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妄想最終処分場

好きなジャンルの二次創作ブログです。
現在はス/キ/ビメインです。
ちょいちょい過去活動ジャンルも投入予定。

*出版者様、作者様とは一切関係ございません。
*禁:無断転載、二次加工、二次利用

皆さまこんにちはー。2週連続の寒波のなかいかがお過ごしでしょうか?

確かに寒いですけど、私の地域は通常営業な天候です。特に大雪でもなく、いつも通りチラホラ降って路面が適度に白い。


あ、自ブログですので興味ない方は回れ右で!


そう言えば、呟き的自ブログは久しぶりでしたね。前回は愚痴吐いてゲロゲロしてた…ハズ。

ちょっと反省してました。ぼやきすぎだろーって。びょーきは相変わらずですが、これだけ更新できてるので今は小康状態でしょうかね。



昨日はどうした!?という過去にない馬車馬っぷりを発揮した自分に一番びっくりです。

気がつけば1日で5更新…???

朝アップした続き妄想は予定投稿だったけど14日の夜中の3時ころまでカタカタしていたので、昨日はほぼ一日PCの前でカタカタしていたことになります。…オソロシイ。

ホントに午前中に降って湧いたネタで、最近の更新頻度を考えると物凄いスピードでした。

なんだ、やればできるんじゃん自分!!!


コメントもたくさんたくさんいただきまして、感謝です~!

こんなにガリガリコメント貰ったの初めてかも。明らかに連続更新を後押ししてくれました。

盛り込みきれなかった小ネタもあるし、チョコのやり取りは当初妄想した物とちょっと違った形になりましたが(脳内の暴走キョコさんがチョコを床に叩きつけたので…。当初は私が食べる!いや俺が!とキョコさんと蓮さんで仁義なきチョコ攻防になる予定が…)まあ、結果面白い方向になったのでヨシかな。


不憫ヤッシーをもうちょっと盛ろうかとも思ったんですが、ヤッシーがチョコ整理に逃亡しちゃったのであれで〆させててもらいました。その後の不憫ヤッシーは皆様の脳内で妄想してくださいませ。

あとは、坊バレ…ですかね。でももうそれは書かなくていいやw連載の方でも同じとこを書いてるので、無意識でもダブっちゃうしそうそう違う展開にも持っていきづらい貧相な妄想脳なので放置です。


分かっちゃいたけど、息が続く範囲の勢いって大事ですね。昨日途中で力尽きてお話を残したらのったりモタモタ更新になったはず。

あ、でも描きはじめ当初はほんとに前後編の予定だったんです!いつもの1話のボリュームに対して前編が軽すぎたので、書いてるうちにアレ?ボリュームのバランスとれない??となりまして、前後編が前中後編に、中まで書いたら後編がもっとボリュームアップで4部構成に。

ちなみに「前中編」「中後編」はちゃんとある言葉か分かりませんのでご注意を!私の造語的な区切りですので~。


本命VDも終わったし、今回はネタが無いからスルーかなーといってたメロキュン企画も気がつけば2本(計6話)としっかり参加w

でも二つとも、タイトルも内容もよそ様のキラキラスゥィートなお話に比べてトリッキーでしたね。

『ウイルス』と『ハラキリ』ってアンタ……まあ、蓮キョファンはゲロ甘も極甘も大好きでしょうけど、箸休めの漬物的な役割を果たせたのなら嬉しいです。


さて、今後ですが。

昨日はイレギュラー馬車馬(←できてたよね!Y様!?)でしたが、今書き途中の続き妄想もちとガンバレー!ここで止まったら死ぬぞー!!な私的心理葛藤の強い佳境に入っております。

ほらっ、2月に入ってから5話も更新してるし!

2月は主になうってましたが第一週は都会にお出かけ、第二週は温泉にお出かけとプライベートの用事も多めなのによくやってるなー自分・・・自画自賛。


このままへこたれつつもなんとか勢いを維持したい所ですが、


多分、

おそらく、

しばらく、


止まります(宣言)


これだけの馬車馬をしてしまうと、もう息切れです。

そしてそれに合わせて個人的な用事や仕事やなんやらで、集中してカタカタできる時間がここ数日とれるか怪しい・・・。


そんなわけで続き妄想はしばらくお待ちくださいませ~。

脳内展開ではあと5話程度でゴールかな?…私をよく知る方はこれで分かるでしょう…、そう言ってから大抵話数だけなら×2~4になることを…!遠いな…。

↑変なスイッチ入って一気に書けることを私も希望しております(他人事w)


霜月プレゼンツ!甘さ皆無のバレンタインデーベインデーネタ、続きです!

よかったー!おさまったー!!これでラストの後編です。


許可を頂きましたので、メロキュン参加作品とさせていただきます!

お祭り会場はこちら↓
総合案内 魔人 様、ピコ 様、風月





*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆




HARAKIRI 後編






「…………………君はそんなに俺が嫌いか……?」





「だから!好きだって言ってます!!」










何だコレ…。

見届けたはいいけど………いい…のか?



社はキョーコに言われた通りに水を用意し、ついさっき自らが本命と知って破顔していた男が思わず口にしたセリフと、やっと「好き」というオーソドックスな言葉を口にしたはずの女が逆切れ口調で返しているのを眺め、居心地の悪さを感じていた。


「謝りませんからね。そのチョコは最初っから私が自分のために作ったものなんですから」


勝手に食べたあなたが悪いんですと憤慨するキョーコ。

そんなキョーコに対し、蓮はちゃっかり膝枕なんてしてもらってソファに横になっていた。


口にした瞬間のあまりの苦みの衝撃に、また口の中が渋い。

蓮は水を口にしつつ、それでもそのチョコを食べるのを止めない。


そう言えば禊とか毒悪な感情とか、そんな気持ちを詰め込んだチョコと前置きしていたキョーコ。

蓮が倒れた状態で、そのチョコの正体を社はキョーコに確認した。こんな状態でも蓮のマネージメントを行う社の責任範囲の事柄だから。


常軌を逸した状態だったが、間違いなく愛の告白を受けたはずの担当俳優が本人に「嫌いか?」と聞いてしまう程の破壊力を持ったアイテムなのだ。


「え?市販のチョコを溶かして固めただけですよ?むしろ手作りというのが烏滸がましいくらいの品です」


キョーコの回答に社は首を傾げた。そんな社に、キョーコはカバンを引き寄せパッケージを見せてくれた。


「これです」


社に手渡されたチョコレートのパッケージ。

それはおかしなパーセンテージが表示された重厚なデザインの板チョコだった。


「………これって…」


食べ物に興味のない蓮は知らないかもしれないが、人並みの食欲と芸能界を生き抜くマネージャーとして流行り廃りや時事ネタはある程度おさえている社には見覚えのあるソレ。


砂糖を一切含まず、カカオ主成分で99%構築されたその食べ物はもはやチョコレートとは呼べないという評判のモノだ。残りの1%は土だとの噂もある。


「だって、私の持っている毒悪な感情に合致して、自らの禊として食べるにはぴったりでしょう?」


にこやかに笑うキョーコに社は背筋に感じた悪寒を隠せない。

キョーコの用意した切腹用の鋭利な刃物は、超絶な苦みを持つチョコレート。

コレを一気に食べる所行がキョーコ式の失恋切腹行事なのだ。見事十字に切りさいてやり遂げて見せるとはのことを指していた。

自らの恋心を甘さ皆無で苦みと表現するあたり、やっぱりさすがはラブミー部員。


「きょ、キョーコちゃん。これってほんのちょっとずつ食べるのがいいって…」

「はい。でも自らの粛正の為に私は一気に食べるつもりでしたけど。…って、敦賀さん!」


社との会話中も、まるで苦行のように巨大なひび割れチョコレートの欠片に手を伸ばす蓮をキョーコがたしなめた。


「無茶しないでください!これは一気に食べる様な代物じゃないんです!」

「…自分は一気に食べようとしてたくせに」

「敦賀さんはこれからお仕事です!ほんのちょっとでもこんなに疲労困憊してるのに!」


キョーコは蓮の手の届く範囲からチョコを遠ざけようとするが、蓮は頑として凶悪チョコレートの入ったひしゃげた箱を手放さなかった。


「嫌だ。だってこれは最上さんの気持ちが詰まってるんだろう?全部食べる」

「な…何を屁理屈を…。これは甘いものと一緒に少量ずつ食べるモノです」


オカシイな、この二人バレンタインにチョコのやり取りをして、紆余曲折と常識逸脱を経てだったけど両想いになったんだよな…?とあまりにも素のままの会話を膝枕というラブラブカップルのスタイルで交わしている蓮とキョーコに社は頭を抱えたくなった。

