表紙には「ホテルプリンス」が写っている。ホテルも謎解きのピースの一つとなっている。
都内の火災現場から都議会議員と元女優の熟年夫婦が遺体で発見される。これは、無理心中なのか殺人なのか!
途中から犯人!?と思える人物がだんだんとわかってくる。
しかしそんなに簡単なものではなかった。いつもの東野さんの警察ものの流れになっていった。
後半からは、ドラマの展開が深まる。少しずつ重なっていきずれていく歯車があり。違和感が少しずつ積み重なっていって思いもよらぬ結果を生んでいった。
学生時代において誰もがあるのかもしれない過去の些細な出来事。
忘れていたものを掘り起こされると何ともいえない気分になるものだろう。
終わりには、すべてのピースがはまっていった。
真相にたどり着いた五代刑事の推理する力は際立っていたと思う。
291P
話を聞けば聞くほど事態が混沌としているのが五代にもわかってきた。
「さっき筒井さんは、幽霊をおいかけているようだとおっしゃっていましたよね。この状況のことをいったんですか」
「そうだ、元々存在しないものを探し回っているような虚しさを感じるという意味でな」さらに筒井は桜川のほうをちらりと見た後、声を落として続けた。「ふっと思うことがあるんだよ、俺たちは架空の犯人に振り回されているんじゃないかって」
「架空の犯人……」
「もちろん、大きな声じゃいえないけどな」筒井は人差し指を唇に当てた。
東野圭吾さん
1958年大阪府生まれ。大阪府立大学工学部電気工学科卒業。85年『放課後』で第三十一回江戸川乱歩賞を受賞。専業作家に。99年『秘密』で第五十二回日本推理作家協会賞、2006年『容疑者Xの献身』で第百三十四回直木賞、第六回本格ミステリ大賞、12年『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で第七回中央公論文芸賞、13年『夢幻花』で第二十六回柴田錬三郎賞、14年『祈りの幕が下りる時』で第四十八回吉川英治文学賞、19年に第一回野間出版文化賞、23年に第七十一回菊池寛賞を受賞。多彩な作品を生み出し、その功績により23年紫綬褒章を受章
