二人分のごはんとみそ汁が、四人掛けのテーブルの上にそっと置かれている。
母と娘がコンロの前で並び、楽しげに料理をしている。娘がほほえみながら手を動かす後ろ姿の表紙から、物語全体を包むやさしさと温もりが自然と伝わってきた。
飯盛敦子(55)、村松陽愛乃(27)、鈴木寿子(65)、高木花絵(48)、海原多美(41)、みなみまどか(?)。
年齢も境遇も異なる6人の女性の日常が、台所を中心に巧みに描かれていく。気負わず読み進められ、読み終えたあとにはふわりと幸せが残った。
物語は、深夜30分ドラマ『台所のあるところ』のハッシュタグを軸に、登場人物たちの人生がゆるやかにつながっていく構成。
それぞれの女性が抱える事情は台所から始まり、台所でほどけ、台所で誰かとつながっていく。
台所では、人は素直になれるのだろうか。
食べることは生きることに直結し、台所はその人の人生そのものを映し出す場所なのだと感じた。
どんな材料を選び、何を誰のために作り、できた料理を誰と食べるのか。
日々の暮らしがつまった大切な場所で、自分らしく、家族との空間を守っていきたい――そんな思いが自然と胸に残る。
なかでも印象的だったのは、「冷凍庫冷蔵庫合わせて五台」で描かれる島の話。
「内藤」と「鈴木」姓の人しか住んでいない小さな島で、互いに反目し合い、他姓とは口も利かない風習がある。そこに嫁いだ女性の物語は、恐ろしさと現実味が入り混じり、土地柄が人の生き方を左右することを強く感じさせた。
252ページの言葉。
「自分に与えられている運命の中で、よりよいと思える道を探しつつ、その中で生きていかなくてはならない。」
人はそれぞれの場所で、一生懸命に生きている。
この一文が、本書のテーマをもっとも端的に示しているように思えた。
■目次
ままならないキッチン、ままならない人生
半殺し
冷凍庫冷蔵庫合わせて五台
毎日、揚げもの
犬のご飯、私のご飯
鎌倉の家
■著者紹介
原田ひ香さん
1970年神奈川県生まれ。「リトルプリンセス2号」で第34回NHK公募ラジオドラマ最優秀作。
2007年「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。