おそらく、そんなことは二人とも…少なくともキョーコの方はすっかり忘れてしまっているんだろう。


「分かった。甘いものと一緒に食べればいいんだね?」


蓮はむくりとキョーコの膝から起き上がった。そしてキョーコの隣に座り直す。…そう、至近距離に。

社は嫌な予感がして2人から目を逸らし、まだたくさんあるチョコレートをダンボールの隙間に詰めはじめた。


キョーコは蓮が何を言わんとしているか全く理解できず小首をかしげている。

蓮は追加で割れたチョコレートを手にして口の中に放り込んだ。途端、その苦味に歪む蓮の表情。


「ああっ、またっ……んっ…」


その様子に眉を顰めたキョーコを引き寄せ、蓮は素早く小言を紡ぐ唇を塞いだ。

蓮の舌先からチョコレートの苦みが広がり、キョーコの眉根がきゅっと寄った。


「ん…甘くなった」


ぺろりと出した蓮の舌先に乗っかった苦い苦いチョコレート。

それを見せつけられて、口の中を占拠する苦みが蓮のキスでもたらされたと理解したキョーコは、やっと乙女らしい反応を見せた。


首から額まで…甘い甘い苺のように真っ赤だ。


「やっぱり恋人とのキスは甘くていいね」


「なっ…こ…っ!!」


「だってそうでしょ?最上さんの本命は俺で、俺の本命は最上さんだし」


口元を両手で覆い真っ赤になったキョーコに、蓮はにやりと笑った。

夜の雰囲気を醸し出した蓮の指先がキョーコの手を引きはがし、柔らかそうな唇をなぞった。



「さて、このモンスターを攻略するために、協力してね?」


~~~~

スイマセン!

カ○オ99%、ホントに溶かして固められるかはわかりません!!!

霜月プレゼンツ!甘さ皆無のバレンタインデーベインデーネタ、続きです!

後編に納まらなかったので急遽分割…スイマセン中後編となります。(それに伴い先にアップした中編を前中編にタイトル修正しました)無計画にも程がある…。

許可を頂きましたので、メロキュン参加作品とさせていただきます!

お祭り会場はこちら↓
総合案内 魔人 様、ピコ 様、風月





*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆




HARAKIRI 中後編



蓮の手中に納まってくれないバレンタインのチョコレート。

常にはない違和感に蓮は注意深くキョーコを見た。異常なまでに硬いキョーコの態度に気持ちが行っていたが、よくよく見ればその違和感の正体はいつもと真逆の栗色の髪の流れに気が付く。セットのワンピースかと思いきや、シャツとワンピースの色合いが微妙に異なる。


(このシャツ…男物??)


一瞬黒い嫉妬が渦巻くが、小柄なキョーコのの体系に合ったシャツはメンズ物のSかXS。誰か持ち主が他にいる洋服ではなさそうだ。


「ありがとうございます。受け取ってもらう言葉だけで十分です…」

「あの…このチョコ。俺にくれるんじゃないの?」


ぎゅうっと握りしめられて少し歪んだ箱に蓮は戸惑いを隠せない。手の中に降りてこないギフトはまるでキョーコのようだ。


「そんなに優しく…誰にでも返すようなお礼の言葉なんていりません」


キョーコの挙動不審っぷりに少し硬かったお礼の言葉がいけなかったのだろうか?

チョコを差し出した癖に、一人で突っ走っているキョーコは取り付く島も与えない雰囲気だ。


「つかぬことをお聞きしますが…」

「うん?」

「敦賀さん、いただいたバレンタインチョコ…どれも食べませんよね?」

「……っ」


先ほど社に突かれた質問を、キョーコにも突きつけられて蓮は答えに詰まった。いや質問と言うよりは単なる確認の色合いの言葉だった。


確かに義理チョコは食べない。その中に紛れている本命チョコだって応える気のない相手からのものは申し訳ないけど口にすることはしない。

でも、本命チョコ……自分の本命であるキョーコからのチョコだとしたら、もちろん別問題だ。


「そ、そんな事、ないよ?」


だからコレ、ちょうだい?とキョーコの硬さを取り除く様に蓮は微笑んでみせるが、顔を上げたキョーコはギッと蓮を睨みつけた。


「嘘ばかり…。いくら事務所の後輩だからといって、そんな紳士な嘘は必要ありません!」

「なっ…」


キョーコの表情に気圧された蓮は思わず身を引きそうになるが、今この場で箱から手を放したら終わりな予感がして辛うじて手は放さなかった。


「社さんに聞いてます!いただいたチョコ、一つでも手を付けると他も食べなきゃ悪い気がしてと召し上がらないこと!」

「それは…」

「食の細い…いえ食欲中枢の壊死した敦賀さんが、人の好意とはいえ栄養価値も低く多く摂取すれば百害あって一利なしの嗜好品を自ら摂取するとは考えられません!」

「いや、だから」

「第一、大して許容量のない胃袋の持ち主の癖に、お義理のチョコの食べ過ぎで体調不良になった敦賀蓮なんて事務所的にもNGですっ!」


ぶほっ、と見届け人を言いつかった社が思わず後ろで吹き出した。しかしそんな事に構ってられない蓮は自分の言葉に耳を傾けずたたみかけてくるキョーコに必死に抵抗している。


「最上さん、とにかく俺の話を…っ」

「しかも!敦賀さんには好きな人がいるのを私は知っています!このチョコはっ…!」


力任せの攻防の末、荒ぶるキョーコは蓮の手の中から強引に箱をむしり取り、力いっぱい床に叩きつけた。

パキリと中に入っているであろうチョコが割れた音が箱が潰れる鈍い音と一緒に控室の中に響いた。


「私が敦賀さんに潔くフラれ、自ら食すために作った本命チョコなんです!!」

「……え?」


キョーコの叫びに蓮はフリーズした。


「これはっ!私の愚かな感情がいっぱいに詰まったチョコです!!」


無残に叩きつけられた小箱をキョーコが拾い上げ蓋を開ける。中にはシンプルに…でもチョコとしては巨大な15㎝大のハート型の武骨なチョコレートが入っていた。もちろん、さきほどの衝撃で、そのチョコにはいっそ清々しいほど大きな罅が入り割れている。いわゆるハートブレイクな状態だ。


「わたくし最上キョーコは今日この場で大先輩敦賀様に抱いた毒悪な感情を禊としてこのチョコを食べることで捨て去り、一層女優の道に邁進し!二度と…っ、いえ恋愛などと愚かな感情を抱く三度目は決してないことをここに誓います!!」


はあはあと切らした息を整えて声高らかに宣言するキョーコに、蓮は呆然としていた。


(今…最上さん…)


明らかにキョーコが蓮に恋愛感情を抱いているという告白なのに、あまりの異常さに頭がついていかない。


(本命チョコって言った…?)


「大体貰っておいて食べないなんて、食べ物に対しての冒涜です!食べてもらえないのなら自分で食べます!」

「いや、キョーコちゃん貰ったチョコは捨てるとかそんなこと…」

「贈った本人と違う人が食べてれば同じことです!!」

「ひぃ…っ」


フリーズしてしまっている蓮の名誉のために社が口を挟むが、キョーコは蓮に対したのと同じ般若の形相で社の反論を許さなかった。

しかしそんな社が作った時間で、ようやく蓮は動き出すことができた。


「……最上さん、コレ…本命チョコ?」

「だからさっきからそう言ってるでしょう!?」


キョーコの手の中の割れたチョコを見て蓮が訊ねる。


「じゃあ……食べる」

「何を言ってるんですか!これは私が自分で食べるために作った…って……え?」


蓮の言葉に今度はキョーコがフリーズした。


「確かに、今までのバレンタイン、貰ったチョコは食べたことはないよ。一つ食べたら全部食べないと申し訳ないし」

「いえ、だからそれは知ってますっ」


「でも本命は別」


「え?」


キョーコの目の前には、神々しいまでの蓮の破顔があった。


「俺の本命である最上さんのチョコは特別」

「なに…を…」


「というか、最上さんからのチョコ以外なんて、興味ない」

「ふ、ファンを大事にする芸能人として失格の発言ですよっ」


頭の理解が追いつかないキョーコは、直前の蓮の言葉尻だけに反応するのが精いっぱいだった。


「だからこのチョコ、ちょうだい?」


キョーコの手の中から割れたチョコを一欠片、蓮の長い指先がつまみ上げる。

スローモーションのようにゆっくりだったのに、キョーコは蓮から投げかけられる言葉がなかなか理解できずにただただ持ち上げられたチョコレートの欠片を見つめていた。



「君の気持ち、いただくね」



「……っ!ダメっ!敦賀さん、それは……っ!!」


キョーコが我に返って青ざめ制止の言葉を投げかけた瞬間、チョコレートは蓮の指先から離れ口の中に消えていく。









「…っ、ぐっ…っ!」

「社さんっ!水!!お水を…っ!!!」


蓮の表情が歪むのと、キョーコが叫ぶのは同時だった。


霜月プレゼンツ!甘さ皆無のバレンタインデーベインデーネタ、中編でっす!←前編が短かったのでバランスを考えて前中後編・・・?の予定。(でもこの先後編で終わらなかったらどうしようw)

2/14 20:003部構成に納まらなかったのでタイトル前中編に変更しました。スイマセン~

許可を頂きましたので、メロキュン参加作品とさせていただきます!

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総合案内 魔人 様、ピコ 様、風月



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HARAKIRI 前中編



コン コン


「はい」

「おはよー、敦賀君~」

「おはようございます」

「これぇ、チョコなんだけどぉ、もらってくれるぅ~?」

「え?いいんですか?ありがとうございます」

「私が貰って欲しくて勝手に用意してるんだから~。こっちがお礼言いたいわ!ありがと」

「いえいえそんな……」


ノックの瞬間はぱっと顔を期待に輝かせ、開いたドアの先に期待した人物がいないことに現実に返り、そして今日何度聞いたか分からない会話のやり取りを聞いていくうちに明らかにテンションが下がっていく。


「ここ数年言ってますけど、その明らかにテンションの下がった表情で来た女性を出迎えるのやめませんか…」


社の表情に、相手が楽屋を離れたのを見送った蓮はここ数年続いている注意を投げかけた。


「数年じゃないよ、もう4年目だ」


ちょっと失礼ですよという蓮に、社は俺は役者じゃないから何とも思ってない人にそんなに愛想はふりまけない、といじけながら楽屋奥に準備したダンボールを組み立てている。


(そうは言っても、毎年裏工作する癖に…)


なんだかんだ言って敏腕マネージャーはどうしてかこの日にキョーコとのニアミスをセッティングしている。

一昨年はちょうど昼食の休憩時間にキョーコが手製の弁当を持って楽屋を訪ねてきた。

去年は夕食は社さんに依頼されました!と珍しく20時には自宅に戻った蓮のもとにキョーコが訪ねてきた。どちらもチョコレートではなかったが、スイーツ付きの食事の差し入れだ。

その後ニヤニヤと、「進展はあったかね、蓮君?」と結果を分かり切っているのに聞いてくるのだ。

追い打ちをかければ、それをダシにからかわれること請け合い。

泣いて縋るつもりもないが、もうセッティングしてやらないとスケジュール管理を任せている社に言われれば、少ないプライベート時間で自力で解決するのは難しいだろう。何せ社は絶対にキョーコのスケジュールも把握し、多少は弄っているのだから。


そして今年もそれを期待してしまっている自分に蓮は軽く頭を振った。


「もらったチョコは…例年通りでいいな?」

「…はい」


組み立てたダンボールに、控室に溢れるチョコレートを社が詰め込んでいく。華やかなラッピングが無機質なダンボールの箱にとって代わっていく楽屋で、蓮は社の行動を自然と観察していた。

いつもならまだ控室に人が訪ねて来そうな時間帯には失礼になるからとダンボールにいただいたプレゼントを詰めたりはしない。

時折ちらりと時計を見てはせっせと詰め終わったダンボールを控室の隅のくぼんだ場所に積み上げていく。

その様子から、今年は昼間にキョーコが来れる時間帯があるのだなと蓮は思い至る。

社がキョーコに何かしら情報を流しているのは確実だが、キョーコが蓮の楽屋に来るか否かは別問題なのに、来るはずと期待してしまうのは学習能力か惚れた弱みか敏腕マネージャーの誘導か。


不確かな情報を確かな予測にして他人の意識に植え込む社の情報操作の餌食になってしまった自分。


(外れたら、責任とってもらわないと…)


「で、今年は何だろうな~?」

「何がです?」

「とぼけちゃってさ。キョーコちゃんだよ!今までチョコは無かったけど、バレンタインチョコは食べない蓮君はキョーコちゃんのチョコを貰ったらどうするんだろうねぇ~」

「………」


ぐふふ、と笑う社に蓮は沈黙を通した。

3年前のバレンタインの時に社に突っ込まれた質問の答えはいまだ出ていない。

というか、キョーコからバレンタインに何らかの形でお世話になっていますので、とプレゼントは貰っていたがチョコレートは貰った事が無いのだ。



コン コン


再びドアがノックされ、社の表情が先ほどと同様にぱっと期待に輝く。


「はい」


社の態度からそろそろだろうかと思ってしまった蓮の返答は、ほんの少し緊張した色合いを含んでいた。


「おはようございます!敦賀様!」

「あ…おはよう…?」


開いたドアの向こうに立っていたのは予想通りの人物だったのだが、その人物の表情は予想とは異なっていた。思わず、出迎えの言葉が尻すぼみになってしまう。

ドアの向こうにいたのは浅葱色の洋服に身を包んだ蓮の想い人。

背中に鉄筋でも入っているのではないかと思うほど真っ直ぐに背筋を伸ばした仲居立ちに一文字に結んだ唇。緊張と覚悟を思わせる張りつめた雰囲気に呼びかけはいつもの敦賀さんではなく敦賀『様』。

様付けで呼ばれるのは、大抵何かしら思いつめ突拍子もないことを言いだす時のサインだと、ここ数年の繰り返しで蓮は学習していた。


ビシリと直立しカックンと綺麗な斜め45度のお辞儀をしたキョーコ。取りあえず、と蓮は楽屋内に受け入れた。

開いたドアは気を利かせた社が閉めに行く。むろん、ドアの外側に『ただいま取り込み中。入室はご遠慮ください』という張り紙を張り付けていることに二人は気づかない。


「取りあえず、座って。どうしたの?そんなに難しい顔をして…」

「あ、いえ…」


思わず突っ込まずにはいられないキョーコの表情。およそプレゼントを渡しに来たとは思えないその表情に用件は何だろうと蓮は話しかけた。

蓮に指摘されて、キョーコははっとした様子で一度ため息をつき俯く。気持ちを落ち着かせたキョーコが再度顔を上げると、目の前の蓮はもとよりいつもなら女子高生の様なキラキラした瞳でこっちを見ている社も不思議そうな顔をしているのが目に入った。


「お、お渡ししたいモノがありまして…」


おずおずと零れた言葉に社は内心ガッツポーズをとる。


「あ、蓮に何か持ってきてくれたんだろう?」

「社さんにもお渡しした物があるんです!」


いそいそと気を利かせて部屋を出ようとした社をキョーコが呼び止め、持参したカバンをごそごそと漁る。

最初の年は蓮より先にチョコを渡されて焦りまくった社だったが、例年お世話になっている人用のチョコを社に用意するキョーコに、社も初めての時ほどの焦りは感じずにキョーコの行動を見守ることができる。


「毎年同じもので申し訳ないのですが、お世話になっている社さんにバレンタインのチョコを…。受け取ってもらえますか?」

「あ、ありがとう」


蓮より先に、義理と分かり切っているけれどチョコを受け取るこの気まずさは完全にはなくならない。しかも、さっきから蓮に対してはなぜだか鬼気迫る表情をしているのに社にチョコを手渡す時はいつもの柔らかな表情なのだ。可愛らしいラッピングのソレを受け取りつつ、背中に突き刺さる気がするキラキラスマイルを予感し、社は背中に嫌な汗をかく。


「きょ、キョーコちゃん。もちろん俺『にも』って事は蓮にも渡すものがあるんだろう?」


今年、蓮の誕生日プレゼントはすでに手渡されているのは知っている。なので、今日渡したいモノはバレンタインのプレゼントに間違いない。

背後でペットボトル飲料に手を付ける蓮の気配を感じつつ、社はキョーコに耳打ちした。


「はい…まあ…」

「じゃあ俺はいったんせ…」

「困ります!」

「へ?」


席を外すからと言いかけた社の言葉を遮ったキョーコの表情は、先ほど蓮と対面した時のソレになっていた。


「社さんには見届け人になっていただきたいので!」

「ええっ!?」


それってそれって!まさかの告白!?

でも見届け人ってなに!?

キョーコちゃんの告白なんて言ったら、蓮の口から出るのは砂吐くばかりの甘い台詞ばっかりに決まってる!

それを見届けろって事!?いくら可愛い妹のお願いでもそれはちょっと酷だな…

ああ、もしかして!舞い上がった蓮が暴走しないように監視する防波堤って事?


瞬時に期待と困惑が入り混じった連想が社の中に駆け巡るが、いまいちいつものようにきゃあ~と盛り上がれないのはそう言いすがるキョーコの表情だろう。

緊張しているのはよく分かるが、よくある告白前で緊張に震える乙女のそれとは程遠い武士の様なキョーコの表情に不安が隠せない。


社を室内にとどめたキョーコは、回れ右をして蓮に向き直った。それこそ、保健体育の授業で習うような、右足を一歩引きくるりと体を反転して前に出た右足をとんと左足の脇にそろえる。


「敦賀様」


キョーコの手の中には、シンプルなリボンが巻かれた小さな小箱。

これがチョコじゃないと言ったら何を期待するのだろうという外観の箱を手にしたキョーコを見て、蓮は息を呑んだ。

社に渡したものとは外観の異なる15センチ四方のその箱。


しかし気になるのは、さっきと同様に様付けで呼ばれる自分の名前。蓮の胸中に不安が過ぎる。

ビックリ箱のように予想外の行動をとるキョーコを知っている蓮の学習能力は警報を鳴らしていた。


「お渡ししたいものがあります。バレンタインのチョコレートです」


告白とは縁遠い表情のまま、キョーコはずいっと手にした小箱を蓮に差し出した。

キョーコの口から中身がチョコレートであることを明かされたそのプレゼント。毎年お世話になった人用はサイズ・パッケージがみんな同じことを知っている蓮と社は、明らかに義理チョコの社と異なる外観の箱にごくりとつばを飲み込んだ。


蓮よりも早く反応し、キョーコの背後できゃぁあ!という表情をした社が次の瞬間にやりと意味ありげに笑うのが蓮の視界の端に映る。しかし、社とてキョーコのバレンタインチョコを渡す女子とは程遠いこの硬い態度に若干手放しにからかう気分に乗り切れないでいるようだ。ほんの少し、微妙な色を残した表情で2人を見ている。


