10/19発売の本誌ACT205の続き妄想です
ネタバレものなので、未読の方、コミックス派の方はバックプリーズ!!
今回の続き妄想に関しては別途お知らせがあります。読み進めの前にこちらを一読の上お願いいたします→ACT205妄想についてお知らせ
※お知らせを未読の状態でのご意見・質問(特にクレーム)に関しては厳しい反応を返すやもしれません。必ずご確認ください。
それでは自己責任でご覧くださいませ↓
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ACT205妄想【14】
午前の仕事を予定通り終わらせた蓮と社は、次の仕事のあるテレビ局にいた。余裕を持って控室に入れたことにほっとした社は、チラリと自分の担当俳優に視線を走らせた。
社は同行しなかったグアムでのトラジックマーカーの撮影から約1ヶ月。
カイン・ヒールとしての時間を確保するために敦賀蓮の仕事はセーブしていたが、さすがにまるまる数日を海外での撮影のために捻出するのは骨が折れた。ましてや海外での仕事。季節がら考えづらいが天候不順など不測の事態で帰国が遅れる可能性も考慮し、余裕を持ったスケジュールを組んだ結果、敦賀蓮の帰国してからの仕事はかなり余裕のないものになってしまった。
社はぱらりと手帳をめくった。そこに書きこまれたピンクの印。それを見下ろしてどう切り出すべきか迷っていた。ほんの少し前であれば、何も知らない担当俳優の表情を崩してみたくて、思わず緩む頬を隠せずに喜々としてはしゃいでしまっていたが、最近の雰囲気からなんとなくそんな態度で告げることもできない。
「お疲れさん。まだ次の仕事まで余裕があるな」
「次はバラエティの収録でうちの事務所のタレントの冠番組、でしたよね?まだ直接会ったことはないですけど」
「そうそう、ブリッジロック。石橋って同姓の男性トリオだよ。お笑いじゃないけどね」
「ああ、それでブリッジロックっていうんですね。ご兄弟ですか?」
「いやー、オーディションの選考に残った中にたまたま同姓が3人いて面白いなってなってグループにしたって聞いたぞ」
「よく知ってますね」
LMEの規模は大きく、タレント部所属のブリッジロックの情報は俳優部所属の蓮や社が細かく知らない。仕事をする上で失礼にならないように相手方の情報を事前に把握しておくのも俳優を裏方で支えるマネージャーの仕事だ。
社は次の仕事の進行表とブリッジロックの資料を蓮に手渡し、コーヒーと水どっちがいい?と社は控室に入る前に購入した飲み物を蓮の前に並べた。ありがとうございます、とミネラルウォーターを手に取り一口飲みこんで蓮はふっと息を吐き出した。
「大丈夫か?帰国してからハードスケジュールだから…」
「あ、いえ。大丈夫ですよ?」
にっこりと笑って見せる蓮に、まあそうだよなぁと思いつつ社は核心をズバリ伝えることができずにいた。
「ちゃんと食べてるか?最近ちょっと心配だったから、この前久々にと思ってキョーコちゃんにも食事依頼出したんだけど…」
「え?」
何気なさを装って社はそう口にしてみた。案の定蓮は一瞬止まったように見えたが、それをすぐに隠してしまっている。以前なら隠してしまっていることすら気づかせずにいたのにと社は思うが、それは蓮のキョーコに対する思いを察してしまってからなのかどうなのか正確には答えられない。ただ、やはりグアムから帰ってきてから、どこかしら以前と違うと漠然と感じる何かを払拭できないでいた。
「…キョーコちゃんも仕事だって断られちゃったんだ」
「そう…ですか。社さん、最上さんだって仕事のスケジュールがあるんだからそうそう…」
「だってさ、お前ちゃんとキョーコちゃんにお礼言ってないだろう?蓮が忙しいのもあるし、キョーコちゃんはああいう性格だし、仕事をダシにでも会う機会を作らないとな。向こうの撮影中はずっと『彼ら』だったんだろう?」
「まあ、そう…ですけど。でも電話とメールで…」
キョーコと全く連絡を取っていないわけでもない事はその会話から分かるが、どんなに忙しくてもやはりちゃんと対面してお礼はするべきだと社は思う。トラジックマーカー撮影中はカインの正体を隠すために社はカイン状態の蓮とは一切接触を持ってはいない。ただカインを演じている期間に見せた蓮の昏さに不安を感じていたが、ホワイトデーに社長室に呼び出された時の蓮から受ける印象は大きく変化していた。
