朝活読書愛好家 シモマッキ―の読書感想文的なブログ~Dialogue~ -72ページ目

朝活読書愛好家 シモマッキ―の読書感想文的なブログ~Dialogue~

読書とは――著者や主人公、偉人、歴史、そして自分自身との、非日常の中で交わす対話。
出会えた著者を応援し、
本の楽しさ・面白さ・大切さを伝えていきたい。
一冊とのご縁が、人生を照らす光になる。
そんな奇跡を信じて、ページをめくり続けています。

題名の直訳は、クロコダイルの涙。嘘泣きや偽りの涙という意味がある。

一見、悲しんでいるように見えるけれど、実際の心の中は……。

実際に涙を流さずに、悲しんでいるふりに対しても使われるという。

 

疑念が疑心暗鬼となり大きくなっていって互いを迷わせた。

世のなかでこういうタイプがいるのかもしれない。

思わせぶりに感じる態度から意図していない言葉の裏が相手に伝わってしまうこと、こころを惑わされることや他人の気持ちを推し量り忖度してしまうことだ。

 

老舗の陶磁器店を営む久野貞彦と妻暁美は、近くに住む息子の康平とその妻の想代子、孫の那由太と幸せに暮らしていた。

ところが、突然、康平が想代子の以前の交際相手に殺されてしまった。

被告となった隈本は裁判の判決終了後、不規則発言をする。

「想代子から頼まれて康平を殺した」と。

 

当初、想代子は、直接手を下さずに他人を誘導する恐ろしい女だと思った。

一般的には、嫁と姑舅の関係ならば、一度芽生えた不信感はなかなか拭えない。

貞彦や暁美の視点で進行していく。

想代子を疑う暁美と彼女を信じたい貞彦。

想代子の心の内面が最後までなかなか明かされなかった。

不気味な重苦しい空気を漂わせている。

想代子の強靭さ、行動のしたたかさがずっと怖いほどに際立ち静謐にそれらが続いていくのだった。

ぼくの想像のさらに上を行く結末であった。

 

1968年生まれ。愛知県出身。専修大学文学部卒業。「栄光一途」で第4回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。「犯人に告ぐ」で第7回大藪春彦賞を受賞。他の著書に「火の粉」など。

クローズドサークル的ミステリー小説。

カルト教団が残した地下施設「方舟」に10人が偶然閉じ込められる。

地震と地下浸水が偶然重なって刻々と死が迫ってくる極限状況下での連続殺人。

当初から誰が犯人なのかわからない。

タイムリミットが迫まりつつあり、冷や汗が出てくるくらいにドキドキ感が溢れ出てきた。

テンポよいストーリー、丁寧な犯人限定のロジック論展開あり。

さいごに待ち受けるどんでん返しも小気味よく。

ラストに明かされる犯人の動機がよろしくて天晴れだ。

これ面白いよ。

 

9人のうち、死んでもいいのは、死ぬべきなのは誰か?

大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。

翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。

さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。

そんな矢先に殺人が起こった。

だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。

生贄には、その犯人がなるべきだ。犯人以外の全員が、そう思った。

タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。

 

<目次>

プロローグ

1 方舟

2 天才と殺人

3 切られた首

4 ナイフと爪切り

5 選別

エピローグ

 

2019年、「絞首商会の後継人」で第60回メフィスト賞を受賞。同年、改題した「絞首商會」でデビュー。ほかの著書に「サーカスから来た執達吏」など。

詐欺、半グレから、高齢者の孤立、セクシャルハラスメント問題などの世の中の世相を反映した内容だった。

「老いても枯れない」という心意気は大事だが、その方法ややり方がまずかった。

ワクワクドキドキ感を間違った方向に使ってしまい、殺人にまで発展し事件に巻き込まれる悲しき惨めな事例でした。

安積係長のかたぶつ感もようやくなれてきて、水野など部下や相楽係長との丁々発止のやりとりなども堂に入るほどに、このシリーズの読後感は今回も気持ちよかった。

 