「あ、ありがとう…うれしいよ」


若干の困惑を残しつつ、述べたお礼は硬かっただろうか?

お礼の言葉を口にして、キョーコの手からその箱を受け取るべく蓮は手を伸ばした。

愛しい少女からのプレゼントだ。どのような状況であれ受け取らないなんて選択肢は存在しない。


しかし、取り落とさないようにしっかり箱を持った蓮の手にその箱の重みは伝わってこなかった。


「も…最上さん?」


困惑の表情で蓮はキョーコを見る。

俯いたままのキョーコの手は箱の反対側をしっかりと持ったままで、蓮の手が箱に添えられてもその手を放さなかった。



罵蓮多淫オメデト―!←パソコンでバレンタインと入力し変換を細切れにしたらこうなったw


2/10に引き続き作品アップ目白押し確定な本日2/14!ちょうどお休みだった私はウハウハとすでにアップされた作品を読み漁っておりました。そしたらなぜだか急にVDネタが降りてきた?ような??

ええ、こんなタイトルですが、一応!バレンタインネタです。

メロキュン企画に参加させていただいたpresent virus以上に甘さもなく、お題のハッピープレゼントにも反するような気がしてならないので、企画参加モノと名乗りを上げることができませぬ…いや、行きつく先は蓮キョなはずなので、蓮さんにとってはビターでもハッピープレゼントになるのか??←自分では判断できませんので、主催者様からお許しがあれば企画参加モノにカテゴリー修正いたします(他力本願…)

2/14 14:00主催御3方中2名様より許可をもらいましたので、メロキュン企画参加作品にカテゴリー切り替えます。


お祭り会場はこちら↓
総合案内 魔人 様、ピコ 様、風月


ともあれ、超短いですが、前後編(前中後?見切り発車なので分かりません)の最初を今日アップしたから残りは遅れても許してもらえるよね?あーんど、アップしたからには続きを書かねばと自分に対しての強制プレイです。


前置きが長くなりましたが、苦さしか残らないベインデー、お楽しみいただければ幸いです。



*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆



HARAKIRI 前編



今日という日は、一歩外に出ると浮足立ったピンク色の空気が見える。


壁にかけてあるカレンダーをキョーコは見上げた。今日の日付の欄に黒いマジックでしっかりと力強い筆跡ではっきりと×印が書きこまれている。


そう、今日は2月14日St,バレンタインデー。否、キョーコにとってはベインデー。

世の女子の告白一大イベントの日に、その世の女子と同様に手の中にリボンをかけた小さな小箱を手にするキョーコの表情は、今日全国に溢れる女子とは真逆の…切腹前の武士の様な覚悟の表情だった。

思わずその手にした小箱が己の腹を切り裂く短刀に見えてしまうような、そんな雰囲気だ。


(介錯は望まない…っ!潔く散って見せるんだから!!)


そう、彼女にとってはこのチョコレートは甘い甘い気持ちを詰め込んだスイーツではなく、切れ味のいい刃物そのもの。


(武士の切腹は苦しまなきゃいけないから、突き刺すだけじゃなくて横に傷を切り広げるのよね!)


更にいえば横に切った後縦に切り上げる十字切腹ならなおヨシ!とキョーコは拳を握りしめた。

そんなキョーコの前には本日の朝食が並んでいる。

あっさりのお茶漬けに漬物が3切れ。朝食はしっかり派のキョーコにしては質素な内容だ。

そしてお膳の前には右利きのはずなのに、右側に置かれた箸置きとその箸置きの上に持ち手が左側に置かれた箸。


シャワーを浴びて、ドライヤーで髪を乾かす。いつもとは逆向きに前髪の分け目と毛先の流れを撫でつければ、鏡に映る自分はテレビのモニターの中に映る自分と同じだった。上下白のシンプルな下着を身に着けキャミソールも白。おろしたてのソレだが勝負下着というにはあまりにもシンプルすぎて、キョーコがそう言った方向の事は全く考えていないのは一目瞭然だ。シンプルな浅葱色のワンピースに同系色の…なぜだか男物のシャツ。着こむときにボタンの合わせがいつもの逆なのに違和感と覚悟をもって指先を動かした。


「いただきます」


きっちりと洋服を着こみ手にしてい小箱をカバンに仕舞い込んで、キョーコは作ったというにはあまりにもシンプルな朝食に手を合わせた。



今日はバレンタインデー、否キョーコにとってはベインデー。


蓮に対して恋心を抱いてしまったキョーコ。

どんなに隠しても押さえつけても膨らむそれは苦しいばかりで。

ふとした瞬間に蓮を思い浮かべてしまう自分に失望すらした。


蓮には好きな人がいるのを知っているのに、おろかに後輩として傍にいたいと思う自分に年々呆れと失望を積み重ねていった。


キョーコの予想通り、蓮がバレンタインにもらったチョコレートを食べないのはあの殺傷能力の高い頬キス事件のあった混乱のバレンタインの後に社から聞いていた。

その時思ったのは、チョコだと食べてもらえないかもしれないから、と生もののゼリーを差し入れた自分の浅ましさだ。それから数年、蓮にはチョコレートではないものを日頃のお礼と称して贈っている。

社の計らいもあり、その場で食してもらえる状況が多く目の前でキョーコの隠した感情ごと蓮の口の中に消えていった数々のバレンタインプレゼントたち。

それに甘えきっていた自分はどこか傲慢になっていたのかもしれない。


「ケジメよ、キョーコ!二十歳になったんだし、いつまでも甘えてなんかいられないんだから!すっぱり、きっぱり!新たな一歩を踏み出すのよ!」


世の中の風潮に便乗して、この毒悪な想いを潔く切断してもらうのがキョーコの望みだ。



今年用意した小箱の中身はキョーコ特製チョコレート

日頃のお礼用に親しい人用に作ったチョコレートとは別物だ



それはキョーコの女々しさを切断する、鋭利な刃物



……のはずだった


10/19発売の本誌ACT205の続き妄想です

ネタバレものなので、未読の方、コミックス派の方はバックプリーズ!!


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それでは自己責任でご覧くださいませ↓







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ACT205妄想【16】



遠くに聞こえる電子音や話し声。ザワザワと鼓膜を揺らすその振動は人の気配を感じさせて、妙な安心感があった。


(……あ…れ…?)


浮上した意識のままキョーコは目を開いたが、視界は明るくなったものの目の前は柔らかな白で何も見えない。思わず自分の顔に手を伸ばして、指先に触れた柔らかな感触に自分の目の上にタオルがかぶさっていたことに気が付く。眼の上を覆ていたタオルを取り去ると、見慣れない天井が広がっていた。


「…どこ…?」


思わず漏れた言葉は、呼気とともに粘つく口内を意識させた。気持ちの悪い酸味と臭気が吐き出した言葉の後自然と吸い込んだ空気に乗ってきて、口を濯ぎたい衝動に駆られる。しかし、吐き気は無かった。

キョーコは体を起こして周囲をぐるりと見回した。照明は付けられてないが、ブラインドから漏れる外光で部屋の中は比較的明るい。部屋の隅に手洗い用の洗面台を見つけ、キョーコはノロノロと起き上がる。横になっていたのはどうやら広めのソファーのようだ。起き上がって初めて、身体の上に薄いブランケットがかけられているのに気が付く。少し薄汚れていて、煙草の匂いが染み付いたそれ。

状況が理解できずに、キョーコが再度周囲を見回すと壁にかかった時計が目に入った。チッ、チッと秒針が刻む音が妙に耳に残り、ぼんやりしていた思考は一気に現実に引き戻された。


「…っ…!!やだ…っ!収録…っ!」


蓮を楽屋に迎えに行く時間は予定表では13時半だった。時計が4時半を指し、窓の外が明るいことを考えると今の時刻は16時半のはず。大幅に過ぎているその時刻にキョーコのぼんやりした思考は回転しだした。


「とにかく行かなきゃ…」


収録は始まっているはずで、しかも自分が寝こけていたとしたら誰かが呼びに来るはず等の考えは回らなかった。焦ってブランケットを跳ね除け、足を床に付けて立ち上がる。ふわりとした浮遊感が一瞬襲うがふらつくほどではない。あの洗面台で顔を洗って、とにかくスタジオに行かなきゃとソファの下に置かれていた自分の靴を履こうと手を伸ばした時、ふと左手に突っ張る様な抵抗を感じた。


「…?」


視線を己の左手に向けると、そこには白いテープとそのテープの下からにょろりと伸びた細いチューブ。そのチューブの先を目で辿っていくとそれは天井に向かって伸びており、壁際にあるソファーのすぐ真横、窓枠の上にあるカーテンレールを見上げることになる。

ぷらん、とキョーコの視線の先には水が少量残る透明な袋がぶら下がっており、そこからチューブが伸びている。途中筒状になった個所には水がたまっており、ぽたんぽたんと水滴がしたたり落ちていた。


「…てん…てき…?」


キョーコが左手を動かすと、チューブに引き攣られてほぼ空になった袋が揺れてカチャンとカーテンレールが小さな音を立てた。健康優良児のキョーコは今までテレビの中や撮影の現場でしか見た事のない医療機器に首を傾げ、これじゃあ繋がれてて洗面台まで行けないわ、とどこかズレた事を考える。


酸味の中る気持ち悪い口の中に、控室のトイレで吐いていたのを思い出す。

嘔吐で苦しいなか、光の声を聞いた気がする。

吐き気は今はなくなっているのは、この点滴のおかげだろうか?


「…点滴…くすり…?」


ぎくりとした。

カバンの中のポーチを見て、吐き気に襲われて何を考えたのか。

自分ではまだ確かめてはいない。でも…そうならば。


キョーコの手は知らず、自分の下腹部に当てられていた。


点滴など医療行為を施されているとしたら、誰かその手の職業の人間が自分に触れたということで、自分がまだ知らない事実を誰かが知っている可能性があるのだろうか…?


「あ、起きたかい?」


突然かけられた言葉に、キョーコはビクリと体を震わせた。誤魔化すように、腹部を覆っていた手を引きはがす。キョーコが振り返ると、そこにはマスク姿でドアを開けた椹がいた。


「…椹、さん…、あ、の…」


思いもいない人物の登場に混乱するが、仕事上の上司の登場で一気に時計の時刻がキョーコの中に押し寄せた。


「椹さんっ!私…っ!仕事…っ!!」

「あー、大丈夫。代役立てたし何より着ぐるみの仕事だからね。それより…」


そのまま室内に入ってきた椹の手にはミネラルウォーターとスポーツ飲料があった。


「最上君、具合が悪いなら前もって報告してくれないと。君はまだマネージャーもついてないし、一人で倒れられるとどうにもならないよ」

「す、すみません…」


上司として苦言を呈したのち、まあ気が付いてよかったと笑う椹にキョーコはますます小さくなった。


「あの…私…ここは…」


それでも現状が理解できないキョーコは、小さく絞り出すように椹と己の手につながった点滴を交互に見た。


「ああ、無くなったのか。無くなったら抜いて終わりでいいって言われてたっけ」


そう言いながらキョーコの手に刺さった点滴の針を椹が抜く。おさえていて、と小さな絆創膏を張られた自分の腕はなんとなく白かった。


「ブリッジロックから君が倒れたって連絡が来てね。吐いてたっていうから感染性胃腸炎かもしれないし、病院とも思ったけど今日丁度事務所に産業医の先生が来てたからこっちで診てもらったんだ」

「ここ・・・事務所ですか?」

「うん、うつるやつだと悪いし、かといって誰か付きっきりもできないし。事務所の応接室が空いてたからね。ここなら俺が隣のデスクで仕事でいるからなんとかみれるし」


よくよく見れば椹が入ってきたドアには見覚えがある。あまり入ったことはなかったが、ここはタレント部事務所に隣接する応接室のようだ。とはいっても、投げられた雑誌が雑然としているわ煙草臭の染み付いたブランケットやら社員の休憩に使用されることが多いようだが。


「先生が言ってたよ。脱水みたいだからとりあえず水分補給の点滴して、起き上がれるようになったらちゃんと病院に行くようにって。風邪かい?お腹は壊してない?吐き気はいつから?」

「すみません」

「謝るだけじゃなくてね。仕事を管理しているんだ、体調管理ができてないと反省はしてもらいたいけど、無理して倒れられる方が困る」

「…はい」

「今気分は?」

「吐き気はないです。吐き気止めとか、何か…お薬使ってもらったんでしょうか?」

「いや?先生は水分補給だけで薬は何も入ってないから、この後ちゃんと病院に行くようにって。誰か付き添わせたいけど、今は人手が無くてね」


恐々確認したキョーコの緊張は、注意された事柄に対する恐縮と椹は捉えたようだ。ほっと息をついたキョーコの様子に引っかかることなく言葉を続けた。


「顔色、まだ白いけどだいぶ良くなったね。真っ青だったから」

「多分、こんな感じなら一人で動けます」

「それならいいけど無理は禁物だ。この後しばらく仕事は入ってなかったよね?ああ、手帳とスタンプ出して」


言われるがままにキョーコが手帳とスタンプを出すと、椹はそこにマイナス10点のスタンプを押した。


「現場に影響を与えたからね。気まぐれの仕事はギャラが発生してるけどもともとはラブミー部の仕事。無理をするのが美徳じゃなくてちゃんとお金をもらってする仕事なんだから対応にも責任を持つこと。いいかい?」

「…はい」

「ラブミー部の事務所雑用も、体調が良くなるまで出てこなくていいから。ああ、個人的に受けてる仕事もあったね?ギャラも発生しないからスタンプ帳で管理できるけど、うつる病気じゃなければ体調次第で直接入った仕事はスケジュール的にOKなら受けていいから。あ、あと…」


途中まで話して何かを思い出したらしい椹は、一度デスクの方に戻って行った。

再び一人になったキョーコは、自分の下半身を見下ろした。


(…もし、そうだとしたら…コーンの…)


遅れている月に吐き気。

身に覚えがあるかといわれたら、夢だと思っていたそれしかない。だとすれば、コーンはこの世に存在した証拠だ。


「最上さん、これ。この前電話で話してた件。できたら早めに返事が欲しいんだけど」


戻ってきた椹はA4サイズの封筒を複数抱えていた。


「体調悪いとこすまないけど。でも俺は鼻が高いよ!ダークムーンはもちろん、今放映中のBOX-Rで君の演技が評価されたってことだ。単発ドラマもあるし、脇役だけど連続ドラマのオファーも来てるよ。最上君も琴南君同様女優業にシフトするかい?ああ、でも君の場合バラエティでも好評だからタレント色も残した方が良いかな?撮影期間が重なってるから全部は無理だし、選ばなきゃならないなんて贅沢だねぇ…」


嬉しそうに依頼のあったドラマの資料を広げる椹。単発ドラマも連続ドラマと台本や製作スタッフの資料がテーブルの上に次々置かれていく。


「特に連続ドラマが来たのがいいね。来秋からの半年クールだし、最初から最後まで出てくるキャラクターだから、これが当たればもっといいね」


ほら、と手渡された資料はゴールデンタイムの連続ドラマのもの。クランクインは7月頭からで、撮影期間は来年初旬までとアバウトに表記されている。ドラマの放映で視聴者の反応を見つつ後半は脚本を修正するタイプのドラマのようだ。


(……来年)


クランクインは2か月後。撮影はしばらく続行でクランクアップは半年以上先だ。

キョーコは下腹部に当てていた右手をきゅっと握った。


「椹さん、私……」






タクシーから降りて、キョーコはだるまやに続く道を歩いていた。

大丈夫だと言い張ったが心配した椹の手前、事務所前でタクシーに乗り、最寄駅付近で降りて帰り道を歩く。金額的には大きく変わらないだろうけれど、どうしてもだるまやの前までタクシーに乗る気になれなかった。手のひらの中には、手元に戻ってきた青い原石があった。

途中の商店街でドラックストアが目に入るが、キョーコはあえてそれを無視した。今まで素の状態の自分の素うどんっぷりに、ちょっと注目され始めている芸能人とはいっても誰も自分に気づきやしないと思っていたのだが、なぜか誰かに見られているのではないかという気持ちになっていた。


(確証なんかない。けど…)


知らず下腹部を撫でる手をひっこめられないが、それすら誰かに見られている様な気がする。

こんな状態で、ドラックストアであの品物を買うことなんてできない。


誰かに見られたら…

LMEの京子だって知られたら…


(敦賀さんに知られたら……)


確かめるのも怖い。でも、怖い…なんて。

思わず誰かに縋りたくて、そう思って脳裏に浮かんだ人物にキョーコはまた頭を振る。こんな状態なのに、またあの神々しい笑顔を見たい、だなんて。


第一恋愛を否定し、おろかな事と罵っていたことをあの先輩はよく知っている。

恋愛のひとつの終着点である状況をこの身にもったかもしれない自分。

純潔の誓いを立てた自分の有様をどう思うか…


「私って、ヒドイ女…」


自嘲気味に漏れた呟きは誰にも拾われる来なく、帰宅ラッシュで人の行きかう商店街の雑踏に紛れていく。


「罰が当たった?」


呟いて、キョーコは自分の言葉の残酷さに後悔した。この状況が罰だとしたら、コーンはどうなるのか。握りこんだ手のひらに幼い夏の日に貰った硬い石の感触が喰いこむ。


何故か真っ直ぐ届いたコーンの気持ち。

それに、想い人を重ねて縋った自分の卑怯さ。

彼が人間界に存在した証が、自分の中にあるとしたら。


「…ふふっ。あなた、妖精と人間のハーフね」


シルクの様な滑らかさの金髪と神秘的な瞳の色がキョーコの脳裏に蘇る。子供の妖精は羽だって生えているかもしれない。

どこか他人事のように柔らかな笑みを湛えた直後、キョーコは瞳に急に込み上げた熱に裏路地に滑り込んで膝を抱えた。


「…っ、…う…、ふっ……」


頬を伝う涙と込み上げる嗚咽は抑えることができなかった。

明るい商店街から一歩裏には行った路地で蹲るキョーコに、行きかう人々は気づかない。


「…やっぱり…っ、悪い魔法ね」


きつく握りしめて、手のひらの皮膚に喰いこむ石の感触にキョーコは自嘲した。この石には最高に眩しい蓮の魔法もかけられているのに、眩しさではない別のものを感じるのは自分が穢れているからか。


思い出すのは苦しげに歪んだ碧の中の赤茶の光。

そして、重なってオーバーラップする蓮の存在。


(…敦賀さん…)


会いたい。

無性に彼に会いたい。


けれど、会ってどうするのだろう?

会った瞬間に、後悔で身体が凍りつきそうなのに。


「敦賀さん…」


声にして名を呼んで…

軋む心にキョーコはある決意をした。



