疱瘡の痘痕を抱えたふゆが、手習いの場から医者としての道へと歩み出すまでの物語。
前半の手習いの場面と、後半の医者として歩み始める場面。
そのあいだに横たわる大きな断絶が、ぼくのこの物語の読みづらさにもつながっていたのだと思う。
ふゆ自身がまだ自分の声を持てない時期と、ようやく自分の内側から世界を見返せるようになる時期。
その距離の長さが、物語の中にもそのまま刻まれている。
疱瘡の痘痕を理由に、ふゆは長く“外側だけで判断される側”に置かれてきた。
手習い先でも、家父長制や弱者へのまなざしの冷たさにさらされる。
けれど後半、ふゆの内側を見ようとする人との出会いが、静かに人生の向きを変えていく。
自分が受けた痛みを、他者の痛みに寄り添う力へと変えていく姿が、物語の芯になっていた。
前半と後半のつながりに戸惑ったのは、ふゆが自分の物語を取り戻すまでの時間が、あまりにも長く、深かったからだろう。
表面しかつかめなかったという感覚も、ふゆがまだ“表面でしか扱われていない段階”を読者として追っていたからこそ生まれたもののように思えた。
外側だけで人を決めつける世界の中で、
霊感のような感受性によってふゆの内側を見ようとする人がいたこと。
その一点が、ふゆの人生を支え、物語をそっと前へ進めていた。
■目次
第一章 ウニコール
第二章 りんぼ
第三章 ガストホイス
第四章 くゎいぶつ
■著者等紹介
朝倉かすみさん
1960年、北海道小樽市生まれ。2003年「コマドリさんのこと」で第37回北海道新聞文学賞を、2004年「肝、焼ける」で第72回小説現代新人賞を受賞し、作家デビュー。
2009年『田村はまだか』で第30回吉川英治文学新人賞を受賞。2019年『平場の月』で第32回山本周五郎賞受賞、第161回直木賞候補に。映画化もされ話題となる。2024年『よむよむかたる』が第172回直木賞候補。