おそらく、キョーコが何らかのきっかけを与え蓮を支えてくれたことは確実だろう。
「どんなに忙しくたってちゃんと面と向かってお礼はしろよ。キョーコちゃんは『いえ、仕事ですから!』とかバッサリ来るかもしれないけど」
社の言い分に思わず想像したのか、蓮は容赦ないなと内心で呟く。
「キョーコちゃんも仕事が増えてきたし、前みたいにフリーの時間がたくさんある訳じゃないかもしれないからなかなか難しいかもしれないけどなぁ」
「いい事じゃないですか。彼女が女優として評価を受けれるようになってきてるって事なんですから」
「キョーコちゃん、色々うまくもなってるし話題も豊富だからなぁ~」
うんうんと頷く社は、はたとこれで話題を終わらせるわけにはいかないと頭を振った。
「そんな蓮君に朗報だ!」
社が明るく言葉にしてみると、蓮は話題の流れから言わんとしていることを読み取ったらしい。遊ばれるんだろうなと、少々苦笑い気味の表情を無視して社は言葉を続けた。
「キョーコちゃん、今日この局で仕事らしい。上手くいけばにニアミスできるかも!」
「…社さん、なんで最上さんのスケジュールまで知っているんですか…」
意を決して社がいつもの乙女モードで蓮に喜々として報告すれば、蓮からは大きなため息と呆れたようなセリフが返ってくるが、社は口の端に残った嬉しそうな笑みを見逃さなかった。
「そんなこと言っていいのか~?絶対俺に感謝してるくせにぃ」
「…そう言うことにしておきましょうか。敏腕マネージャーさん」
降参、といった風に手を上げて否定しなかった蓮に社は内心ほっと息を吐く。
「どのスタジオで何の仕事かまでは分からなかったけど、ラブミー部関係で1日この局にいる予定らしいぞ」
「そんな抽象的だったら同じ建物内にいると言ったってそうそう遭遇しないんじゃないですか。まさか探しに行くわけにもいかないし」
「だよなぁ。あとさ、ちょっと気になったんだけど…お前、キョーコちゃんにグアムで何かしたか?」
なんてことない普段の社との会話と思っていた蓮は、いきなり飛び出した質問に思わず止まってしまった。あからさまにギクリと停止してしまったが、幸い社は手帳に目を落としていたためその様子に吐きが付かなかったようだ。
「…なんですか、いきなり…」
何かしたか、と問われれば心当たりはしっかりある。しかし、キョーコはもとより社にそれが露見すること自体ありえないはずなのに、こうして言葉を突きつけられると背中に少し嫌な汗が染みる。
「いやな、今日のキョーコちゃんのスケジュールを知った時におかしなことに気が付いて…」
「え?」
「さっきラブミー部経由で夕食依頼したって言っただろ?その時キョーコちゃんは仕事で無理って断られたんだけど、どうも仕事は入ってなかったみたいなんだ。キョーコちゃん真面目だろ?仕事をダシに嘘つくなんてあまり考えられなくって」
「………」
手帳を覗き込んでうーんと唸る社は、ちらりと蓮に視線を走らせた。探る様な社の視線に表面上は平静を保ったが、蓮の心中はざわめいていた。
「そう思ったら、お前何かキョーコちゃんに避けられるようなこと、したのかなー…って」
「どう…でしょうね。カインとセツとして確かに距離は近かったと思いますけど…」
「キョーコちゃん純情乙女だからなぁ。役が入っていれば平気でも素に戻ったら恥ずかしくなった…とか?」
社の言葉にますます蓮は後ろめたさを感じてしまう。
正直に話すつもりなどないが、その純情乙女と何をしたのか。
元々キョーコとの接触を茶化すところのある社にいつも社の想像の方がもっと過激だよなぁと苦笑していたが、今回はその想像をはるかに超えているだろう。
「ほらホワイトデーの時だって、キョーコちゃんいつも以上に挙動不審だったし…」
「………」
「ホントにお前、ラブラブ危ない兄妹設定に乗じてやましい事してないよな?」
「………」
じっと社に覗きこまれて蓮が返事に窮していると、コンコンと控室のドアがノックされた。
「はい?どなたですか?」