安積係長の心意気がわかる箇所。

123P

安積が相楽に言った。

「広田係長は、戸沢が初犯ではなく、余罪があると睨んでいたんだ。だが、その思いを送検のときにちゃんと反映できなかった。その悔いがあるんだ」

「悔いが残ったって、仕事なんですから、そこは割り切るべきでしょう」

おそらく、相楽が言っていることが正論だ。だが、安積はこのまま相楽の言い分を認める気にはなれなかった。

「警察官は、悔いが残る仕事をしてはいけないと思う」

相楽が驚いたように安積を見た。まだか、反論されるとは思っていなかったのだろう。

安積は言葉を続けた。

「悔いが残るということは、信じていたことを全うできなかったということだ。つまり、正義を果たせなかったわけだ」

 

感動がある人生を過ごしていきたいものだ。

338P

猪狩と和久田は目を丸くして安積を見た。

猪狩が不安そうに言う。

「何でしょう?」

「わくわくしたとおっしゃいましたね?」

「は……?」

「銀座での詐欺の話を聞いたときのことです。わくわくしたのだと……」

「ああ、そうでしたね。ええ、すごく興奮したんですよ。金よりも、そっちのほうが大切だったのかもしれないなあ……」

「そっちのほうが大切?」

「この年で一人暮らしなんてしていると、楽しみなんてなくなるんですよ。親しかった友人もどんどん死んでいくしねえ……。あとはもう自分の順番を待つしかないのか。なんておもっちまいます」

「いやあ、ただの茶飲み友だちですよ。どんな時に年を取ったなって思うか、わかりますか?欲がなくなったなあと感じるときです。食欲とか物欲とか性欲とか……。欲ってのは体力がないと湧いてこないんですね。俺たちの年になると、年々体力が衰えていくわけですよ。欲がないから、感動もないわけです。そんなとき、誰かを騙してみようかって話になって……。それで、戸沢といっしょにやってみたんですが、そのときのどきどきわくわくたるや、もう」

 

1955年、北海道生まれ。上智大学在学中の1978年に『怪物が街にやってくる』で問題小説新人賞を受賞。卒業後、レコード会社勤務を経て専業作家に。2006年、『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞、2008年に『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を受賞。2017年、「隠蔽捜査」シリーズで吉川英治文庫賞を受賞

キーアイテムとして、防犯ブザーと記章とピアノ「カノン」。

同い年の果遠ちゃんと結珠ちゃん。

まさに運命の人かな。

この世で出会うべきして出会っていると思った。

境遇の違う2人の女の子。

幼少期「羽のところ」から、思春期「雨のところ」、大人の「光のところ」まで。

最初は、古びた団地の片隅で。小学2年生の時に出会いそして別れる。

二度目は、進学先の高校で。高校1年生の時に再会し再び別れる。

三度目は、海が近い田舎で出逢う。29歳の時にまた偶然再会する。

三度めの出会いから、一緒にいて喜怒哀楽をともにするべきか。

こんなに別れと出会いを繰り返した二人。

幼さ、未熟さ、自分の意志ではない何かの大きな力によって離れ離れになり時が経っていった。

 

他の誰もないどうしてもあなたじゃないとダメだ。

ものすごく強靭な結びつき、絆、友情。

運命に導かれ運命に引き裂かれるひとつの愛。

愛には、お互いが接した時間の長短は、さほど重要でないことが伝わってきた。

 

個々の情景は目に浮かぶほどに読み応えがあった。

279P

辺りは真っ暗で静まり返っていた。街灯の寂しい灯りはむしろ夜の闇を引き立て、大きな蛾がその近くを飛び回っている。東京では夜道や人気のない場所を過剰なほど恐れていたのに、今はちっとも怖くなかった。風が吹くたび山全体がうごめくように感じられるのも、海面が墨を練り上げたようにつややかに光っているのもここでは当たり前のことで、その平凡な光景に自分も交ぜてもらった気がして高揚していた。見上げれば、探すまでもなく星々が瞬いている。夜がいつもこうなら、灯台はいらないのかもしれない。岬の方角に目をやったけれど、木々に遮られて灯台の光りは見えなかった。

私は果遠ちゃんに『ほんとうだよ』と返信する。

 

