「普通にこだわり、普通の人や生活を描きたい」。
その言葉どおり、7つの短篇には、日常のなかにある“普通の風景”が静かに息づいている。読み心地がよく、どこか懐かしさを覚える作品集だった。
当たり前に過ごすことは、実は幸せに近い行為なのかもしれない。
日々の曖昧さや、ふとした違和感、心温まる瞬間――そんな「人生のかけら」が丁寧にすくい取られている。
たとえば、
「カシさん」 クリーニング店で下着まで頼もうとする女性客
「米屋の母娘」 態度の悪い米屋に通い続ける男
「一等賞」 商店街に時折現れ、何かを探し回る荒雄
「スナック墓場」 常連が次々と亡くなる不思議なスナック
どの作品にも、少し奇妙で、でもどこか愛おしい人々が登場する。観察眼の鋭さとユーモアが心地よい。
とくに「スナック墓場」では、店の空気を支える“清潔感”という心構えが印象に残った。
美薗ママは常連にも一見にも同じように接し、ボトルを丁寧に扱い、態度を変えない。その公平さが、店の居心地のよさにつながっている。
ハラちゃんもまた、誰に対しても朗らかで、慌てず、余裕をもって働く。人を対等に扱う姿勢が、読んでいて心を和ませてくれた。
普通の日々のなかにある揺らぎや違和感を、そっと描き出す短篇集だった。
先般講演会で語られた“普通の人間を描きたい”という作者の言葉が、作品の余韻をいっそう確かなものにしてくれた。
目次
ラインのふたり/カシさん/姉といもうと/駐車場のねこ/米屋の母娘/一等賞/スナック墓場/解説・森絵都
著者紹介
嶋津輝さん 1969年東京都生まれ。2016年「姉といもうと」で第96回オール讀物新人賞受賞。「一等賞」は『短篇ベストコレクション 現代の小説2019』に収録。
