鑑賞日記」より抜粋。
●井上梅次ノワール「裏階段」。知りたいことは全部安部(徹)ちゃんがセリフで喋ってくれる。下世話で忙しくて10%だけメルヴィルテイスト。
崖の模型もメルヴィル。成田三樹夫も内田朝雄も村上不二夫も悪者全員落下してスッキリ。超面白いです。(65年)
田宮二郎主演、井上梅次監督の「裏階段」。成田三樹夫も出演しています。
超面白そうで観たかったけれど、残念ながらDVD未発売でした。
★過去にアメブロ投稿した大映映画関連の記事です。
シニア世代からのお薦め、ご訪問いただければ幸いです。
★大映テレビ室制作、成田三樹夫主演のTVドラマ「土曜日の虎」。
懐かしい大映の中堅俳優が多数出演。
★スリリングなドキドキ感のクライムサスペンス映画 「大悪党」は何度観ても飽きない。
★映画評論家“白井佳夫氏”がテレビ「日本映画名作劇場」で映画「黒の試走車」を解説