「光のとこにいてね」

「光」の描写が繊細だ、どうしてこんな素敵な表現が浮かぶのだろうか。

462P

海が光っていた。波も光っていた。空も光っていた。結珠ちゃんの車のボンネットもフロントガラスも、すべてが光の中にいた。

人口減少は、当分の間止められない。

174P 人口減少に打ち克つとは

人口が減ることを前提として、それでも日本社会が豊かであり続けられるようにするための方策を見つけ出すことだ。社会やビジネスの仕組みのほうを、人口減少に耐え得るように変えようというのである。

 

前回5年前の「未来の年表」では、人口減少が日本社会をじわりじわりと蝕む「静かなる有事」だと名づけられていた。

5年近く経過している現状でも、それから状況があまり変わっていない。

子どもを産むことができる女性の総数が減ってきている。

そもそも結婚しない男女が増えてきている。

結婚しても経済的に考えて子どもを生まない選択者もいる。

出生数の回復がなかなか見込めない状況である。

外国人労働者が日本人の代替として、諸外国から見て低賃金と思われる日本に来てくれるだろうか。

など不安が消えない。

 

183P 「薄利多売」から「厚利少売」(販売する商品数を少なく抑える分、利益率を大きくして利益を増やすビジネスモデル)へのシフト

今回、ビジネスを主観とした人口減少社会を乗り越えるための道筋「戦略的に縮むという成長モデル」を示そうとする内容だった。

 

「人口の未来は予測ではなく、過去の出生状況の投影である」

言い得て妙である。

だから、今からできることをしていかねばならない。

 

人口減少の影響を受けない組織や個人は存在しない。

製造業、自動車整備士、エアコン技術者、EVスタンド、水素ステーション、銀行、IT技術者、食品スーパーマーケット、食品卸会社、地方新聞社、ローカルテレビ、トラックドライバー、農業、食品メーカー、住宅メーカー、不動産会社、建設会社、都市鉄道会社、地方鉄道会社、バス事業者、水道事業者、ガス会社、病院、診療所、寺院、葬儀社、市役所、町村役場、小中学校、自衛隊、警察、救急隊……。

この本で取り上げられている業種や職種の一覧だ。

 

4P ダブルの縮小

人口減少により、マーケットの縮小や人出不足となる。

今後の日本は、実人数が減る以上に消費量が落ち込む「ダブルの縮小」に見舞われる。

 

5P このまま拡大路線を貫き、現状維持を模索していったならば、必ずどこかで行き詰まる。

 

5P 戦略的に縮むという成長モデル

人口減少に打ち克ちためには、経済成長が止まれないようにすることだ。

「戦略的に縮む」各企業が成長分野を定め、集中的に投資や人材投入を行うことである。

 

229P

人口減少対策とは『夏休みの宿題』のようなものである。

いつかはやらなければいけないと頭では分かっていても、ついつい後回しにしがちだ。その変化は日々の暮らしの中では目に見えないほど軽微なためである。

「まずは目の間の課題をこなすことが先だ」と言い訳しながら、時だけが過ぎていく。

 

夏休みの宿題が、後回しにされないでいつ社会に提出することができるだろうか。

いざ提出しようとしても、社会が年老いていて手遅れにならないように。

 

アンデシュ・ハンセンさんの「運動脳」ではないが、運動は、身体や心、脳の健康にとても役立つ副作用がない特効薬のようなもの。運動は一朝一夕にして効くものではなく、習慣化して数カ月から数年以上かかり体に効いてくるものだ。

 

少子化対策は、すぐ効く薬ではないと思われる。

何らかの政策の継続性が必要になるだろう。

多子化とならないといけない。

一つの内閣の間でやれる数年どころではなく、数十年単位で継続化する必要があるのではないか。

もう数十年前から少子化対策、少子化対策をと繰り返し警鐘が鳴らされ続けている話であり、今からやっても焼け石に水ではないかと思われる。

しかし、やらないよりもなにかしら少しでもやった方が将来後悔が少なくなるものだと。

できれば、社会が元気なうちに目に見える成果が表れて、それらを見ることが出来れば嬉しいのだが。

 