~~~~

ヴァレンタインデーにこんなものを投下する私をお許しください…。


ラブミースタンプ帳なんて本誌で忘れ去られた設定…!!←いや、先生は忘れてないでしょうけど。

でもギャラの発生しないラブミー部の仕事はこれで管理されてるはず、と思っている私。皆様が気にしないであろう変な細かい設定を気にして盛り込むあたり、ダメだよなぁ…と苦笑ですw

10/19発売の本誌ACT205の続き妄想です


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ACT205妄想【15】



『『『それではみなさん、また来週のやっぱ気まぐれロックでお会いしましょう!』』』


エンディングのBGMが流れる中、ディレクターのOKが出てスタジオに一気に雑音が発生する。収録を終えたスタジオ内でスタッフがわらわらと撤収作業に入り始めている。


「敦賀さん、お疲れ様でした!出演ありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ。お疲れ様でした」

「また機会があったら是非!リーダーの恋愛相談にも乗ってやって欲しいですし」

「だからっ!」

「同じ事務所やもんなぁ。もっと交流はかれればいいのに」

「これからまた絡む機会があるといいんですけど、よろしくお願いします!社長の話とか、話題が尽きないっすよね」

「そうですね」


無事収録を終え、ブリッジロックの3人が蓮に話しかけてくる。対応をしつつも、蓮の視線は鶏のマスコットを追いかけていた。

突っ込まれるかと思っていた恋愛関係のトークはそこまで深くもなく、話の流れから蓮とブリッジロックの所属するLME社長の話題が中心となってしまったことに見守っていた社はほっと溜息をついていた。そつなくこなすことは今までの経験で知っていたが、どうにも蓮の恋愛絡みの話題は心配が尽きない。


「あ……すいません。失礼しますね。彼にお礼を言いたいので」


視界の端にスタジオの外に通じる扉の方に歩いていき見えなくなったふくよかボディに、蓮は話の区切りがついたところでとその後を追った。







「やっぱさぁ、キョーコちゃんってすごいよなぁ」


その後ろ姿を見送って慎一が今日の収録を振り返って漏らした。


「せやなぁ。キョーコちゃんなら零さずに視聴者がみんな期待する敦賀さんの恋愛事情に切り込むチャンスやったのに」


残念そうに慎一が呟く。


「仕方ないだろ。キョーコちゃん、すごい辛そうだったんだから…」

「リーダー、オロオロしすぎ!心配なのも分かるけど」

「ホントは今日の収録、そっからリーダーの恋愛相談にしようと思ったのに!」

「おーまーえーら―!!!」

「大丈夫大丈夫!リーダーも大概だけど、キョーコちゃんだって隣で自分のこと話してたって気づかないほどニブイ訳だし!」

「リーダーどうするん?お見舞い行くんか?」

「いや…俺が行っても迷惑だと悪いし…」


もじもじと煮え切らない態度の光に、雄生と慎一はため息をついた。


「敦賀さんにも教えてあげた方が良いのかな?バタバタで楽屋あいさつの後結局話せなかったし。兄妹みたいに仲がいいんだろ?あの2人って」

「…敦賀さん、さっき坊追っかけて行ったよな?中身、キョーコちゃんじゃないの知らないんじゃないか?リーダー敦賀さんにはそのこと言った?」

「あ…」


倒れたキョーコの事で頭がいっぱいになっていた光はすっかり忘れていたようだ。収録中は坊はフリップで会話をこなすためもしかしたらまったく気づいていないのかもしれない。そのことに気が付いた3人は、慌てて蓮の後を追うのだった。


「…なあ、敦賀さん、さっき坊の事『彼』って言ってなかったか?」


蓮を追いかける道すがら、不意に雄生が何気なく口にした。


「坊は男の子やから別に変じゃないんじゃね?」

「いや、だってお世話になったって言ってたし。坊の中身キョーコちゃんって敦賀さんは元々知ってるんだろ?」


ふと気が付いた疑問。石橋姓の3人は顔を見合わせた。







「鶏君!」


坊の後を追いかけた蓮は、スタジオ裏手の通路で声をかけて呼び止めた。最初は耳に入っていないのか気づくそぶりも見せずまっすぐ歩くマスコットに、少し大きめの声で呼びかけるとぷきゅっと鳴っていた足音が停止した。


「良かったよ、ここで会えて。ちゃんとお礼を言いたくて…」


蓮の方に振り向いた鶏は、当たり前だが表情は動かずつぶらな瞳で蓮を見ている。


「以前は相談に乗ってくれてありがとう。あの後、君のアドバイス通りに…」

「……あのぅ」


蓮が笑顔で喋りはじめた言葉を遮るように、おずおずと返された言葉。聞き覚えのない声に蓮が首をひねると、おもむろに鶏の両手が頭部をそっと持ち上げた。

その様子に蓮はドキリとする。顔を見せたくないと戯れに頭部を取ろうとした時に必死に抵抗してバリカンハゲになってたのではなかったのではないのか?


「申訳ないんですが、俺、今日急遽代役を頼まれたスタッフで…。坊役の子にご用ですか?」

「え…?」


鶏の頭の下から現れたのは、汗止めのタオルを巻いた中年男性。被り物越しではなく直接耳に届く声も蓮の知っている声とは異なっている。


「あ…すみません。人違いでしたか」

「いえいえ、着ぐるみですから。中身なんてわからないでしょう?」

「あの、じゃあこの着ぐるみの坊役って、スタッフがいつも交代で…?」


だとすれば蓮の相談に乗ってくれていた「彼」はテレビ局スタッフということだろうか?そう思ったが、即座に収録前に交わしたブリッジロックとの会話が蘇えり、自分の口にした疑問を否定する。


「よっぽど特殊な事情でない限りは普通そうなんですけどね。この番組に関しては専属がいるんですよ」

「珍しいですね…」

「ええ。初回はLMEの雑用スタッフが入ってコーナーを私有化して暴走しちゃってNG出したんですけど、その初回のキャラクターが視聴者に受けたみたいで」


そう言えばクビになって…と初めて会った時はそう言ってたなと蓮は思い起こす。クビになったはずがまた彼に再会できたのはそう言うことかと納得する。


「じゃあ…坊役の彼は?」

「彼?」


蓮の質問に相手も首を傾げる。


「坊役の子、今日は急病みたいで。でも、人違いじゃないですか?」

「え?」

「いつもレギュラーで坊役やってる子、女の子ですよ。最近人気も出てきたタレントさんで。敦賀さんご存じじゃないんですか?」


LMEの雑用スタッフ、女の子、タレント。

蓮の中で、自分と会話していた鶏の彼といわれる言葉が符合しない。


「あ、敦賀さん、いたいた!」

「山田さんもお疲れ様っスー!ADさんが探してましたよー」

「はーい。それじゃあ、失礼します」


蓮が立ち止まって考えていると、背後からブリッジロックの声がかかる。山田と呼ばれた坊の着ぐるみを着たスタッフは会釈をするとそのままスタジオの方に戻っていった。


「敦賀さん急に出てっちゃうから。マネージャーさんが探してましたよ」

「蓮、ああよかった。どこに行ったかと思った」


収録直後はケータイだって持ってないんだから、と小言とともにブリッジロックについてきた社は蓮にあずかっていたケータイを手渡す。


「スイマセン。本番前にバタバタしちゃって、今日の坊が代役だって伝えそびれたままで」

「え…ああ、それはさっき…」

「あー、山田さんから聞きました?急病だなんて心配ですよね」

「何の話だ?」


茫然とした様子の蓮とブリッジロックの間で交わされる話題についていけない社が首をひねった。


「あの…坊役の人って…」

「敦賀さんにお世話とか言わせちゃうんだもんな、すごいよなぁ。俺らも彼女から敦賀さんの話聞いてて、今日会えて嬉しかったし!」

「そうそう!いつも尊敬する先輩でって嬉しそうに話してるんだもんなぁ。…なあ、これってさやっぱリーダー望み薄くね?」

「そうじゃないだろ!敦賀さん、急病って言っても、そんなに深刻じゃないと思いますよ?吐いてたけど、胃腸に来る風邪かなぁ。椹さんに連絡とって対応してもらったんだから心配いらないんじゃね?」

