インセスト・タブー(近親性交の禁忌)。
倫理的にも道徳的にも、常識的にも到底共感できるものではない。
本書は性的な興味本位の内容ではなく、家族という最も身近な関係の中で起こる性暴力の実態を、静かに、しかし確かに照らし出している。
家族は被害者であり、同時に加害者にもなりうる。
日本では加害者側だけでなく、その家族である“被疑者家族”への風当たりも強い。
本書で描かれるのは、社会の影に潜む、デリケートで深い家族の闇である。
著者は、加害者家庭の支援の過程で知り得た事例を、当事者の許可を得たうえで匿名性を確保しながら紹介している。
「監護者等性交罪」「監護者わいせつ罪」「不同意性交等罪」などにより性暴力は告発されやすくなったものの、密室で行われる行為をどう防ぐのかという根本的な課題は残されたままだ。
こういった事実を知ることで少しでも物の見方を変えるきっかけになればと。
幸福の形は人によって異なる。
何が幸せかを決めるのは自分自身であり、自分を幸せにできるのも自分だけだという著者の言葉が胸に残った。
p.227
近親性交を引き起こす家族の“親密化”は、家族の中に個人が不在となり、「家族は一体である」という幻想から生まれているのではないか。
p.235
多くの家庭で密かに行われる近親性交という現実、そして家族が抱える性の認知の歪みは、性教育の欠如の表れである。
性とは本来、人格と深く結びついた尊厳にかかわる事柄であり、茶化したり恥ずべきものとして扱うべきではない。
性教育の基本は「私の身体は私のものだ」と理解すること。胸や性器などのプライベートゾーンは、たとえ家族であっても侵してはならない。
目次
はじめに
第一章 父という権力(息子が殺人犯となった理由/家族の敵は家族/父と娘の対立/子性交の実態)
第二章 母という暴力(無期囚と家族/息子の子を出産した母/性犯罪者の母の責任/母子性交の実態)
第三章 長男という呪い(姉による性暴力/傷ついた者たち/きょうだい性交の実態)
第四章 近親性交で生まれた子どもたち(近親性交による妊娠/出自を知る権利)
第五章 近親性交が生じる背景(家族による性の束縛/家族の孤立と親密化 ほか)
おわりに 共犯者から被害者へ
著者紹介
阿部恭子さん
1977年、宮城県仙台市生まれ。
特定非営利活動法人 World Open Heart 理事長。
東北大学大学院法学研究科博士課程前期修了(法学修士)。
2008年、大学院在学中に日本で初めて犯罪加害者家族を対象とした支援組織を設立。
近年はノンフィクションライターとして「現代ビジネス」「プレジデントオンライン」などで事件に関する記事を発信。日本文藝家協会会員。