社の視線がドアに向けられ、第三者の介入でこの話題は打ち切られる。ドアに向かう社の背に、蓮はこっそり息を吐き出した。
社が対応のため内側から声をかけドアを開ける。開いたドアの先には二十歳前後に見える男性3人。事前資料のブリッジロックと一致する顔に社は頭を下げた。楽屋入りした蓮のに挨拶に挨拶をしに来たようだ。
「失礼します!敦賀さん、今日はよろしくお願いします!」
真ん中に立っていた小柄な男性がぺこりと頭を下げ、それに後ろの二人が倣う。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
蓮と社は対外的な笑顔を浮かべそれに応じた。
「ふわー、やっぱ男前やなぁ。目の前で見ると迫力あるわー」
「こら、雄生!自己紹介もせずに失礼だぞ!すいません、初めましてブリッジロックのリーダーの石橋光です。こっちが慎一、こっちが雄生です。俺達全員石橋なので、良ければ名前で呼んでください」
思わず正直な感想を漏らした雄生を窘め、リーダーの光は自己紹介とメンバーの紹介をする。雄生と慎一は紹介されてぺこりと頭を下げた。
「いえいえ、気にしないでください。光さんに雄生さん、慎一さんですね」
「やっぱ敦賀さんスマートだわー。こんな美形で物腰もやわらかいなんて女の子がほっとかないやね」
「雄生っ」
「ほんとに気にしてませんよ。同じ事務所ですよね。よろしくお願いします」
「ほら、敦賀さんもそう言ってるし。丁寧なのはいいけれどそんなちっちゃい事気にしてるからリーダーは背ぇ伸びねぇんじゃね?ホントに敦賀さんより年上?」
「そうそう、意中の子にも奥手やしね」
「慎一っ、お前まで!しかもそれ、関係ないだろっ!?」
少々砕けた様子の3人だが、テンポよく弾む会話に微笑ましく感じるのは光の憎めない雰囲気のせいだろう。光が小柄で童顔なのと老成した蓮の雰囲気を対比すると確かになぁ…と2人が光をからかってじゃれ合うのを眺め、社は蓮と顔を見合わせてくすくすと笑った。
「せっかくだから敦賀さんにスマートな女性の誘い方とか教えてもらえば?」
「いい加減にしろよっ!ホントスミマセン!失礼な事ばっかり…」
「いえいえ、俺もそんなに恋愛に長けてる訳じゃないので。こちらこそ色々教えてくださいね」
「またまたー!あ、でも俺らの番組、トーク中心なんでそう言った質問が話題になるかもしれませんけど敦賀さん大丈夫ッスか?」
「事務所的には問題ない、ですよね」
含みを持たせてにっこり笑った蓮にブリッジロックの3人も思わず自分の事務所の社長を思い浮かべて苦笑いした。よっしゃ!じゃあ人気ナンバーワンの敦賀さんを丸裸にしようぜ!と息巻く雄生と慎一に蓮はお手柔らかにと笑った。そんな蓮に『よく言うな、お前…』と言いたげな社の視線が突き刺さる。
「あ、進行表見ていただくと分かると思うんですが、この楽屋から既に収録スタートとなるのでよろしくお願いします!敦賀さんの楽屋がそんなに散らかってるとかイメージできないんですけど、映って不味いようなものは整理をお願いします」
「え…?」
「ああ、すみません。楽屋入りしたばかりでまだ進行表を全部確認できていなくて」
思いがけない言葉に思わず疑問符を浮かべてしまった蓮に、すかさず社が謝罪した。
「いえいえ、敦賀さんお忙しいし今回も番宣を兼ねて無理にお願いしたゲストだから…。俺たちいつも楽屋挨拶を兼ねてお知らせもしているんですよ。結構楽屋って寛いでいるし、地が出ますからね。それを撮るのも狙いの内なんですけど」
そう言って光は蓮の手元にある進行表と同じものを取り出した。
「坊がゲストを楽屋にお迎えに上がるところから収録スタートです。坊がここまでお迎えに上がりますので、お時間までこのまま楽屋にいてください」
「坊?」
「はい!俺たちの番組、きまぐれの看板マスコットです。このロゴがそのマスコットなんですよ」
進行表の番組タイトル横に描かれた鶏のマスコットを光が指し示した。そのマスコットは、蓮が悩んでいた時に話を聞いてくれ恋の兆しを教授してくれたニワトリで…
「ああ…」
「「「「え?」」」」
進行表に目を落とした蓮の何か知ったような呟きと口元に浮かんだ微笑に、ブリッジロックと社が疑問の色で蓮を見る。