「ばかっ!どうだったか見立ては聞いてないだろっ!リーダーなんて心配してオロオロしてたんだから」

「~~~っ、だからっ!俺の話題から離れろ!」


脱線しつつも賑やかな雄生と慎一のやり取りに、光が制止をかける。主語不在のまま展開される会話の端々に入り混じるキーワードに蓮の頭はある可能性を導き出していくが、まだその推測を口にすることもできない。


「な、なぁ、蓮。お前のことを尊敬する先輩っていう女の子って…」


話の筋道がうっすら見えた社は、会話の端々に浮かんだ単語からある人物を想像する。


「ホントに具合悪そうだったんだから心配するだろ!?顔色も悪くて吐いてぐったりしてたし、あんな辛そうだったのに午前中は着ぐるみ着て仕事こなしてたんだぞ!?」

「キョーコちゃんいつも元気そうだから、想像つかへんなぁ」

「呑気なこと言うなっ!ちょっと前からずっと体調悪かったみたいなのに無理してたみたいなんだよ!」


茶化す二人に涙目でまくしたてた光。さすがに言い過ぎたかと、気不味気に二人は口を噤む。

3人の会話の中からよく知った名前を聞き蓮の瞳が僅かに見開かれた。


「………れ、蓮…?お前、知ってたのか?」


固まったままの蓮に、社が恐る恐るといった風に声をかけた。


「……い…、いえ…」

「「「「えっ!?」」」」


四人の声が重なった。


「え?だって敦賀さん、お世話になってるってゆーてたから…」

「もしかして、ホントに知らなかったのか?だからキョーコちゃん秘密って…」

「どないしよ?約束破っちゃったか?」


途端に困ったようにぼそぼそと話し始めたブリッジロックの3人に、蓮は取り繕うように口を開いた。


「あ…いえ。知らなかったのは具合が悪かったって事で……」

「そですかー」


蓮の言葉にほっとした表情を見せた3人。坊との初めての接触と会話の内容を思い返せば、キョーコが秘密にしていたことは容易に想像できる。

でも、その後のことは…?


「すみません。次の仕事があるので、これで…」


社が物言いたげな視線を投げかけるのを目だけで制止し、蓮はそう口にしてその場を離れた。


「……社さん」

「心配なのはわかるけど、今は仕事中だ」


蓮の言葉を遮った社にも、今聞いた会話は衝撃的だった。


混乱を抱えた二人は、ひとまず目の前の仕事に集中することで平静を保ったのだった。




~~~~~~


坊バレ…ありきたりでどこぞで見た事のある様な流れにしかできませんでした…。ゴメンナサイ―。

そんでもって今回も会話が中心なのでボリュームとられてるし、会話優先なので描写少な目…。



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ACT205妄想【14】



午前の仕事を予定通り終わらせた蓮と社は、次の仕事のあるテレビ局にいた。余裕を持って控室に入れたことにほっとした社は、チラリと自分の担当俳優に視線を走らせた。

社は同行しなかったグアムでのトラジックマーカーの撮影から約1ヶ月。

カイン・ヒールとしての時間を確保するために敦賀蓮の仕事はセーブしていたが、さすがにまるまる数日を海外での撮影のために捻出するのは骨が折れた。ましてや海外での仕事。季節がら考えづらいが天候不順など不測の事態で帰国が遅れる可能性も考慮し、余裕を持ったスケジュールを組んだ結果、敦賀蓮の帰国してからの仕事はかなり余裕のないものになってしまった。

社はぱらりと手帳をめくった。そこに書きこまれたピンクの印。それを見下ろしてどう切り出すべきか迷っていた。ほんの少し前であれば、何も知らない担当俳優の表情を崩してみたくて、思わず緩む頬を隠せずに喜々としてはしゃいでしまっていたが、最近の雰囲気からなんとなくそんな態度で告げることもできない。


「お疲れさん。まだ次の仕事まで余裕があるな」

「次はバラエティの収録でうちの事務所のタレントの冠番組、でしたよね?まだ直接会ったことはないですけど」

「そうそう、ブリッジロック。石橋って同姓の男性トリオだよ。お笑いじゃないけどね」

「ああ、それでブリッジロックっていうんですね。ご兄弟ですか?」

「いやー、オーディションの選考に残った中にたまたま同姓が3人いて面白いなってなってグループにしたって聞いたぞ」

「よく知ってますね」


LMEの規模は大きく、タレント部所属のブリッジロックの情報は俳優部所属の蓮や社が細かく知らない。仕事をする上で失礼にならないように相手方の情報を事前に把握しておくのも俳優を裏方で支えるマネージャーの仕事だ。

社は次の仕事の進行表とブリッジロックの資料を蓮に手渡し、コーヒーと水どっちがいい?と社は控室に入る前に購入した飲み物を蓮の前に並べた。ありがとうございます、とミネラルウォーターを手に取り一口飲みこんで蓮はふっと息を吐き出した。


「大丈夫か?帰国してからハードスケジュールだから…」

「あ、いえ。大丈夫ですよ?」


にっこりと笑って見せる蓮に、まあそうだよなぁと思いつつ社は核心をズバリ伝えることができずにいた。


「ちゃんと食べてるか?最近ちょっと心配だったから、この前久々にと思ってキョーコちゃんにも食事依頼出したんだけど…」

「え?」


何気なさを装って社はそう口にしてみた。案の定蓮は一瞬止まったように見えたが、それをすぐに隠してしまっている。以前なら隠してしまっていることすら気づかせずにいたのにと社は思うが、それは蓮のキョーコに対する思いを察してしまってからなのかどうなのか正確には答えられない。ただ、やはりグアムから帰ってきてから、どこかしら以前と違うと漠然と感じる何かを払拭できないでいた。


「…キョーコちゃんも仕事だって断られちゃったんだ」

「そう…ですか。社さん、最上さんだって仕事のスケジュールがあるんだからそうそう…」

「だってさ、お前ちゃんとキョーコちゃんにお礼言ってないだろう?蓮が忙しいのもあるし、キョーコちゃんはああいう性格だし、仕事をダシにでも会う機会を作らないとな。向こうの撮影中はずっと『彼ら』だったんだろう?」

「まあ、そう…ですけど。でも電話とメールで…」


キョーコと全く連絡を取っていないわけでもない事はその会話から分かるが、どんなに忙しくてもやはりちゃんと対面してお礼はするべきだと社は思う。トラジックマーカー撮影中はカインの正体を隠すために社はカイン状態の蓮とは一切接触を持ってはいない。ただカインを演じている期間に見せた蓮の昏さに不安を感じていたが、ホワイトデーに社長室に呼び出された時の蓮から受ける印象は大きく変化していた。

おそらく、キョーコが何らかのきっかけを与え蓮を支えてくれたことは確実だろう。


「どんなに忙しくたってちゃんと面と向かってお礼はしろよ。キョーコちゃんは『いえ、仕事ですから!』とかバッサリ来るかもしれないけど」


社の言い分に思わず想像したのか、蓮は容赦ないなと内心で呟く。


「キョーコちゃんも仕事が増えてきたし、前みたいにフリーの時間がたくさんある訳じゃないかもしれないからなかなか難しいかもしれないけどなぁ」

「いい事じゃないですか。彼女が女優として評価を受けれるようになってきてるって事なんですから」

「キョーコちゃん、色々うまくもなってるし話題も豊富だからなぁ~」


うんうんと頷く社は、はたとこれで話題を終わらせるわけにはいかないと頭を振った。


「そんな蓮君に朗報だ!」


社が明るく言葉にしてみると、蓮は話題の流れから言わんとしていることを読み取ったらしい。遊ばれるんだろうなと、少々苦笑い気味の表情を無視して社は言葉を続けた。


「キョーコちゃん、今日この局で仕事らしい。上手くいけばにニアミスできるかも!」

「…社さん、なんで最上さんのスケジュールまで知っているんですか…」


意を決して社がいつもの乙女モードで蓮に喜々として報告すれば、蓮からは大きなため息と呆れたようなセリフが返ってくるが、社は口の端に残った嬉しそうな笑みを見逃さなかった。


「そんなこと言っていいのか~?絶対俺に感謝してるくせにぃ」

「…そう言うことにしておきましょうか。敏腕マネージャーさん」


降参、といった風に手を上げて否定しなかった蓮に社は内心ほっと息を吐く。


「どのスタジオで何の仕事かまでは分からなかったけど、ラブミー部関係で1日この局にいる予定らしいぞ」

「そんな抽象的だったら同じ建物内にいると言ったってそうそう遭遇しないんじゃないですか。まさか探しに行くわけにもいかないし」

「だよなぁ。あとさ、ちょっと気になったんだけど…お前、キョーコちゃんにグアムで何かしたか?」


なんてことない普段の社との会話と思っていた蓮は、いきなり飛び出した質問に思わず止まってしまった。あからさまにギクリと停止してしまったが、幸い社は手帳に目を落としていたためその様子に吐きが付かなかったようだ。


「…なんですか、いきなり…」


何かしたか、と問われれば心当たりはしっかりある。しかし、キョーコはもとより社にそれが露見すること自体ありえないはずなのに、こうして言葉を突きつけられると背中に少し嫌な汗が染みる。


「いやな、今日のキョーコちゃんのスケジュールを知った時におかしなことに気が付いて…」

「え?」

「さっきラブミー部経由で夕食依頼したって言っただろ?その時キョーコちゃんは仕事で無理って断られたんだけど、どうも仕事は入ってなかったみたいなんだ。キョーコちゃん真面目だろ?仕事をダシに嘘つくなんてあまり考えられなくって」

「………」


手帳を覗き込んでうーんと唸る社は、ちらりと蓮に視線を走らせた。探る様な社の視線に表面上は平静を保ったが、蓮の心中はざわめいていた。


「そう思ったら、お前何かキョーコちゃんに避けられるようなこと、したのかなー…って」

「どう…でしょうね。カインとセツとして確かに距離は近かったと思いますけど…」

「キョーコちゃん純情乙女だからなぁ。役が入っていれば平気でも素に戻ったら恥ずかしくなった…とか?」


社の言葉にますます蓮は後ろめたさを感じてしまう。

正直に話すつもりなどないが、その純情乙女と何をしたのか。

元々キョーコとの接触を茶化すところのある社にいつも社の想像の方がもっと過激だよなぁと苦笑していたが、今回はその想像をはるかに超えているだろう。


「ほらホワイトデーの時だって、キョーコちゃんいつも以上に挙動不審だったし…」

「………」

「ホントにお前、ラブラブ危ない兄妹設定に乗じてやましい事してないよな?」

「………」


じっと社に覗きこまれて蓮が返事に窮していると、コンコンと控室のドアがノックされた。


「はい?どなたですか?」


社の視線がドアに向けられ、第三者の介入でこの話題は打ち切られる。ドアに向かう社の背に、蓮はこっそり息を吐き出した。

社が対応のため内側から声をかけドアを開ける。開いたドアの先には二十歳前後に見える男性3人。事前資料のブリッジロックと一致する顔に社は頭を下げた。楽屋入りした蓮のに挨拶に挨拶をしに来たようだ。


「失礼します!敦賀さん、今日はよろしくお願いします!」


真ん中に立っていた小柄な男性がぺこりと頭を下げ、それに後ろの二人が倣う。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


蓮と社は対外的な笑顔を浮かべそれに応じた。


「ふわー、やっぱ男前やなぁ。目の前で見ると迫力あるわー」

「こら、雄生!自己紹介もせずに失礼だぞ!すいません、初めましてブリッジロックのリーダーの石橋光です。こっちが慎一、こっちが雄生です。俺達全員石橋なので、良ければ名前で呼んでください」


思わず正直な感想を漏らした雄生を窘め、リーダーの光は自己紹介とメンバーの紹介をする。雄生と慎一は紹介されてぺこりと頭を下げた。


「いえいえ、気にしないでください。光さんに雄生さん、慎一さんですね」

「やっぱ敦賀さんスマートだわー。こんな美形で物腰もやわらかいなんて女の子がほっとかないやね」

「雄生っ」

「ほんとに気にしてませんよ。同じ事務所ですよね。よろしくお願いします」

「ほら、敦賀さんもそう言ってるし。丁寧なのはいいけれどそんなちっちゃい事気にしてるからリーダーは背ぇ伸びねぇんじゃね?ホントに敦賀さんより年上?」

「そうそう、意中の子にも奥手やしね」

「慎一っ、お前まで!しかもそれ、関係ないだろっ!?」


少々砕けた様子の3人だが、テンポよく弾む会話に微笑ましく感じるのは光の憎めない雰囲気のせいだろう。光が小柄で童顔なのと老成した蓮の雰囲気を対比すると確かになぁ…と2人が光をからかってじゃれ合うのを眺め、社は蓮と顔を見合わせてくすくすと笑った。


「せっかくだから敦賀さんにスマートな女性の誘い方とか教えてもらえば?」

「いい加減にしろよっ!ホントスミマセン!失礼な事ばっかり…」

「いえいえ、俺もそんなに恋愛に長けてる訳じゃないので。こちらこそ色々教えてくださいね」

「またまたー!あ、でも俺らの番組、トーク中心なんでそう言った質問が話題になるかもしれませんけど敦賀さん大丈夫ッスか?」

「事務所的には問題ない、ですよね」


含みを持たせてにっこり笑った蓮にブリッジロックの3人も思わず自分の事務所の社長を思い浮かべて苦笑いした。よっしゃ!じゃあ人気ナンバーワンの敦賀さんを丸裸にしようぜ!と息巻く雄生と慎一に蓮はお手柔らかにと笑った。そんな蓮に『よく言うな、お前…』と言いたげな社の視線が突き刺さる。


「あ、進行表見ていただくと分かると思うんですが、この楽屋から既に収録スタートとなるのでよろしくお願いします!敦賀さんの楽屋がそんなに散らかってるとかイメージできないんですけど、映って不味いようなものは整理をお願いします」

「え…?」

「ああ、すみません。楽屋入りしたばかりでまだ進行表を全部確認できていなくて」


思いがけない言葉に思わず疑問符を浮かべてしまった蓮に、すかさず社が謝罪した。


「いえいえ、敦賀さんお忙しいし今回も番宣を兼ねて無理にお願いしたゲストだから…。俺たちいつも楽屋挨拶を兼ねてお知らせもしているんですよ。結構楽屋って寛いでいるし、地が出ますからね。それを撮るのも狙いの内なんですけど」


そう言って光は蓮の手元にある進行表と同じものを取り出した。


「坊がゲストを楽屋にお迎えに上がるところから収録スタートです。坊がここまでお迎えに上がりますので、お時間までこのまま楽屋にいてください」

「坊?」

「はい!俺たちの番組、きまぐれの看板マスコットです。このロゴがそのマスコットなんですよ」


進行表の番組タイトル横に描かれた鶏のマスコットを光が指し示した。そのマスコットは、蓮が悩んでいた時に話を聞いてくれ恋の兆しを教授してくれたニワトリで…


「ああ…」

「「「「え?」」」」


進行表に目を落とした蓮の何か知ったような呟きと口元に浮かんだ微笑に、ブリッジロックと社が疑問の色で蓮を見る。


「…あ、いえ。この鶏君…坊君には個人的にお世話になって」


急に4人の視線が集まったことで、蓮は少し驚いた様子でそう返した。蓮の言葉に進行表を改めて覗きこんだ社は、進行表を初めて見た時の引っかかった感じの正体に気が付いた。どこかで見たような…と思っていたのは、以前この鶏のマスコットが蓮の楽屋を訪ねてきた時に対応したからだ。


「なんだ、やっぱりそうなんやー。坊、いい子でしょう?」

「そうそう!ツッコミセンスもあるし、正直だし、面白いし」

「表現力も豊かだよなー」


いい子?と蓮には多少引っかかる言葉だが、良く考えれば彼らの言い分は正しいと感じていた。相談に乗っていた時のツッコミセンスや、表情の変らないはずの着ぐるみなのに結婚詐欺を斡旋するような悪徳暴力団の様な表情や、思わず腹を抱えて笑ってしまったあの言動は、高い表現力とセンスを必要とするのだろう。


「そうですね。動きもコミカルで着ぐるみなのにすごいですよね」

「せやろ?鶏の中にいれとくには勿体無い!なぁ、リーダー?」

「ちょ…お前ら…っ!」


意味ありげに光をつつく雄生と慎一。自分に対するからかいと、あまりにも蓮に対して砕けた態度に光が二人を視線で詰るが、雄生と慎一は全く意に介することはなかった。


「あ、敦賀さん。坊とのやり取りは基本アドリブで進むんですけど、ツッコミが結構厳しいので適当に交わしてくださいね」

「ああ、そうですね」


蓮は坊との今までのやり取りを思い出して、口元を綻ばせた。


「あ!でも番組内だと坊の発言は喋らずフリップなので注意してくださいね!フリップ使わず行動で示すことも多いんでそこん所はうまく合わせてください!…って、役者さんだから大丈夫か」

「引きずられないように気を付けますね」

「そんじゃ、収録開始まで時間があるのでまた!休憩時間中に失礼しました」


ブリッジロックの3人はそう言い残して蓮の楽屋を後にした。


「…蓮、お前この鶏君に何のお世話になったんだよ?」


そう言えば楽屋を訪ねてきたこのマスコットに連れられ、しばらく席を外していたことを思い出した社はつい疑問を口にした。


「まあ…色々と相談に乗ってもらって助けてもらったんですよね。彼には感謝してるんです。クビになるかもと最初は言ってたし、どの番組のキャラクターかもわからなかったのでお礼を言えずじまいで。まさかここで会えるなんて…」

「…お前なぁ。お世話になった人にはちゃんと礼くらいしろよ。キョーコちゃんといい今回のマスコットといい、そつないように見えてどっか抜けてることあるんだよな」


何気に酷いですねと蓮は思うが、現実そうなっているのだから反論できない。いい大人なんだからちゃんとしなさい!と説教モードの社に蓮はハイと答えるしかなかった。







「なあなあ、キョーコちゃん、坊の仕事は恥ずかしいから秘密でって言ってたけど、やっぱ敦賀さんとは親しいんかなぁ?」

「キョーコちゃんの事知ってる風だったし、やっぱさ!敦賀さんにキョーコちゃんへのアプローチアドバイス貰った方が良いんちゃう?」

「ああっ、でも変に知り合いだとお前みたいなやつは許さんとか言われちゃうんかなぁ?共演してたって言ってたし、演技の相談に持ってもらった事もあるって言ってたしなぁ」

「それもありかもなぁ。キョーコちゃんは謙遜して自分は手のかかる後輩って言ってたけど、後輩女優やからリーダー厳し目に見られたりして!」

「そうなったらうちのリーダー勝ち目ないやん。とりあえずさぁ、時間もあるし腹も減ったしキョーコちゃん誘って飯にせん?」

「せやな!リーダーキョーコちゃん誘ってきぃ」

「…おっ、お…お前らーっ!!!!」


p>蓮が楽屋で社に追及されてた頃、挨拶を済ませたブリッジロックの3人がそんな会話を交わしていたことを蓮と社は知る由もなかった。



