手術支援ロボット「ミカエル」。
ミカエルは、神なのか悪魔なのか。
これを使うメリットは、患者の負担を最小限に抑えられることだ。
従来からの開胸術ではなく内視鏡で行うことで繊細な作業も可能になる。
複数人の患者に執刀医一人が、手術室に入らずともガラス張りの操作台の前の椅子に座ったままで遠隔操作が可能となる。
操作室を独立させることによって、手術着の着替えや消毒等が不要となりスタンバイしている別のスタッフと患者にそのまま執刀医が移動できることがあった。
このロボットの名の下で、医療過誤や医師の矜持問題というテーマが流れていた。
また北海道中央大学病院の倫理や医師らのそれぞれの信念を問うような人間ドラマだった。
手術支援ロボット「ミカエル」を推進する心臓外科医の西條泰己、
ドイツミュンヘンから病院に呼び寄せられた天才心臓外科医の真木一義、
白石航は、十二歳で先天性心疾患の難病患者だった。
両医師の少年を助けたいという気持ちは変わりない。
ロボットなのか人の手になるのか。
それぞれの立場で考えた救えるための方法が違っていた。
二人の心臓外科医は、この少年の治療法で意見が食い違っていたのだった。
230-231P
西條の𠮟責に、真木は動じない。念を押すように、きっぱりと言い返す。
「白石航は、必ず治す」
西條は、真木を突き飛ばした。
「お前は自分が神のつもりか、思い上がるのもいい加減にしろ」
真木は、よじれた白衣の胸元を整えながらつぶやいた。
「あんたこそ、患者の何を見ているんだ」
「なに?」
真木は、西條を斜に見た。
「白石航は生きていない。気持ちが死んでいる」
西條の脳裏に、航の目が蘇った。暗く、正気のない、洞のようだった。
真木は言葉を続ける。
「壊れた心臓は、手術で修復できる。だが、心が死んだままでは、本当の意味で救ったことにはならない。いま、白石航に必要なのは、生きる意志だ。本人が生きたいと思わない限り、手術が成功しても彼は治らない。だから、あえて断定した。彼に生きたいと思わせるために、必ず治すと言った」
445P 真木医師の口癖「先のことはそのときに考えればいい、いまは目の前にあることをするだけだ、です」
目の前にいる患者さんを治すことのみに専念する。
他の事例にも応用できるようなまったく鋭い真理だと思った。
<目次>
プロローグ
第一章から第九章
エピローグ
1968年、岩手県生まれ。2008年「臨床真理」で第七回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。13年『検事の本懐』で第一五回大藪春彦賞、16年『孤狼の血』で第六九回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。同年『慈雨』で“本の雑誌が選ぶ二〇一六年度ベスト一〇”第一位、18年『盤上の向日葵』で“2018年本屋大賞”二位となる。
