今野敏さんは、警察官を描くことにかけては天下一品だと思う。
名言をひとつ。
「警察官は、仕事には慣れなくてはならない。だが、決して事件や事故に慣れてはいけないのだと、樋口は思っている。警察官にとっては日常でも、被害者や遺族にとってみれば、一生に一大事なのだから。」
警視庁強行犯係の係長、樋口顕はこういう人物だ。
「係長になって決めたことがある。思いついたこと、やらなければならないことは、すぐにやるということだ」
本部、所轄、マスコミ、遺族の間で苦悩する樋口の様子が丁寧に描かれていた。
彼は、所轄で一旦判断した自殺ではなくて、他殺でないのかと調べれば調べるほど疑念が湧いてきた。
本部と所轄との間で葛藤し一部の上司の命令に背いて懲戒免職までも覚悟して信念に基づき行動するのだった。
そんな彼を信頼していて見ている人はちゃんと彼のことを見ていた。
政治家の秋場康一にかけられたこの言葉で気持ちを新たにして、彼は難局を乗り切るのだった。
「味方がいないなんてはずはない。どんなときも、必ず味方はいるものだ。政治の世界にいるとね、それこそ、本当に四面楚歌の状況に追い込まれたりする。だがね、そんなときこそ、味方を見つけて大切にするんだ。私はそうしてきた」
1955年北海道生まれ。上智大学在学中の78年、「怪物が街にやってくる」で第4回問題小説新人賞を受賞。東芝EMI勤務を経て、82年に専業作家となる。2006年、『隠蔽捜査』で第27回吉川英治文学新人賞を受賞。08年、『果断 隠蔽捜査2』で第21回山本周五郎賞ならびに第61回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞。17年、「隠蔽捜査」シリーズで第2回吉川英治文庫賞を受賞。著書多数