 <目次>

はじめに

序章 人口減少が日本にトドメを刺す前に

第1部 人口減少日本のリアル(革新的ヒット商品が誕生しなくなる―製造業界に起きること、整備士不足で事故を起こしても車が直らない―自動車産業に起きること、IT人材80万人不足で銀行トラブル続出―金融業界に起きること、地方紙・ローカルテレビ局が消える日―小売業界とご当地企業に起きること、ドライバー不足で10億トン分の荷物が運べない―物流業界に起きること ほか)

第2部 戦略的に縮むための「未来のトリセツ」(10のステップ)(量的拡大モデルと決別する、残す事業とやめる事業を選別する、製品・サービスの付加価値を高める、無形資産投資でブランド力を高める、1人あたりの労働生産性を向上させる ほか)

おわりに 

 

1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚労省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。2014年の「ファイザー医学記事賞」大賞をはじめ受賞多数

 

【No1267】未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起きること 河合雅司 講談社(2022/12)

ある踏切でしばしば発生する単なる怪奇現象の恐怖だけでは終わらない。

現世に強力な未練を残してしまうと、あの世に幸せに旅立つことができない。そこに地縛霊となるしかほかないのか。誰かに気づいてもらう方法しかどうしようもできない辛い結末を想像しながら。

光が当たらない底辺層で生きている人たちの悲哀から、日が当たらない側の裏社会の姿までをしっかりと垣間見ることができました。

ぼくは、正直言って始めは怖いもの見たさで手に取りましたが、そんな軽い乗りの小説ではありませんでした。

この世を生きるせつなさ、儚さを、登場人物たちからこころで感じて、僕のいままでの人生と重ねわせ、これからの自分の幸せを祈らざるを得ませんでした。

 

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表紙を見ると、踏切の真ん中に長い髪の女性のような白い影があることに気づく。

雑誌記者の松田は、踏切にまつわる事件の裏側を探ることとなった。

踏切での心霊現象に隠された真実とは?

薄幸の女性の生い立ちや素性に迫るところが真に迫っていた。

午前1時3分の家電話、女性の声。息遣いがなかなかゾクッときた。淋しさ纏う怪異現象に身体が凍えた。

徐々にピースがハマるように女性の素性が紐解かれていった。

その過程のスピード感がほどよくて、せつなさ感が止まらなくなった。

記者は自分の死生観を重ね合わせて、彼女の奥深い場所に触れて想いを掘りおこしていった。

物語が深く凝っていたのでもう一気読みだった。

幽霊小説なので背筋がずっとぞわっとして寒いのが続いた。

終りにはすべてのピースがハマり、優しさもせつなさも怪異現象も含め、辿り着いた物語の終わり方まで全てよかったと思う。

 

脚本家、小説家。「13階段」で江戸川乱歩賞、「ジェノサイド」で山田風太郎賞、日本推理作家協会賞を受賞。ほかの著書に「幽霊人命救助隊」など。

「人間には歩くことが何よりの妙薬となる」(医学の父、ヒポクラテス)

歩いて身体を動かすことが最良の薬となる意味だろう。

人間は、二本足で走行していままで発達してきました。

 

ヨガ、ピラティス、ウォーキング、エアロビクス、ランニング、ラジオ体操……等々。

なにかしら運動をすることは、少々疲れがあっても元気になり回復につながるほか、鬱積した気持ちを外に発散して鬱憤した気持ちから晴れ晴れとした気持ちへと変化させてくれ魔法のような行為となります。

運動がよいと信じる者として。

信じる者は救われます。

運動は、自分の実体験からして、体と心によく脳にとっても良いことだとなんとなくわかっていましたが、この本を読んで確信しました。

 

運動をすることが脳にどのような影響を与えるかを科学的に実証した本です。

記憶力の向上、集中力の高まり、ストレスの軽減などの効果が実験によって明らかになってきていると、科学的な根拠を示しながら説明してくれるので説得力がありました。

 

ランニングを週3回45分以上、大事なことは心拍数を増やすことです。

特に海馬と前頭葉の機能が高まり、記憶力、論理的思考力が向上する。

運動、特にランニングにより、認知症の発症が減少、ストレスを解消し集中力が高まりうつ病に効果がある。アイデアや創造性を増す。

ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質のみならず、BDNF(脳由来神経栄養因子)というタンパク質生成によるものだ。

 

運動は、歩くことより走ることで心拍数を上げることです。

たとえ少しだけ気持ちが滅入っていても、たとえ深く苦悩を抱えていても、運動をすれば晴れやかな気分になれます。

運動は、継続してやるべきかと。今から!?

