大好きな増村保造監督作品です。
増村監督が生涯で残した全57本のうち、現在47本DVDコレクション出来ました。
スリリングなドキドキ感のクライムサスペンス映画 「大悪党」。
昭和43年製作/大映映画/モノクロ・スコープ/92分
公開当時、映画館で観た面白さが忘れられない。2014年、東京国立近代美術館フィルムセンター(現・国立映画アーカイブ)の「映画監督・増村保造」大回顧特集でも鑑賞しました。
街のやくざ(佐藤慶)に卑劣な手段で脅迫された専門学校の生徒(緑魔子)が救いを求めた弁護士(田宮二郎)は、殺しのテクニックを教えてその弁護もする、法律の抜け穴を衝くヤクザ顔負けの大悪党。
弁護士である円山雅也の原作「悪徳弁護士」を、「黒の報告書」(昭和38年)の石松愛弘と増村保造が共同でシナリオ化。撮影はコンビの小林節雄。
田宮二郎、緑魔子、佐藤慶は適役で、何度観ても飽きない。
DVD化されています。シニア世代からの、おうち時間にお薦めです。
恋人の大学生(森矢雄二)と喧嘩別れした洋裁学校の生徒・芳子(緑魔子)は、ボウリング場で紳士風の男・安井(佐藤慶)に声をかけられ、バーに誘われます。
大学生:「別れるの、文句ないんだな」
芳子:「いいわよ。もっと立派な人 見つけるから」
<芳子(緑魔子)と安井(佐藤慶)>
安井:「仲間が来ないんだ 投げさせてくれますか?」
芳子:「いいわ」
安井:「ありがたい では遠慮なく」
芳子は、安井が悪いヤクザとは知らず、睡眠薬入りのカクテルを飲まされ、アパートに連れ込まれた。
<芳子、安井と、安井の昔の仲間のバーテン(三夏伸)>
安井:「5ゲームも投げて のどが渇いたでしょ」
芳子:「私 アルコール ダメなんです」
バーテン:「そうおっしゃらずに きっとお口に合います」
安井:「無理に勧めるなよ」
バーテン:「ジュースみたいなもんです」
バーテン:「上玉ですね」
安井:「当たり前だ 前から目を付けて狙ってた女だからな」
翌朝、芳子は安井のマンションで目を覚まし、驚いて逃げたが、
すでに身体を奪われ、ヌード写真を撮られていた。
芳子の学生証の住所から、アパートを訪ねる安井。
部屋に芳子のヌード写真をばらまく。
安井:「どうだ よく撮れてんだろ 記念に取っとけよ 服装学院のお嬢さん」
芳子、写真を破く。
安井:「破いても無駄さ こっちにはネガがあるんだ」
芳子:「ネガをちょうだい 渡さないと警察に言うわよ」
安井:「警察が何だよ おれはヤクザだ こんな写真が出回ったんじゃ 親が腰を抜かすんじゃないかな」
芳子は安井の手から逃がれられず、マンションに監禁されてしまう。
安井は人気歌手・島輝夫(倉石功)に芳子を抱かせ、16ミリで撮影したフィルムをネタに島を恐喝する。
<人気歌手・島輝夫(倉石功)と安井>
<安井、島輝夫、芳子>
困り果てた島のマネージャー(内田朝雄)は、一件を弁護士の得田仁平(田宮二郎)に依頼する。
<内田朝雄、倉石功、田宮二郎>
マネージャー「とにかく相手は怖いもの知らずのやくざ
こっちは弱みだらけの人気稼業です。
どうしたらいいもんでしょうか?」
得田:「自業自得 どうにもなりませんね」
マネージャー:「へへへへ そうおっしゃらずに 何とか相談に乗ってくださいな」
得田:「報酬は五百万」
マネージャー:「わかりました 安井みたいなヤクザじゃ、先生に頼むしかない」
安井は芳子を骨の髄までしゃぶりつくそうとする魂胆だ。
得田が安井のマンションを訪ねる。
安井は得田に、芳子は妻だと紹介する。
安井が離れた隙に
得田:「困った事があったら いつでもここにいらっしゃい
ご相談に乗りますよ」
その後、芳子はバスタオルを羽織った姿で安井のマンションを逃げ出し、
得田に救いを求める。
得田は芳子に、安井の手から逃れるには彼を殺すほかはないと教唆した。
得田:「なかなか派手な格好ですね」
芳子:「先生なら私を助けてくださると思って 飛び出してきたんです」
得田:「君と安井は食うか食われるか、勇気を出すんだ。生きるってことは殺し合いだよ」
その夜芳子は、酔って眠り込んだ安井の首にネクタイを巻きつけ、締め殺してしまった。
連絡を受けた得田は殺人現場で偽装工作を行ない、芳子を自首させた。
芳子:「私 どうしたらいいの」
得田:「人を殺したんだ 警察に自首するのさ 君を無罪にしてやるよ
僕が帰ったら警官を呼ぶんだ」
得田は、法廷で芳子が殺人を自首したあと弁護に立ち、芳子を無罪にしようという計画である。
<岡野検事役(北村和夫)>
以降、法廷シーンでの得田弁護士の鮮やかな弁論と、アッと驚くラストシーンは本編DVDでお楽しみください。
増村作品円熟期のスクリーンの中の女性たちは、耐え忍び、幸せを求めて、その容貌が変わってしまうほど変化します。
ラスト、得田は島のマネージャーから弁護料五百万円をせしめるが、無罪を獲得した芳子が最後に口にした言葉に、得田は開いた口がふさがらない。
得田:「金も女も消えて 残ったのはたった一枚の写真か!
得田仁平 相手が男なら ただじゃおかないんだが 女だ
まけてもいいか」
この映画で「法律には“一事不再理(いちじふさいり)”という原則があって、同じ事件は二度と裁判しない」という事を知りました。
増村作品に田宮二郎は「黒の試走車」「女の小箱・より 夫が見た」など数多く出演、緑魔子は「大悪党」の翌年「盲獣」(江戸川乱歩・原作)に出演している。
<増村保造監督がいる風景(「大悪党」より)>
<「大悪党」のDVDジャケット>
《参考》
2021年5月3日、増村保造監督の映画「黒の試走車」に関する記事をアメブロに投稿しました。
併せて参照ください。
『白井佳夫氏が解説 映画「黒の試走車」』
https://ameblo.jp/sinekon/entry-12672242013.html?frm=theme
増村保造(1924-1986)は1952年にイタリア留学、フェデリコ・フェリーニやルキノ・ヴィスコンティらに学ぶ。帰国後、溝口健二や市川崑の助監督を経て、1957年「くちづけ」で監督デビュー。若尾文子とタッグを組んだ「妻は告白する」「赤い天使」「刺青」や、「兵隊やくざ」「陸軍中野学校」で勝新太郎、市川雷蔵の大ヒットシリーズの第1作を監督して大映絶頂期を支えた。
大映倒産後は、ATGで「大地の子守歌」「曽根崎心中」などを監督。勝新太郎の勝プロと組んで「御用牙かみそり半蔵地獄責め」などの作品を監督した。
1970年代以降は、大映テレビ「ザ・ガードマン」「赤い衝撃」「スチュワーデス物語」などのテレビドラマの演出・脚本を手がけ、「大映ドラマ」の基礎を作り上げた。