~~~~

ブリッジロックの3人の似非関西弁は目を瞑って下さい!!私のイメージの中での彼らの言葉づかいですー。

時系列的には13と同時進行かちょっと前…くらい。

会話ばかりで長々ですみません。想定の1話分に納まりきらん…!1話のボリュームがガチャガチャだ…orz

昨年3月に終了したスキビ蓮キョ二次の大きな企画メロキュン研究所が期間限定で帰ってきました!

総合案内は、魔人 様、ピコ 様、風月 様のサイトで同時に行っております。(各主催者のお祭り会場案内記事に飛びます)アップ済み作品も整理して紹介されておりますので、ぜひ目次としてご利用くださいませ!


隅っこにこっそりおいていただいた私ですが、蓮誕に合わせた企画始動のお知らせを見ても、連載で行き詰り、短編なんかでてこねーよ!って事でスルーする気満々だったのです。しかし、無理矢理でもお題にこじつけられそうな小ネタが浮かんだの、せっかくの復活だしと参加させていただくことにいたしました!


……若干以上にお題のハッピー☆プレゼントからはズレていますがそこは私の適当クオリティって事で!

それでは後編です、どうぞ~↓


*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆



present virus 後編



夕方少し食事を取った蓮をまた寝室に押し込めて、家事雑用を済ませたキョーコは時計を見上げた。

蓮からは病み上がりなのだからしっかり休むようにと言われていたのだが、昼過ぎまでやれることもなく自室に閉じこもっていたキョーコは疲れも眠気も感じずにいた。手持無沙汰すぎてリビングの大掃除までしてしまった始末だ。

見上げた時計の時刻は0時を少し過ぎたところ。


(起きてたらお薬すすめようかな…)


インフルエンザの薬は1回使用で良い吸入薬をすでに使用済みと蓮は言っていたが、その他に喉や咳の対症療法薬も処方されていた。毎食後内服となっているが、休息を優先させているため食事時間もバラバラだ。夕方早めの時間に食事を取っているので、このまま朝までだと時間があきすぎてしまう。


キョーコは蓮の様子を伺うためにそっと寝室のドアを開けベッドサイドに近づいた。

目を閉じて浅い呼吸の蓮の額にそっと手を当てる。汗で湿った髪がキョーコの指先にも絡む。インフルエンザの典型的な高熱とまではいかないまでも、そこそこ高めの蓮の体温。


(熱上がってきたのかな)


物音を立てないようにそっとキッチンにむかい、以前使った氷枕と新しいタオルを持って寝室に戻る。

冷やしたタオルでそっと蓮の額に浮いた汗を拭うと、ひんやりとした感触が心地よいのか少し寄っていた蓮の眉根が緩んだ。起さないように氷枕を交換するにはどうしたらと考えつつキョーコがそのまま首筋に流れた汗を拭いていると、蓮の瞼が僅かに震えて持ちあがった。


「…あ、ごめんなさい…っ、起こしちゃいました?」


ぼんやりしている色の蓮の瞳に、キョーコはそっと声をかけた。汗で湿った肌に熱で少し潤んだ瞳で自分の顔の上を彷徨う視線にキョーコがどぎまぎしていると、ふっと蓮の表情が緩む。


「…ありがとう…」


思えばその笑顔は後に自ら神々スマイルと名づけたそれで、キョーコは既視感に目を見張った。


(あの時は、名前…呼んだのよね)


「…最上さん」


続いた呼びかけは前と異なり『キョーコちゃん』ではなかった。

その事実にキョーコの中には安堵と不満が入り混じる。


(バカバカ、敦賀さんが私のことをキョーコちゃんなんて呼ぶことないのにっ。あの時だってきっと誰かと…)


自分が蓮に名前で呼ばれたい願望と、今回はしっかり自分を認識していることに対する喜びと。

二つが自分の中で複雑に入り混じっているのを自覚してキョーコはきゅっと唇をかんだ。


「…いま、何時…?」

「0時回ったところです。こんな時になんですけど…お誕生日おめでとうございます」


キョーコの回答にキョトンとした表情を見せた蓮だったが、その後そう言えば誕生日だったと思い至りふわりと微笑んだ。いつぞやの逆だな、と日付が変わってすぐ一番に祝福の言葉をくれたキョーコにありがとうと返した。


「起きたついでにお薬飲めますか?」

「うん」


ベッドから体を起こした蓮に薬を手渡し、キョーコはぬるくなった氷枕を新しいものに交換する。


「お熱上がってきてるみたいですけど、体調どうですか?」


薬を手にしたまま、蓮は汗で体に張り付いた寝巻を見下ろした。


「あ…うん、汗は出てるけど、そんなにつらくはないかな。一度汗を流してくるよ」

「じゃあ少しお腹に何か入れてからお薬にしましょう。準備しておきます。シャワーは短時間で体を冷やさないようにしっかり拭いて下さいね」


一度手渡した薬を受け取り、キョーコは汗の染みたシーツを取り換える。

蓮が寝室を出たことを確認したのち、キョーコは剥がしたシーツを抱えたまま溜息をついた。


「重症ね…」


日付が変わって誰よりも早く一番に誕生日を祝う言葉を蓮に伝えられたことに気が付いてしまった。

キョーコは真っ赤になった顔を隠すようにシーツに顔をうずめると、蓮の香りが立ち上り余計に落ち着かなくなってしまうのだった。



****


温かなリビングには見慣れない加湿器。

深夜だというのに風邪対策で居心地よく整られたリビングはキョーコの気配に溢れていた。柔らかな白い水蒸気を吐き出す機械をぼんやり見つめながら蓮は目を細める。


「もうっ!敦賀さん、髪を乾かさなきゃ冷えちゃうでしょー!」


言われた通りに短時間で汗を流しリビングに戻った蓮がドアを開けると、キョーコの眼が釣り上がった。

強制的に座らされ、後ろからキョーコにドライヤーを当てられている。ラグの上に座った蓮の後ろのソファーにキョーコが座った状態で、キョーコの指先が蓮の黒髪を梳いてゆく。指先が髪を引くリズムが心地よくされるがままになっていると、「よしこんなもんかな」という声とともにかちりとドライヤーのスイッチを切った音が蓮の耳に入った。


(気持ちよかったのにな…)


熱のせいか寝起きのせいかいつもよりも願望はストレートで、仔犬の様な表情で蓮が背後をを見上げると、申し訳なさそうに自分を見ているキョーコと視線がぶつかった。


「なんか…ごめんなさい。せっかくのお誕生日なのに…」

「え?…ああ」


蓮にとってはこうして誕生日を丸ごと、何の予定もなく過ごすのはこの仕事を始めてから初めての事。しかも看病と言ってキョーコと過ごせることは願ってもない事なのに、キョーコはそれを気にしている。


(まったく、分かってないね)


蓮の気持ちなど露程気づかず、キョーコは謝罪の言葉をつづけた。


「何かお祝いをと思っていたんですけど、プレゼントは私も寝込んでて用意できなかったし、風邪を引いているのでご馳走もなぁって思って…」

「こんなにゆっくり誕生日を過ごせるなんて想像してもいなかったよ。本当にいいのかな?って感じだし、そんなに気にしなくていいよ」

「でもっ、敦賀さんの誕生日やこの先のバレンタインも!敦賀さんの為に色々準備している人がたくさんいるじゃないですか!私、申し訳なくって…」


(俺が欲しいのはたった一人からのモノだけなのにね…)


あらぬ方向の心配をしているキョーコをほんの少し残念に思いつつも、その言葉にそうかバレンタインもまだ仕事ができないのかと思い至る。すなわちそれはキョーコと過ごせるチャンスなのだ。


「当日のお祝いは私からだけになってしまいますけど…。私なんかで申し訳ありませんが、誕生日とバレンタイン、何かしてほしい事や欲しいものってありますか?私ができる事なら何でもしますよ?」


眉の下がったキョーコの顔に、いつもなら働く自制が機能しないのは熱のせいだろうか?

