神経衰弱の気鬱から逃れるように、井原真拆は森の深奥を彷徨う。
蛇毒に倒れたところを僧に救われ、山寺に逗留することになる。
俗世から切り離された奇妙な時空の中で、真拆はいつしか現実と夢幻の境を踏み越え、一人の女と出逢う。
泉鏡花『高野聖』を思わせる、耽美で妖気を帯びた文体。
現実と幻想の境界がさっと揺らぎ、溶けていくような感覚があった。
読む側の感覚までもふっと揺さぶられる、独特の気配が作品全体に漂っている。
山の湿った空気、闇の奥から忍び寄る妖しさ、人の心の底に潜む魔物。
そのすべてが想像の余白に委ねられ、より深い余韻を残してくれた。
拒む愛と求める愛。
筋は異なっていても、どちらも同じような不思議な魅力へと読者を誘い込んだ。