運動は、お金がかからず、副作用がなく、とっても物凄く効く薬のようだと思いました。

 

2P 脳にとって最高のエクササイズとは

身体を動かすことだ。

身体を動かすと、気分が晴れやかになるだけでなく、あらゆる認知機能が向上する。記憶力が改善し、注意力が研ぎ澄まされ、創造性が高まる。それどころか知力にまで影響が及ぶという。これぞ正に正解、脳にとって最高のエクササイズに違いない。

心の状態と幸福感への影響だ。運動は不安障害やうつ病を減らすだけでなく、それらを治療する手段として抗うつ剤やセラピーに匹敵する効果があり、その事実はもはや動かしようがない。科学的名裏付けによる観点から、運動を重要な治療法と考えている。

 

9P 身体を動かすことほど脳に影響するものはない!

運動をすると気分が爽快になるだけでなく、集中力や記憶力、創造性、ストレスに対する抵抗力も高まる。情報をすばやく処理できるようになる。つまり思考の速度が上がり、記憶の中から必要な知識を効率的に引き出せるようになる。

また特別な「脳内ギア」を入れることで、混乱した状況下で意識を集中させ、心が乱れていても平常心を取り戻すことができる。運動によってIQ(知能指数)が高くなるという説さえある。

本書では、運動が脳に及ぼす絶大な効果を紹介し、(具体的な)その理由についても紹介する。

 

 <目次>

アンデシュ・ハンセンからのメッセージ 新版刊行によせて、日本のみなさんへ

はじめに 身体を動かすことほど脳に影響するものはない

第1章 現代人はほとんど原始人―あなたに関する、知られざるとっておきの秘密

第2章 脳から「ストレス」を取り払う―ストレスに負けない頭に変わる法

第3章 「集中力」を取り戻せ!―圧倒的成果を手にする「没頭する技術」

第4章 うつ・モチベーションの科学―目標まで迷うことなく一気に突き進む

第5章 「記憶力」を極限まで高める―試験、ビジネス、運動…他者と顕著に差が出るのはここ!

第6章 頭のなかから「アイデア」を取り出す―最新リサーチが実証した「運動後、ひらめく力」

第7章 「学力」を伸ばす―才能を一気に開花させる最良の方法

第8章 健康脳―認知症、高血圧、高血糖…あらゆる病と無縁な「長生き」の秘訣

第9章 最も動く祖先が生き残った―脳は「移動する」ためにある

第10章 運動脳マニュアル―どんな運動をどのくらい?

おわりに ただちに本を閉じよう

「運動脳」用語集

 

精神科医。スウェーデンのストックホルム出身。カロリンスカ研究所(カロリンスカ医科大学)にて医学を、ストックホルム商科大学にて企業経営を修めた。現在は上級医師として病院に勤務するかたわら、多数の記事の執筆を行っている。これまでに、医学研究や医薬品に関する記事を2000件以上寄稿。ラジオやテレビでも情報を発信し、とくにテレビ番組『科学の世界』への出演で有名。自身のテレビ番組もスウェーデン国内で持っている。

「ああ、そうなんだ」

と気づきがあった2カ所を取りあげてみただけ。

 

22P 自分より優れた者は「損失」、劣った者は「報酬」

近年の脳科学では、「(自分より下位の者と比べる)下方比較」では報酬を感じる部分が、「(上位の者と比べる)上方比較」では損失を感じる脳の部位が活性化することがわかった。脳にとっては、「劣った者」は報酬で、「優れた者」は損失なのだ。

すべての生きものは、快感を求め苦痛を避けるように「プログラム」されている。

徹底的に社会的な動物であるヒトは。自分が批判されることを過度に警戒すると同時に、集団からの逸脱行為をつねに監視し、自分より上位の者がそれを行うと、「正義」の名のもとに寄ってたかって叩きのめす。それと同時に劣った者に対しては、自分の優位を誇示する(マウントする)ように進化したのだろう。

