人工知能が、世の中を席巻する時代がもう既に来ている。
そもそも人工知能が、人の罪を裁けるのかどうか。
判例や法律等の蓄積は得意だが、不測の事態に対応できるのかどうか。
効率化やコスパ、タイパなどを突き詰めてはいけない分野があるのではないか。
心や感情があるのだろうか。
AIはあくまで補助の手段であって、人が最終的に判断すべきではないだろうか。
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「人の一生を左右する判決にAIを介在させるのは、僕も抵抗がある。アナクロと言われそうだけど、人が人を裁くのにデジタルな思考が相応しいとは到底思えない」
言葉がすとんと胸に落ちる。
葛城と一緒にいて良かったと思えるのは、時折円が抱える曖昧な気持ちを言語化してくれることだ。
人の運命をデジタルに判断することの不安。それこそが円の思い悩んでいた元凶だった。
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「AIを導入すれば、遅かれ早かれ心の問題が取り沙汰されるのは目に見えています。」
「萬田さん、そうした失敗例の中で、感情や心の問題を先送りにしたケースというのはありますか」
「感情や心というのはAIの開発段階で散々取り沙汰されてきた問題です。にも拘わらず、今でも失敗した例は少なくありません」
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「効率化やコスパが叫ばれる現代です。事務手続きが煩雑ではマンパワーが落ちるので、電子化や省力化も必要不可欠でしょう。しかしですね、量刑判断や死刑判断までAIの力を借りることには嫌悪感と言うか罪悪感があるのです」
明らかに檜葉に対する異議申し立てだった。
「いくらAIが高性能であろうと、いくら自分の人格と瓜二つであろうと、裁判官は悩むことから逃げてはいけないと思うのです。裁く側も裁かれる側と同等に足掻き煩悶する。被害者の無念に寄り添い、被告人の心情を理解する。そういうプロセスを経てこそ人が人を裁くという傲慢の免罪符になり得るのだと、わたしはそう考えます」
崎山は円に向かっては箴言を、檜葉に向けては諫言を投げかけていたのだ。
<目次>
一 ヒトを超えるもの
二 過去を超えるもの
三 情状を超えるもの
四 事実を超えるもの
五 AIを超えるもの
岐阜県出身。「さよならドビュッシー」にて第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。他の著書に「護られなかった者たちへ」「作家刑事毒島」など。
【No1539】有罪、とAIは告げたGuilty,the AI said 中山七里 小学館(2024/02)