夜空に咲く花火は、ただの夏の風物詩ではない。
長岡の花火には、戦争で奪われた命への鎮魂と、未来へ希望をつなぐ祈りが込められている。
先の大戦で空襲により街は焼かれ、多くの尊い命が失われた。その痛みと願いが、時を越えて現代へと受け継がれていく――本作は、長岡まつり大花火大会を舞台に、過去と現在が静かに結び直される物語である。
「ずっと君に会いたかったです」
高校入学してすぐに葉山煌から夏目誠が当然の告白を受けた。
物語の鍵となるのは、一枚の古い絵。
真っ暗な夜を背景に、祈るように咲く白い大輪の菊花火が描かれ、そこには「夏目誠」のサインがあった。裏面には長岡市内の住所と「2026年8月1日14時」とボールペンで記されている。
まるで過去からの呼び声のように、その絵は主人公たちを未来の約束へと導いていく。
「(葉山)煌、長生橋で絶対、絶対いっしょに花火を見よう」
果たされなかった約束を胸に、主人公は覚悟を決める。過去から託された想いを受け取り、途切れた夢を未来へ継いでいくために。
作品には、花火が人の心を照らす力が繰り返し描かれる。
290P
「花火師となって世界中の爆弾を花火にするんだ」
207P
「どんげにつらいことがあっても花火を見れば元気になる。
つらくても難儀でも花火みたいに煌めいて一生懸命生きようなぁ」
過去に生きた人々のおかげで今の自分があるという事実に向き合う場面も胸に迫る。
277P
自分のちっぽけな命が過去に生きた人々のお陰で今ここにあるという事実に直面すると、その命の不確かさがとても重たく感じられて怖さを覚えた。
章立ては季節の移ろいとともに、登場人物の心の変化を静かに映し出す。
第一章 春
第二章 Summer
第三章 煌(あき)
第四章 ハル
第五章 ふゆ
著者・真戸香さんは、『あしたの私のつくり方』以来18年ぶりの小説執筆。執筆中にぎっくり腰となり鍼灸を体験したというエピソードも添えられている。8月3日生まれ。
長岡の夜空に咲く花火のように、過去の想いが現在の心を照らし、未来へと続いていく。
その光の連なりを、静かに受け止めたくなる一冊だった。