私もあなたも、こうやって生き延びて子孫を残した先祖の末裔なのだ。

 

152P 善意の名を借りたマウンティング

相手にマウントすると「自己肯定感」が高まってよい気分になり、逆にマウントされると、脳内の大音量で警報が鳴り響く。たとえそれが、「善意」の名の下に行われたものであっても。

この一連の実験は、なぜボランティアに人気があるのかを教えてくれる。善意の名を借りて無力の人間をサポートする側に回ることは、自尊心の低いひとにとって、それを引き上げる最も簡便な方法なのだ。

 

 <目次>

まえがき 

1 正義は最大の娯楽である(なんでみんなこんなに怒っているのか、自分より優れた者は「損失」、劣った者は「報酬」 ほか)

2 バカと無知(バカは自分がバカであることに気づいていない、「知らないことを知らない」という二重の呪い ほか)

3 やっかいな自尊心(皇族は「上級国民」、「子どもは純真」はほんとうか? ほか)

4 「差別と偏見」の迷宮(無意識の差別を計測する、誰もが偏見をもっている ほか)

5 すべての記憶は「偽物」である(トラウマ治療が生み出した冤罪の山、アメリカが妄想にとりつかれる理由 ほか)

付論1 PTSDをめぐる身近歴史

付論2 トラウマは原因なのか、それとも結果なのか?

あとがき

参考文献

 

1959年生まれ。作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が三十万部超のベストセラーに。『言ってはいけない残酷すぎる真実』で2017新書大賞を受賞

ネガティブ的に言えば、「老いらくの恋愛」だった。

全体を見渡すとポジティブ的に言えば、「ピュアな恋愛」だった。

 

愛は、社会的な規範や倫理の物差しで片づけられる問題ではない。

たとえ恋愛で盲目となっても、相手の中に偽りを意識したり、自分の中に何か冷めたものを感じた機には、その愛情が維持できなくなってしまう。

 

「疼くひと」で七十代女性の性愛を描いたその続編。

「夫婦とは何か、結婚とは何か」をじっと考えさせられる。

 

「恋愛には、歳なんていくつになっても関係ない!」をうまく表現していたと思う。

それぞれいろいろな生き方があるし、老若問わずの男女の間での友だち、親友、恋人、夫婦など付き合い方もいろいろある。

七十五歳の女と八十六歳の男は、もう少し若い頃ではなくこのいまの時機だからこそ知り合ってよかったのだと。

青春時代だけでなく老年期においても、これありだよという彼らの気持ちを肯定的に進歩的に受け止めたい。

 

103P

元旦の朝に、電車を二度も乗り換え、二時間近くを掛けて自分に会いに来てくれた八十六歳の哲学者。

近づいてくるその男の姿を眺めながら、燿子は、なぜかこの場面が、すでに何年も前から定められていたシーンのように感じていた。

やっと。

やっと、私にぴったりな人に、会えたような気がする……。

彼女はそんなことを、わけもなく、自然に、穏やかに思っているのだった。

 

110P

たとえば、無条件の信頼。

互いのありのままを、見せ合うこと。

見せ合って、ときが経っても、互いの情熱が色褪せないこと。それらのことは、誰とのあいだでも、ほんの短いあいだならあったかもしれない。

しかし、そんな実感や信頼関係が長く続くことはなかった。

しかも、ひとりの男性と知り合ってからこんなにも短時間に、これほど相手に信頼を得たと思えたこともなかった。

燿子は、仙崎の本を読んで、早い時期からその人の知性と、仕事に取り組む誠実さに信頼を寄せていた。

彼が書いたものは彼女にとってしばしば難解でありながら、他の人の書いたものとは圧倒的に違う何かがあった。

 

115P

いい歳をして……。

人はどうしてこうも、「年齢」という概念に縛られて生きているのだろう。

自分も、七十五という歳を忘れられたら、もっと自由になれるのに。

十七歳のときめきを取り戻している自分を、もっと祝福してやれるのに。

「燿子のことだから、また恋をするんでしょうね」

友だちに潤に言われたのは、ずいぶん前のことだった。

 

