人はだれしも必ず死ぬ。
いつか迎えるその時を思えば、いまをどう生きるかを考えずにはいられない。
死を恐れながらも、どこか惹かれてしまう――本書は、その矛盾した感情に静かに踏み込んでいく。
実は死んでいなかった死者、父親を撃ったと思い込んでいた娘、自殺に見せかけた首吊り、14発もの銃弾を自らに撃ち込んだ男、薪ストーブで死体を燃やした女、毒による完全犯罪、消えた凶器……。
前代未聞の事件が次々と登場し、軽妙な語り口で読みやすい。
著者は、1万体以上を検視・解剖してきた法医学医。血痕、傷、骨、臓器――死体に残されたわずかな痕跡から、死の真相を読み解いていく。
死体は、決して嘘をつかない。
不可解な死の裏側には、人間の弱さ、愛憎、執念、切なさが静かに横たわっていた。
亡くなった人に最後の「発言の機会」を与えること。
その言い分に耳を傾け、痕跡を拾い上げること。
それが著者の法医学医としての矜持であり、本書の核となっている。
印象に残った箇所
32P 科学捜査の三原則
1 ローカルの交換原理:すべての接触は痕跡を残す。
2 ケトレーの原則:同じものは二つとない。痕跡は特定の人物・物に結びつく。
3 一度取りこぼした痕跡は二度と戻らない。
41P
死体発見現場は想像を絶するほど不潔なことがある。破傷風の予防接種を打ってから入るべきと思うほどの場所も存在する。
また、テレビドラマのように指紋だけで犯人が特定できるわけではない。全国民の指紋データベースなど存在しない。
176P
自殺件数は毎年ほぼ一定で、方法も大きく変わらない。男性は首吊り、女性は薬物の過剰摂取が一般的。
208P
薪ストーブで死体を燃やした犯人への質問。
「一番燃えにくかった部位は?」
「頭部でした。全部で4回も燃やす羽目になりました」
264P
法医学医の敵は「救急隊員による蘇生術」と「腐敗」。
蘇生術は第三者の行為による病変を生じさせ、腐敗は窒息の診断に必要な痕跡を消してしまう。
目次
日本語版への序文 死体は、すべてを知っている フリップ・ボクソ
まえがき 法医学の世界へようこそ
プロローグ(法医学医になるまで、科学捜査で行なわれていること)
1 死体は、生きていた、私は殺人犯ですか?もしもし、パパ?わたしよ、あまりにも黒い死体
2 なぜか騒がしい部屋、骸骨は、ずっと待っていた、場違いなミイラ、死体を喰った豚、どうしても、死にたかった
3 自殺に偽装した殺人、薪ストーブの中で、自分を14回撃った男、血塗れのフォーク、消えてしまった凶器
4 首を絞めるもの、口は災いのもと、毒を盛る女たち、死体は汗をかく、裁判長、お許しください
あとがき すべてには「終わり」があるから
訳者あとがき
著者紹介
フィリップ・ボクソ
ベルギーの法医学医。リエージュ大学教授。6000体以上の検案、4000体を超える司法解剖を担当し、重罪裁判所での証言も多数。法医学の知見を物語として描く作家としても人気が高い。
神田順子
フランス語通訳・翻訳家。上智大学外国語学部卒。
