本書は、古代から現代までの戸籍制度を手がかりに、日本社会のあり方や「日本人とは何か」を問い直す内容である。
著者によれば、天皇には戸籍がない。戸籍とは「天皇の臣民」を登録する制度であり、天皇はその外側に位置づけられてきたからだ。また、戸籍は日本人であることの証明書として機能してきた歴史がある。戸籍を持つ者は日本国籍を有するとみなされる、と著者は述べる。
本籍地に誰も住んでいなくても問題はない。戸籍は家族の実態を写すものとして期待されておらず、現実の家族関係を正確に記録する制度ではなかった。むしろ、国家が国民の身分を登録し、家を媒介として国民統合を図るための装置として長く機能してきた。
日常生活では戸籍の存在を意識することは少ない。パスポート申請や相続など特定の場面を除けば、戸籍は「あるのが当たり前」で、普段は背景に退いている。
私は、人はそれぞれの形で幸せを求めて生きているものだと考えている。
現在、夫婦別姓、同性婚、事実婚、国際結婚、LGBTQカップル、シングルマザーなど、多様な家族のあり方が広がっている。そこにはそれぞれの幸せの形がある。
しかし、明治期に確立した戸籍制度は「家」を中心に据え、血縁や嫡出を重視する思想を色濃く残してきた。そのため、家族観やジェンダー観の変化と摩擦が生じ、制度が時代にそぐわない場面も増えている。
著者は、戸籍を「家を管理し維持するための制度」と捉える。戸籍は、画一的な家族像を公認することで、個人の自由な結びつきを制限してきた側面があるのではないか。
住民票やマイナンバーで代替できる部分も多い今、戸籍に縛られずに生きられる社会をどう実現するかが問われているように感じた。制度に息苦しさを覚えることなく、より柔軟に生きられる社会が必要なのだろう。
✦ 目次
一章 「日本人」としての証明書
二章 「古代の制度」がなぜ復活したのか
三章 明治国家が創り出した「家制度」
四章 戸主という名の「君主」
五章 「婿」と「妾」の国・日本
【寄り道 その一】人別帳の世界―江戸時代の「戸籍」
六章 創り出された「日本人」
七章 早くも現われた「限界」―徴兵制と国勢調査
【寄り道 その二】本籍を「皇居」に置く人たち
八章 戦前の「無戸籍」問題
九章 差別の温床として
一〇章 「大日本帝国」の戸籍―朝鮮、台湾、そして満洲
一一章 国破れて「家」あり
一二章 「日本人」の再編
一三章 天皇に戸籍はあるか
一四章 『サザエさん』に見る戦後の「家」
終章 戸籍がなくても生きていける
あとがき
✦ 著者紹介
遠藤正敬さん
政治学者。1972年千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了、博士(政治学)。早稲田大学、宇都宮大学、大阪国際大学、東邦大学などで非常勤講師を務める。専門は政治学、日本政治史。著書に『戸籍と無戸籍―「日本人」の輪郭』(人文書院、2017、サントリー学芸賞受賞)など。
