2025年、名古屋市の小学校教諭の逮捕をきっかけに明らかになった教員グループによる校内盗撮事件。児童・生徒の姿を学校内で撮影し、その画像をSNSのグループチャットで共有していた事実は、教育現場への信頼を大きく揺るがしました。
さらに近年は、教員だけでなく、児童・生徒同士による盗撮も増加し、男子が男子を対象とするケースも報じられるなど、従来のイメージとは異なる広がりを見せています。
盗撮が起こる「環境」と「心理」にも焦点が当てられています。読み進める中で、行為者の内面ばかりが肥大化し、被害者の感情や尊厳への想像力が完全に欠落していることに改めて気づかされました。
性について正面から学ぶ機会が乏しいまま大人になった世代が多いことも、こうした想像力の欠如につながっているのではないかと感じました。
■印象に残った箇所と考えたこと
51P 緊張と緊張の緩和
実行直前の高い緊張と、実行後の安堵・達成感。その落差が「快感」として脳に刻まれ、日常のストレスから一時的に逃れられる錯覚を生む。
この構造は、依存症のメカニズムと非常に似ており、盗撮が「自己使用のための行為」ではなく「盗撮のための盗撮」へと変質していく過程がよく理解できました。
89P 優越感と支配感
盗撮は「気づかれずに日記を盗み見る行為」に近いとあります。
相手に知られずに画像を保存することで、日常では得られない優越感や支配感を感じてしまう。
この“支配の錯覚”こそが、被害者の尊厳を深く傷つける本質だと思いました。
164P 性教育の欠如
現在の子育て世代(30〜50代)は、性について体系的に学ぶ機会がほとんどありませんでした。
「嫌よ嫌よも好きのうち」など、偏った価値観が娯楽の中で刷り込まれ、他者の意思や尊厳を軽視する態度につながってしまう。
性教育は「知識」ではなく「人間の尊厳を理解する学び」であることを再確認しました。
146P 環境が犯罪を起こす
性加害が起きる条件として
1. 加害したいと思う人がいる
2. 被害者となる人がその場にいる
3.周囲から見つからずに加害できる環境がある
この「3」を取り除くことが最も効果的であるという指摘は、学校の構造や制度設計の重要性を示しています。
「入りやすく、見えない」ではなく「入りにくく、見えやすい」環境づくり。
公衆トイレの設計や学校の動線など、具体的な改善の方向性が示されており、行政や学校現場が取り組むべき課題が明確でした。
■補足:読後に感じたこと
今回の読書を通じて、盗撮という行為を「性の問題」としてだけでなく、
・環境設計
・教育の不足
・ストレスと依存
・尊厳への想像力の欠如
といった複数の要因が絡み合う社会問題として捉える必要性を強く感じました。
特に、被害者の視点が置き去りにされがちな点は、性暴力全般に共通する構造です。
「相手がどう感じるか」を想像する力は、知識だけでは育たず、日常の対話や教育の積み重ねが不可欠だと思います。
また、学校という本来は安全であるべき場所で起きていることに、深い危機感を覚えました。
子どもを「被害者にも加害者にもさせない」ためには、包括的性教育と環境整備の両輪が必要であり、社会全体で取り組むべき課題だと感じます。
●目次
はじめに
第1章 学校での盗撮が急増している
第2章 盗撮する教師の歪んだ「自己正当化」
【対談1】中学受験塾元講師A 有名塾の教え子を盗撮した講師の「本音」
第3章 子どもが子どもを盗撮する理由
第4章 盗撮された子どもの絶望と深い傷
【対談2】永守すみれ(ネットパトロール団体代表) AIも悪用されるデジタル性暴力の恐怖
第5章 子どもを被害者にも加害者にもしない「包括的性教育」
【対談3】末冨芳(教育行政学者) 学校が校内盗撮を防ぐための制度とは何か
第6章 なぜ盗撮した教師を「治療」するのか
第7章 もしも子どもが学校で盗撮したら
おわりに
主要参考文献
●著者略歴
斉藤章佳さん
加害者臨床家。精神保健福祉士・社会福祉士。西川口榎本クリニック副院長。1979年生まれ。あらゆる依存症の臨床に携わり、現在までに3500名以上の性犯罪者の地域トリートメントに関わる