愛しい少女の「私からだけ」という限定の言葉がとても強調されて蓮の脳内に響く。

蓮の口はいつもならぐっと止まるはずの言葉も滑らかに吐き出してゆく。


「何でもって、本当?」

「も、もちろん!私ができる事でしたら何でも!」


そうは言ってもきっと何もないと言われたり、欲しいものは君には無理と言われるかと思っていたキョーコは、蓮からの希望が聞き出せそうな気配に身を乗り出した。


(言質は取ったからね?)


蓮はキョーコの袖を引き、ソファーから自分の隣に座らせる。近い距離にドキリとしながらも、キョーコは素直に蓮の隣に納まった。


「じゃあ…この病気が治るまで看病してくれる?」

「そんなの当たり前です!私がきいてるのはそう言うことじゃなくて…」


そう言うことじゃないと、不服そうなキョーコ。


「俺、『風邪』、ひいてるんだ」


そんなキョーコに蓮はわざと言葉を区切る。


「はい?いえ、だからそれは存じ上げております!」

「風邪ってさ、人にうつすと治るって言わない?」

「…はぁ」


行先の見えない蓮の話にキョーコは首をかしげるが、触れた腕から感じる蓮の体温がまだ高いことにもしかして熱に浮かされてるのかしらとそのまま話を聞いている。


「最上さん、風邪ってどうやってうつるか知ってる?」

「え…っと、ウイルスや菌を持っている人の咳やくしゃみを介してウイルスを吸い込んだりしてうつるですよね」

「そう、入り込んだウイルスって爆発的に増殖して急速に体を蝕むんだよね」

「そう…ですね?」


蓮に向かって1個のウイルスが1日で100万個になると注意をしたキョーコはそれが一体何なのかと首をひねった。

キョーコが首をかしげている間に蓮の腕がするりと伸びてきてキョーコの細腰をさらう。風邪による発熱とは別の意味で、蓮の瞳が潤んでいるように見えてキョーコはぎくりと体を強張らせた。


「俺のここ、風邪をひいてるんだ」


蓮の右手親指が、トンと自分の心臓を指す。キョーコの視線は蓮の指が指し示す場所をたどっていた。熱を逃がすためにボタンを空けている寝巻の胸元から綺麗な鎖骨と胸筋が覗いて、誘導されるままそこを凝視してしまったキョーコは思わず顔面にこみ上げる熱をぐっと飲み込んだ。


「ウイルスは君。あっという間に爆発的に増殖してる」

「へ?」


思っても見なかった蓮の言葉にキョーコがぱっと顔を上げると、至近距離に蓮の顔があった。

ぐっと近づいた蓮の瞳が別の意味で熱を持っていて、キョーコは動けない。


「キスしたら、風邪…うつっちゃうよね?」


悪戯っぽく笑う癖に、蓮の瞳の色は真剣で。

直接的な言葉は何もないのに、キョーコは蓮の言わんとしていることを察してしまいかぁっと耳まで真っ赤に染まった。


「……う、うつりませんよ?私、罹ったばっかりで抗体ありますから!それに…」


恥ずかしさで目を合わせていられず、キョーコは俯く。


「………私もきっと、敦賀さんと同じ風邪…ひいてます」


絞り出すように漏れた言葉は、尻すぼみに小さくなった。

真っ赤になって震える頬が俯いてかかった栗色の前髪に透けていて、蓮はキョーコの言葉に一瞬目を見開いたがその様子に甘々しく笑った。驚きから甘く溶けていく蓮の表情を、顔を伏せたキョーコは気づけず、発してしまった己の言葉に恥ずかしさと恐怖とで顔を上げられずにいる。

蓮がキョーコの顎を取って顔を覗き込むと、キョーコの方が熱があるのではないかと思うくらい顔が真っ赤でその瞳は潤んでいた。



「…だからっ、…うつりませんっ…!」



インフルエンザになぞらえて、言い訳のようにそう言い切るキョーコ。

しかし、真っ赤に潤んだ乙女の表情に後押しされた蓮は今日は引かなかった。



「じゃあ…試してみる?」



更に至近距離に近づいて、蓮が視線を絡め取る。



「の、望むところです…っ」



そんな表情なのに言葉だけは負けん気を見せるキョーコ。

蓮は手加減しないからと笑ってキョーコとの距離をゼロにした。触れあった唇はどちらが熱があるかなど分からないくらい、熱い。


蓮が唇を離して目を開けると、真っ赤になって震えるキョーコがいた。


「……ごめん。実はこの風邪、治らないんだ」


その様子に、蓮は嬉しそうに目を細めて笑った。


「だから…看病は一生だね?」




*****



「どうしてっ!?私、インフルエンザ罹ったはずなのに…っ!」


蓮の熱が下がった翌日、キョーコは再び39度の熱を出した。

数日前に経験したはずの高熱と関節痛に不審に思いつつ病院行くと、下された診断はインフルエンザだった。


キョーコが熱でフラフラの体で送ってくれた蓮の車まで戻ると、蓮は車を発進させた。

揺れる車内で「おかしい、どうして…」とブツブツとうわ言のように呟くキョーコに、蓮はふと何かを思い至り視線は路面に向けたまま口を開いた。


「最上さん、ちなみに最初に診断されたインフルエンザって何型だった?」

「え…?インフルエンザB型、でしたけど…」

「そう。ちなみに俺はA型だった」

「はいぃ??」


血液型の話でしたっけ?と発熱で回らないキョーコの思考回路は現状を理解できなかった。


「病みあがりで弱ったところに感染力の強いインフルエンザ患者と濃厚接触すれば当然の結果だね」

「の…濃厚接触って…っ!」


蓮の言葉にただでさえ熱で赤いキョーコの頬がさらに熟れたリンゴのように真っ赤に染まった。頭からは湯気まで立ち上っててもおかしくなさそうだ。


「なに?キス以上の何かを想像したの?最上さんエッチだね」

「なっ…っ!!前!前見てくださいっ!!」


キョーコの顔を横目で見てにやりと艶やかに笑った蓮は夜の帝王を思わせる微笑で、キョーコは慌てて目を逸らし、火を噴くんじゃないかと思うほど熱い顔面を冷やすために助手席の窓を開けた。

恥ずかしさで蓮の顔を見れず窓の外を見ていると、ふと流れる景色は蓮のマンションに向かう道のものだと気が付く。


「つ、つつ、敦賀さんっ!私、自宅にっ!だるまやに帰りますっ」

「どうして?」

「どうしてって…!」


さも当然と言った蓮の態度に、キョーコは狼狽える。


「君の理論だと、うつした相手は抗体を持っているから大丈夫なんだろう?」


まあ、俺のインフルエンザは君からもらったものじゃなかったってのは今分かったけど、と蓮はなぜだか嬉しそうに笑った。


「今だるまやに戻ったらご夫婦が迷惑だろう?元々その下心もあったから俺のところに泊まり込みの看病をしに来たくせにどうして今更帰るなんて言うの?」

「う…」


図星の蓮の言葉にキョーコは反論できない。

いつの間にか車は蓮のマンションの駐車場に滑り込んでおり、車を駐車した蓮に熱でふらつく体をひょいと抱き上げられていた。


「結果、俺のインフルエンザは君からじゃなかったけど、誕生日に長めの休暇と君の気持ちのプレゼントをありがとう。バレンタインは…そうだな、君を看病する権利を頂戴?」

「ふえぇっ!?」

「うつしたのは俺だからね?責任を持って看病するよ」


社が最短でも10日間と確保した休みはキョーコを看病するだけの日にちの余裕がある。

横抱きにされ蓮の部屋に向かうエレベーターの中で、キョーコは蓮に囁やかれた。


「これ以上病人を増やさないように、感染症は隔離が基本だからね。大丈夫、熱が下がりきるまでは何もしないよ?」



……って事は、熱が下がったら私は何をされるんでしょう…?



