カメラマンの新夏はプロポーズされた翌日に恋人の啓久が携帯を使った盗撮でつかまった。
何とも衝撃的なスタートから驚かされた。
酔っぱらってふわふわした気持ちでした出来心だと思うと啓久。
彼の行動の原因を納得したいと思いながらも混乱し続ける新夏。
この2人がすれ違っていく様子が前半に描かれていく。
啓久の両親や姉、新夏の父親等の心情についても描かれていく。
世間には多様な考え方があるということを感じた。
正解ではなくて最適解があるのならば、自分だったらどうするのかと考えながら読んでいた。
犯罪かどうかの違いはあるが、人は過ちを行ってきているものだ。
それを赦せるかどうかは、それぞれ人によって異なる。
なにかしら罪を償えばゆるされるのか?
自分にとって生理的に付けつけない行為かどうかも含める。
一旦壊れた鏡は戻せないように、気持ちもそう簡単なものではない。
想定問答があって納得いく回答や基準を持っている人も多くはない。
盗撮などの性犯罪の場合にも、それぞれの立場とこれまでの常識と経験において判断基準があってよきべきものだと思った。
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もし自分の身の回りに不幸があったら、啓久も思うだろう。俺が盗撮なんかしたから、盗撮なんかするような人間だからひどい目に遭う。と、あの日を起点に人生が書き換わり、枝分かれしたルートは全部あの朝に繋がっている。それまでの三十年はなかったのと同じだ、と時々思わずにいられない。
<目次>
恋とか愛とかやさしさなら
恋とか愛とかやさしさより
一穂ミチさん
2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。『イエスかノーか半分か』などの人気シリーズを手がける。21年刊行の『スモールワールズ』が本屋大賞第3位。同作で吉川英治文学新人賞を受賞し、直木賞候補になる。22年刊行の『光のとこにいてね』は本屋大賞第3位、キノベス第2位。同作で直木賞候補になり、島清恋愛文学賞を受賞。24年『ツミデミック』で第171回直木賞を受賞
