川端康成の『眠れる美女』は、高齢男性の性を扱ったものだった。
一方この『眠れる美男』は、高齢女性のエロティシズムを扱う作品だった。
共通しているのは、相手の異性が眠っていることか。
元外交官の妻として裕福な生活を送る殷殷夫人は、フィットネスジムの野性的なインストラクター、パンとの恋の罠に陥ちていくのだった。
露骨すぎないエロティシズムな言い回しによって、じわっとにじみ出てくるインクのような桃色の気分が、紙面のほうから眼のなかへと静かに拡がっていくのでした。
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彼は彼女に肉体を見せた。
男性の肉体。
彼の肉体。
あの緩やかなスウェットに遮られた男性の肉体は、実はより多くの想像を掻き立てるのだ。一部露出する腕は、三角筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋の境界も明らかで、隆起する筋肉の間は、割れ目も露わだろう、それならば、隠された分厚く迫り出す胸筋、触れば固いシックスパックの腹筋、見事に強大壮健なる筋肉の両足、それらもまたいかに驚くべき姿であろうか。
彼への愛に気付いた後、彼女は彼の肉体を渇望するようになっていた。
いや、どうしても入って欲しいというわけでもない。
最初に生じたのは接触だった。
彼による接触は、まずは手によるのみである。
<目次>
自序書前に記す 回春/春回
プロローグ
愛 山と海、永遠の場、夫
別 チャーリー、彼の肉体、五彩の羽衣
離 犬、時差、My Heart is Ghost Town、小鮮肉
苦 あなたは遅れた、補助薬、補助―薬、忘却
エピローグ
後記
訳注
訳者解説
李昂[リコウ]
1952年、台湾西海岸中部にある古都・鹿港で生まれた。1970年、台北の文化大学哲学部に入学、75年、アメリカ・オレゴン州立大学演劇コースの大学院に留学、78年に帰国後は旺盛な創作活動のかたわら、コラムニスト、テレビ評論家としても活躍。2004年にフランス政府より芸術文化勲章騎士勲功を授与されたほか、台湾では聯合報中篇小説賞、呉三連文学賞などを受賞。
藤井省三
1952年、東京都生まれ。桜美林大学文学部助教授を経て88年東京大学文学部助教授、94年同教授。2018年退官。現在名古屋外国語大学教授。日本学術会議会員(2005~14年)。専攻は現代中国語圏の文学と映画。
