今回の柚月さんの作品も面白く、一気に読み終えた。人気がある理由がよくわかる。
弁護士・久保利典が、行きつけのクラブの女性から不同意性交等罪で訴えられた。久保は無実を主張し、大学時代の同期である佐方貞人はその言葉を信じ、事件の経緯を調べ始める。
物語は、佐方と事務員・小坂千尋、そして容疑者である久保側の章と、蕃永石採掘に関わる大橋猛・原じい・晶らの章が交互に進んでいく。
一見まったく別の物語のように見える二つの流れが、どこでどう繋がるのか――その興味が読み進めるほどに高まっていった。
丁寧な人物描写によって、人間ドラマのリアリティが際立つ。
佐方は「事実」と「真実」の違いを見据え、地道な調査を積み重ねて真相に迫っていく。その執念と信念が、物語の芯を強く支えていた。
「事実と真実は違う。動機という真実がわからなければ、事件が解決したとは言えない」
過去と現在が交錯しながら、やがて一つの真実へと辿り着く。
一見事件と関係なさそうな回想が、最後の裁判やその後の展開に深く結びついていく構成も巧みだった。
✦ 人間関係の「濃さ」について ✦
時間の長さではなく、その時間の「濃さ」が関係性を形づくる――作品の中で語られるこの視点が印象に残った。
大学で四年間机を並べたものの、寮で酒を飲んだり遊びに行ったりした回数は多くない。それでも佐方にとって久保は「短い時間でも深い繋がりを持つ相手」だった。
その関係性を言い表す言葉が見つからないという佐方の心情が、静かに胸に響く。
✦ 信頼の重さ ✦
信頼は時間をかけて築かれるが、崩れるのは一瞬だ。
逮捕は「容疑がかかった」という段階にすぎないのに、世間はすぐに犯人扱いをする。たとえ無実が証明されても「後ろ暗いところがある人間」という烙印は残る。
まして弁護士であれば、その失うものは計り知れない。
久保が背負うことになる重さを思うと、佐方の調査に込められた覚悟がより鮮明に感じられた。
✦ 目次 ✦
プロローグ
第1章〜第14章
エピローグ
✦ 著者紹介 ✦
柚月裕子さん 1968年岩手県生まれ
2008年『臨床真理』で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。
2013年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、2016年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞、2018年『盤上の向日葵』で本屋大賞2位。