1946年東京出身。早稲田大学文学部演劇科卒。雑誌ライター、テレビドラマのプロデューサーを経て、98年映画『ユキエ』で監督デビュー。2002年『折り梅』公開、2年間で100万人の動員を果たす。10年日米合作映画『レオニー』を発表、13年春世界公開された。15年『何を怖れるフェミニズムを生きた女たち』、16年『不思議なクニの憲法』と2作のドキュメンタリー映画を手がけ、自作の上映会や講演で全国を歩く。

 

明治5年から6年にかけて京都三条辺りで繰り広げられる人の間の物語。

 

疱瘡の後遺症で顔にあばたが残り徐々に目が見えなくなっていく少女ちとせのこころの葛藤から、三味線のお師匠お菊、車屋美濃谷の藤之助、元武士の稔らと出会いとともに彼女は大人へと成長していく。

 

併せてちとせが光を無くす時を悲観せず迎えられるだろう心の臓の強さを感じた。

 

温故知新。

失われていくものへの不安と新しいものへの憧憬から、幕末の動乱を乗り越えて、明治の新しい時代へ向かっていく京の町が重層的に連なった。

 

おわりに、

京都博覧会中、三条大橋の河原の舞台において。

風の中を桜の花びらが光りながら舞い散るとき。

撥の激しき強さと心染み入る三味線の音とともに。

水面に写るとても煌びやかで美しい、一世一代の千都世の晴れ姿があった。

何度想像してみてもこんな風に頭に浮かんだ。

 

 

空の情景描写が素晴らしくて。

172P

ふと見上げた空は、濃い藍色をしている。夜の青さだ。澄んだ、深い、水底のように張りつめた色は、夜の寒さの中でしか生まれない。そこに刺繡でもしたかのように淡い黄色の大きな満月が浮かんでいる。恐らく実際よりも二回りほど大きく見えているからだろう、この世の景色ではないみたいだ。

藍色の空を割って顔を覗かせるのその光は、どうしてこんなにもはっきりと自分の目に届くのだろう。夜空の月ほどの気高さはないが、明け方の月はとてもやさしく見える。

鴨川を渡るとき、ちとせは橋の上で足を止めた。まだ誰にも吸われていない空気を、胸いっぱいに詰め込む。西を見れば、山が朝日を受けて藍色に染まっている。その上の空は桃色。先ほどより光を失って白さを増した月が懸かっているようだ。少しの間見つめていると、月は太陽にその座を譲るように、朝空の背景に埋没していく。その姿が、少し寂しい。

 

 

186P

どこからか撥と糸が擦れ震える音がする。琵琶のように、すすり泣くような音。昨日聴いたものとは違ったが、あの座頭の音だとちとせには分かった。段々と慟哭のようになっていくが、それはむしろ生命力そのもののような激しさで胸に迫ってくる。

座頭の三味線は、人生の全てなのだと思った。その覚悟を持ち切れていない自分の音が、調和するはずがない。彼の音は、何十年もかけて追いかけていくべき深さを宿している。目指すところが一つ、見えた気がした。

 

 

ちとせの内面の美しさをていねいでやさしくわかりやすい表現で記していた。

239P

「本当のことですよ。だってちとせさんの三味線は、何より京らしい。何が京らしいのかと問われても言葉に出来ませんが、古いような新しいような、それでいて芯があって、やはり美しいところ。表面的な美しさじゃありません。内側の、見えないところの、飛び込んでみなければ分からない美しさです。

何気なく町を眺めている私たちが気づかないようなことが、あなたの三味線を聴くと見えてきます。頑張って見ようとする人の力は、見えている人のものを遥かにしのびますね」

 

 <目次>

一 天皇さんの町

二 祇園祭

三 丹後の巻貝

四 新しい道

五 闇に浮かぶ浄土

 

2005年生まれ、神奈川県出身。都内の高校に通う。2022年、『闇に浮かぶ浄土』で第3回京都文学賞中高生部門最優秀賞を受賞。大幅な加筆を経て、『ちとせ』と改題しデビュー