しばらく前、Netflixで戸田恵梨香主演の『地獄に堕ちるわよ』がよく目につき、細木数子氏への興味が再燃した。
本書は、著者が細木氏の来歴を丹念に調査し積み上げたノンフィクションである。演歌歌手など他者からの搾取、暴力団との関係性を利用した金銭獲得など、知らなかった実像が次々と明らかになり、彼女への印象は大きく塗り替えられた。
「あんた死ぬわよ」「地獄に堕ちる」
「占い師が人を威圧し、いたずらに不安感や恐怖心を与えていいわけがない」
この指摘には、たしかに頷けるところがある。
細木氏は渋谷の青線地帯に生まれ、愛人と本妻が同居する家庭環境で育った。年齢を三歳詐称しながら銀座・赤坂の夜の世界でのし上がり、暴力団幹部との深い関係を背景に、島倉千代子氏、安岡正篤氏の歴代首相の相談役までも取り込み、「世界一の占い師」としてテレビや出版で巨万の富を築いた。
週刊誌の連載「細木数子 魔女の履歴書」が掲載されると訴訟を起こし、その後テレビ番組から降板した。
「ズバリ言うわよ!」「幸せって何だっけ」など、テレビで彼女を見かけた時期があったが、暴力団とのトラブルか何かで突然姿を消した印象が残っている。近年は動向がわからなかったが、令和3年に亡くなっていたことを本書で知った。
読み進める際には、18ページの「細木数子の人物相関図」をときどき参照した。
■印象に残った箇所
20P
占いは将来を言い当ててこそ値打ちがある。自信ありげに占うだけでは足りず、内容と正確性が問われる。細木数子の占いの的中率が総じて低レベルにあることは、大半の読者や視聴者が承知している。ある雑誌は、細木の占い的中率は34%、外れ率は64%と算出している。
26P
細木が時代と寝た女であることはたしかである。
162P
細木が体質として持つ低俗性は特徴がある。下品さ、金権主義、事大主義、教養や常識のなさ、はすっぱな物言い、勝ち組志向、弱い者いじめ、自己省察の欠如、没論理性など。
■目次
+α文庫版のためのまえがき
序章 時代の「寵児」なのか?
第一章 妻妾同居の家に生まれて
第二章 色と欲の「同行二人」
第三章 小金井一家・堀尾昌志との深く永い契り
第四章 他人のふんどしで占い師・細木の土俵入り
第五章 島倉千代子というカモネギが来た
第六章 歴代首相の指南役・安岡正篤をたぶらかす
第七章 細木を使うテレビ局の無残な無定見
第八章 「神水から墓石まで」の細木商法
第九章 墓地が炙り出す「最愛の男」
終章 低俗な時代を謳歌する女ヤクザ
付記「反論と訴訟」という墓穴
あとがき
細木和子の歴史
解説 溝口敦が燻り出す「女ヤクザ」の生育感 鈴木エイト
■著者紹介
溝口敦さん
ノンフィクション作家・ジャーナリスト。1942年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。出版社勤務を経てフリーに。『食肉の帝王』で第25回講談社ノンフィクション賞受賞。