熱でつらいキョーコと対照的に、何故だか嬉しそうな蓮の表情。


キョーコは更に上がった熱で、そのまま意識を手放した。


~~~~~~


キョコさんの理論は穴だらけなので本気にしないでくださいまし!

皆さまインフルには十分気をつけましょう~!←軽くならかかって仕事を休みたいダメな大人な私w


…ほんとにね、37度台の微熱でインフル陽性とかあるんですねぇ。予防接種のおかげらしい。

昨年3月に終了したスキビ蓮キョ二次の大きな企画メロキュン研究所が期間限定で帰ってきました!

総合案内は、魔人 様、ピコ 様、風月 様のサイトで同時に行っております。(各主催者のお祭り会場案内記事に飛びます)アップ済み作品も整理して紹介されておりますので、ぜひ目次としてご利用くださいませ!


メロキュン研究所の隅っこにこっそりおいていただいた私ですが、蓮誕に合わせた企画始動のお知らせを見ても、連載で行き詰り、短編なんかでてこねーよ!って事でスルーする気満々だったのです。

しかし!無理矢理でもお題にこじつけられそうな小ネタが浮かんだの、せっかくの復活だしと参加させていただくことにいたしました!


……若干以上にお題のハッピー☆プレゼントからはズレていますがそこは私の適当クオリティって事で!

寝かせすぎると腐って公開する気が無くなりそうなので、何のタイミングも計らずさくっとアップすることにいたします。


前後編になります。それではどうぞ~↓



*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆



present virus 前編



『さて、本日のゲストをお呼びしたいのですが……その前に皆さんにお知らせが』


どこの飲食店や会社の休憩室でも高確率で流れている昼休みの定番番組。その画面の中で、司会者の男性が申し訳なさそうに謝罪した。


『残念ながら本日のゲストだった敦賀蓮さんがインフルエンザに罹ったそうで、お迎えすることができませんでした。楽しみにしていた視聴者のみなさん、お花を頂いた芸能人のみなさん申し訳ございません。しかも明日はゲストの敦賀さんの誕生日でして。皆様からお預かりしたプレゼントは後日確実にお渡ししますのでご安心ください』


途端にきゃあ~!と画面の中に観覧者の落胆の悲鳴が広がるが、それと時を同じくして恐怖の…戦慄の悲鳴が某所で響き渡っていた。



***



忙しげなコールや会話で雑音が入り混じる中、しゃらしゃらとメルヘンチックなメロディーがその雑多な音の中に入り混じる。普段そんな音楽とは無縁の事務所の中で耳慣れない音を聞き取った一人が、きょろきょろと音源を探して視線を走らせると、不意にそのメロディが途切れた。


「もしもし?」


どうやら電話のコール音だったらしい。人が多く雑然としているため誰が発したか分からない電話の応対の言葉に小さな疑問は解消され、事務所内はまたそれぞれが発する仕事の雑音に包まれていく。


「俺の方にかけてくるなんて珍しいね、どうしたの?え?…ああ、テレビ見たんだ。…そう、そんなわけでさ、しばらくはしたくても仕事はできないね」


音源である携帯電話はゴム手袋を装着した手に握られ、その手の持ち主の耳に押し当てられていた。


「俺?俺は大丈夫。とはいっても、持っているかもしれないしマスクして内勤だけだよ。事務処理がたまっていたから好都合だよ。アイツもここの所スケジュールがきつかったからいい骨休みかもね」


声の調子にはまだ現れないが、言葉を発する口元は緩んでいる。


「えっ、いいの!?っていうか大丈夫なの?へ?責任を取らせてくれってどういうこと?」


電話の相手と話しているのだろう。気色ばんで僅かに音量の上がった声に、デスクでパソコンに向かっていた俳優部主任の松島は顔を上げた。


「そうなのかー、助かるよー!アイツ一人でほおっておいても死にやしないだろうけど、一人で健康的な生活なんかできないだろうし、渡りに船だよー!椹さんにはこっちから話を通しておくから、仕事として依頼する形にするね~」


その視線の先には、すでに声にまでウキウキとした気配を振りまく一人の青年の姿があった。


「仕事の方はどうなるか分からないか最低10日は確保してあるよ。今までがかなりハードスケジュールだったからね、俺も反省してる。完璧に治して体調も良くなってから、仕事再開にしたいんだ。頼むね!回復しても抵抗力は落ちているから、またもらっても困るしさ。ほら、インフルエンザだって型があるだろう?………って、あれ??」


話の途中で、電話が途切れたらしい。電話の主、社がケータイを耳から離して画面を覗き込んでいる。そこには通話終了を意味する通話時間を示す時間が表示されていた。


「ん?どうした?」


松嶋は聞いてしまった社の会話と、その声色とは異なりにやにやと嬉しげに崩れていくその表情に疑問を隠せなかった。


「いえ、ちょうど天からの助け…がですね」


天の助けじゃなくて女神降臨だよな、と心中で思いつつ社は声をかけた松嶋に向き直った。


「インフルエンザ云々って、蓮の事だろう?結局アイツ今どうしてるんだ?」

「診断を受けて薬貰って自宅療養です。流行感染症は隔離が一番ですからね。この業界でこればっかりはムリして仕事させるわけにはいかないですし」

「この時期はなぁ~、不可抗力だからな。でも蓮は普段の食生活からいって、病人を一人にして大丈夫か?」


蓮の困った食生活は目の前にいるマネージャーから愚痴のように聞かされているのだから松嶋も知っている事。自宅で一人隔離された蓮を想像したのか、上司は苦笑した。


「だ・か・ら!天の助けなんですよ!もっとも向こうもなんだか必死の懇願だったので願ったりかなったりです!」

「そ、そうか。ならよかったな。その蓮の隣にいたんだ、お前も気をつけろよ」


ついでに体だけじゃなく心の健康状態も良くなるはず!と社はつい鼻息荒く報告したが、その社の様子に理由は分からないがとにかく良い方向に話が転がったことだけは分かった松嶋はそうとだけ言い残して、また電話の鳴り出した自分のデスクに戻って行った。


「あ、もしもし?椹さんですか?実はもう本人には依頼済みなんですが……」


松嶋との会話が途切れた社は、いそいそとまた担当俳優に関する仕事を再開するのだった。



****



「~~っ、申し訳ございません!!敦賀様におかれましては大変なご迷惑と、日本芸能界に甚大な被害を与えてしまいどう償うべきか、皆目見当もつきません!」


玄関先で土下座をするキョーコを前に、蓮はマスク姿のまま唖然としていた。


「不肖最上キョーコ、せめてもの償いに敦賀様の病休期間、24時間体制で看病及び日常生活援助をさせていただきたく参上しました!どうぞ何でもお申し付けくださいませ!」

「も、最上さん…?」


玄関先で這いつくばるキョーコに、ひとまず土下座を止めさせようと蓮がその腕を引いた。


「軽いとはいえインフルエンザだよ?うつると悪いから帰った方が良い。でも償いって何?」

「それはっ!」


がばっと顔を上げたキョーコは、とても切羽詰った顔で蓮を見上げていた。そして涙ながらに訴えたのだ。


「敦賀さんのそのインフルエンザは私がうつしたものだからですぅ~!責任を取らせてくださいぃぃ~~~!」



ラブミー部の依頼で蓮の自宅で夕食を共にした翌日、キョーコは高熱を出して倒れた。

時季柄濃厚に疑われる流行感染症。病院に行き検査をすれば予想通りにインフルエンザの診断で、事務所に連絡し仕事も出勤停止、高校も通学停止。熱が下がって数日は出てきてはいけないと言われてしまった。幸いにも仕事のスケジュールは重要なモノはなく、日程の組み直しで済んだものがほとんどでぽっかりと空白の時間ができてしまったのだ。

幸い早期受診で薬もすぐにもらえたため高熱はすぐに引き、すでに何も症状はない状態になったにもかかわらず何もできない。そんな状態なのだからだるまやの手伝いにも入れず、キョーコは人様の邪魔にならないように自室に閉じこもって時間が過ぎるのをただひたすら待つしかない。

自己管理も仕事のうち。そう考えるキョーコは自分の不甲斐なさに歯噛みするしかなかった。


「敦賀さん、さあどうぞお休みになって下さい。高熱と関節痛で辛いでしょう?私もそうだったから分かります。水分を取ってマメに汗も拭きましょう!最上キョーコ、誠心誠意お世話させていただきます!」

「うーん…そうは言っても」

「ああっ、マスクは不要ですよ。息苦しいでしょう?私にうつす可能性は考えなくて大丈夫です!私かかったばっかりなので抗体ばっちりです!」


蓮のマスクを奪い取り、持参した冷えピタを素早く蓮の額に貼り、服を脱がさんとする勢いでタオルを持って巨体を寝室に押しやろうとするキョーコ。その様子に蓮は苦笑した。


「予防接種のおかげかすごく軽くてね。熱も微熱程度しか出てないんだ。念のためって社さんが検査をお願いして検査してみたら陽性ってでちゃって」

「へ?」

「まあでもインフルエンザウイルスを持っているって分かっている状態で仕事をするわけにもいかないし」


蓮の言葉に猪突猛進、強制看護を遂行しようとしていたキョーコの動きがぴたりと止まった。そう言えば、押しやっている蓮の体はとびきり高熱で熱いとは感じではない。


「…正直、ただの風邪なら普通に仕事してる程度の体調でね。そんなには辛くないし、なんだか申し訳ないやら手持無沙汰なんだ」


キョーコが目線を上げれば困ったように笑う蓮の顔が目に入った。


「そんな訳だから、つきっきりの看護とか無くても大丈夫だよ。最上さんも病み上がりなんだからしっかり休んだ方が良い」


キョーコが居てくれることは嬉しのだが、24時間体制でなど泊まり込む気満々なのだろうかと色々とツッコみどころが満載で深く考えたくない蓮は、努めて常識的な先輩としての言葉をかける。


「そんなぁ~…」


しかし、返ってきた眉を下げたキョーコの反応は予想外だ。まるでそれじゃこっちが困る、みたいな…。


「…なに、かな?俺が軽症なのが不満?」

「へっ…は…いえっ!」


少し温度が下がった蓮の言葉に、しまったとキョーコは否定の言葉を口にするがそこは正直なキョーコ。そんな取り繕いは蓮には通用しない。

じぃっとキョーコを見る蓮の視線に根負けしたのか、キョーコは視線を床に落とすとおずおずと口を開いた。


「あの…ですね。体調管理も仕事の内、と教わっておきながらまんまとインフルエンザに罹り、しかも発症直前に敦賀さんにお会いしてうつしちゃって。今も症状はなくなったんですけれども、仕事はまだできないし、学校も行けないし、だるまやの手伝いもできないし…こんなダメダメな私って落ち込んでしまいまして…」


体調管理云々で言えば、感染経路は別として発症してしまった自分も同じように責められている様な気がする蓮なのだが、キョーコの話はまだ続きがありそうなのでひとまず黙ってその先の言葉を待った。


「敦賀さんが発症したって聞いて責任を感じて…。感染源の私なら、敦賀さんのお世話をするなら誰にも迷惑はかからないし、私も少しでも役に立てる仕事ができるし…敦賀さんの無遅刻無欠席の輝かしい功績に泥を塗ったことに少しでも…」

「………」


なんだろう、面白くない。

いつぞやの…100点満点のスタンプを押した後に思わずマイナス点を押したあの時の様な感覚が蓮の中に広がった。


「社さんにも、この際だから敦賀さんのお食事管理もしっかりして体調万全の状態で仕事復帰するようにとラブミー部依頼で正式に頼まれましたし…、正直私もだるまやにいてもお手伝いもできないし、飲食店だから余計に……」


キョーコはキョーコでどんどんと墓穴を掘って蓮の地雷原に踏み入っていることに気が付かない。


「………へぇ」


俯いた頭上からかけられた蓮の声色にキョーコがハッとした時はもう遅かった。

やな予感がしてぱっと顔を上げると、そこには予想に違わずキラキラスマイルの先輩の顔。


「じゃあ最上さんに付きっきりでの完全看護お願いしようかな?」

「……!!!」


(―――…怒ってる!怒ってるわ!!!)


キョーコの頭上には久々に怒りの波動をキャッチした怨キョが本体とは正反対に楽しげに乱舞し始めていた。


「そうだね、前以上に体調万全に回復出来たら100点のスタンプ押してあげるよ」



***



「敦賀さん、症状は軽いと仰ってましたけど食欲はありますか?」

「うーん…」

「あ、訂正します。辛くて食べたり飲んだりがイヤとかではありませんか?」


思わず考え込んだ蓮にキョーコが質問を訂正してきたことに蓮は苦笑いした。


「それは無いかな?多少喉に違和感があるからいつもより水分は取っている感じだし」

「分かりました。じゃあお食事は摂れそうですね。これから数日分のメニューを考えて台所をお借りします。敦賀さんはこれを持って休んでてください」


つい大人げなく出た蓮の意地悪な反応に怯えた様子を見せたキョーコだったが、すぐに正論を振りかざして蓮を寝室に押し込めた。

水だけより吸収が良いからと、押し付けられた常温のスポーツドリンクをベッドサイドに置く。症状が軽いとはいっても軽い火照りと倦怠感がある蓮は大人しく寝室のベッドの中に潜りこむ。確かにここのところの仕事はハードで、疲れがたまっていたことは否めない。発症直前に接触したことをキョーコは大いに気にして責任を感じていたが、こんな流行の風邪などどこで貰っているかもわからない。

弱って無様な様相は晒したくないが、責任感からとはいえ甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのが嫌なわけではない。


『インフルエンザは1個のウイルスが1日で100万個にもなると言われていて増殖がとてつもなく早く感染力が強いんです!熱が低いからと言って侮ってはいけません!』


ベッドに横になって、蓮は先ほどまで交わしていたキョーコの言葉を反芻した。


(進行の速さは同じくらい…かな)


とてつもなく進行が速い病気という点では今胸の内に抱える不治の病も同じだが、違うのはその持続力。

キョーコに看病してもらうというのは以前高熱を出した時と同じなのだが、むず痒さと心地よさと、キョーコのお仕事発言に感じた不満は以前とは比較にならない。

本当に泊まり込む気なのだろうかと思ったが、それはを確認するのはやめた。なんだかんだと言ってキョーコを泊めた事もあるし、ゲストルームの使い方は勝手知ったるもの。こんなことを他の男のところでもやってはいないか心配にはなるが、きっとないだろうと何故だか勝手に思い込んでいる自分。

ましてや、今日のキョーコの発言からは蓮と同じようにインフルエンザウイルス所有中のキョーコは、ここにいる方が気が楽なのだろうと思い至る。


自分にもキョーコにも甘いなと思いつつ、蓮は倦怠感に任せて目を閉じた。

誕生日からバレンタインに続く例年のプレゼントの嵐のを病休という形でこなさなくてよくなったのに、ほんの少し煩わしさがなくなったと思ったのは罰当たりだっただろうか。

そう思ったとたん、本当は欲しいただ一人からの贈り物も期待できないんだと思い至って沈んだのも事実。


(たまには、こんなのも悪くない。神様からのプレゼント、と言った所かな)


そんな事を考えていたらスケジュール調節した俺に感謝しろ!と脳内の社が叫んできて蓮は一人ベッドで口元を緩めた。


降って湧いた休日をもたらしたのはキョーコで、しかもどういう訳か他から邪魔の入らない状況で2人きり。


愛しい少女が奏でる生活音は緩やかに蓮を眠りの中に誘い込み、誰も見る者のいない蓮の表情は嬉しそうな、穏やかな表情となっていた。



***



「強引だったかなぁ…」


台所でコトコトとお粥を煮つつ、あっさりめの野菜たっぷりのスープを作るべく野菜を切る。

蓮の部屋に上がり込み、勝手知ったるキッチンを占拠しながらキョーコは思わず呟いた。


熱を出す前にかたづけて行った状態のままのそこに、ちゃんと食べてなかったと不満を感じる傍ら、自分の痕跡の残るこの空間に感じたのは嬉しさだ。

冷蔵庫を開ければ、作り置きして行った食材がほんの僅かだが減っていて、緩む頬を抑えられなかった。


蓮の食生活がぞんざいだからこそ、こんな風に世話を焼いてこの件に関してはお説教できる。最初は何でも嫌味なほど完璧な先輩の欠点を見つけてこっそり喜んでいた風だったのに、いつの間にかその隙に入り込めるようになったことにキョーコは別の喜びを感じていた。


勢いのままここに飛び込んでしまったが、よくよく考えれば隔離療養中で2人っきり。

数日前に経験した具合が悪い時の心細さや人恋しさに、きっと蓮もそうだろうと思い込んでいた。


(馬鹿ね、一緒にいて欲しいかどうかなんてわからないのに)


お玉でお粥をかき回しつつ、ついつい考え込んでしまいキョーコははっとしてぶんぶんと首を振った。


「バカバカ!今は敦賀さんの回復が優先でしょ!喜んでる場合じゃないのよ!」


気を許せば壊死したはずの脳内回路に思考が回り始め、キョーコは気を引き締め直した。