「…あ、いえ。この鶏君…坊君には個人的にお世話になって」
急に4人の視線が集まったことで、蓮は少し驚いた様子でそう返した。蓮の言葉に進行表を改めて覗きこんだ社は、進行表を初めて見た時の引っかかった感じの正体に気が付いた。どこかで見たような…と思っていたのは、以前この鶏のマスコットが蓮の楽屋を訪ねてきた時に対応したからだ。
「なんだ、やっぱりそうなんやー。坊、いい子でしょう?」
「そうそう!ツッコミセンスもあるし、正直だし、面白いし」
「表現力も豊かだよなー」
いい子?と蓮には多少引っかかる言葉だが、良く考えれば彼らの言い分は正しいと感じていた。相談に乗っていた時のツッコミセンスや、表情の変らないはずの着ぐるみなのに結婚詐欺を斡旋するような悪徳暴力団の様な表情や、思わず腹を抱えて笑ってしまったあの言動は、高い表現力とセンスを必要とするのだろう。
「そうですね。動きもコミカルで着ぐるみなのにすごいですよね」
「せやろ?鶏の中にいれとくには勿体無い!なぁ、リーダー?」
「ちょ…お前ら…っ!」
意味ありげに光をつつく雄生と慎一。自分に対するからかいと、あまりにも蓮に対して砕けた態度に光が二人を視線で詰るが、雄生と慎一は全く意に介することはなかった。
「あ、敦賀さん。坊とのやり取りは基本アドリブで進むんですけど、ツッコミが結構厳しいので適当に交わしてくださいね」
「ああ、そうですね」
蓮は坊との今までのやり取りを思い出して、口元を綻ばせた。
「あ!でも番組内だと坊の発言は喋らずフリップなので注意してくださいね!フリップ使わず行動で示すことも多いんでそこん所はうまく合わせてください!…って、役者さんだから大丈夫か」
「引きずられないように気を付けますね」
「そんじゃ、収録開始まで時間があるのでまた!休憩時間中に失礼しました」
ブリッジロックの3人はそう言い残して蓮の楽屋を後にした。
「…蓮、お前この鶏君に何のお世話になったんだよ?」
そう言えば楽屋を訪ねてきたこのマスコットに連れられ、しばらく席を外していたことを思い出した社はつい疑問を口にした。
「まあ…色々と相談に乗ってもらって助けてもらったんですよね。彼には感謝してるんです。クビになるかもと最初は言ってたし、どの番組のキャラクターかもわからなかったのでお礼を言えずじまいで。まさかここで会えるなんて…」
「…お前なぁ。お世話になった人にはちゃんと礼くらいしろよ。キョーコちゃんといい今回のマスコットといい、そつないように見えてどっか抜けてることあるんだよな」
何気に酷いですねと蓮は思うが、現実そうなっているのだから反論できない。いい大人なんだからちゃんとしなさい!と説教モードの社に蓮はハイと答えるしかなかった。
「なあなあ、キョーコちゃん、坊の仕事は恥ずかしいから秘密でって言ってたけど、やっぱ敦賀さんとは親しいんかなぁ?」
「キョーコちゃんの事知ってる風だったし、やっぱさ!敦賀さんにキョーコちゃんへのアプローチアドバイス貰った方が良いんちゃう?」
「ああっ、でも変に知り合いだとお前みたいなやつは許さんとか言われちゃうんかなぁ?共演してたって言ってたし、演技の相談に持ってもらった事もあるって言ってたしなぁ」
「それもありかもなぁ。キョーコちゃんは謙遜して自分は手のかかる後輩って言ってたけど、後輩女優やからリーダー厳し目に見られたりして!」
「そうなったらうちのリーダー勝ち目ないやん。とりあえずさぁ、時間もあるし腹も減ったしキョーコちゃん誘って飯にせん?」
「せやな!リーダーキョーコちゃん誘ってきぃ」
「…おっ、お…お前らーっ!!!!」
p>蓮が楽屋で社に追及されてた頃、挨拶を済ませたブリッジロックの3人がそんな会話を交わしていたことを蓮と社は知る由もなかった。
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ブリッジロックの3人の似非関西弁は目を瞑って下さい!!私のイメージの中での彼らの言葉づかいですー。
時系列的には13と同時進行かちょっと前…くらい。
会話ばかりで長々ですみません。想定の1話分に納まりきらん…!1話のボリュームがガチャガチャだ…orz