【No.717】八月の銀の雪 伊与原 新 新潮社(2020/10) | 朝活読書愛好家 シモマッキ―の読書感想文的なブログ~Dialogue~

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読書とは――著者や主人公、偉人、歴史、そして自分自身との、非日常の中で交わす対話。
出会えた著者を応援し、
本の楽しさ・面白さ・大切さを伝えていきたい。
一冊とのご縁が、人生を照らす光になる。
そんな奇跡を信じて、ページをめくり続けています。

装丁が美しい。

表紙の雪の結晶は、見たら見るほど印象深く目にやさしい。

よく調べよく学びよく頼る巻末の参考文献の多さに驚く。

 

「アルノーと檸檬」

地磁気を見て一度飛べば陸標を記憶し臭覚や音の地図まで使って帰巣する伝書鳩の能力を知った。

これが一番いまのぼくのこころにしっくりきた話だった。

白粉婆の加藤寿美江にアパートの立ち退きを迫る不動産会社の社員園田正樹が語り手となる。「アルーノ19号」という伝書鳩の帰巣本能をもとに、園田自身の実家との境遇を重ねて考えたところがうまいと思う。

 

「海へ還る日」

バツイチママの野村さんと娘の果穂ちゃんが、満員電車の中で偶然老婦人の宮下さんと出会ったことから、素敵なクジラの世界を知ることになるお話だった。

97P

「果実の果に、稲穂の穂でしょ。きっと何か実るわね」

(略)

宮下さんは、もう一度果穂に優しい目を向けた。

「大事なのは、何かしてあげることじゃない。この子には何かが実るって、信じてあげることだと思うのよ」

103P

宮下さんが、視線を骨に戻す。一本線を足す。そしてまた、骨を見つける。単にその形を目に焼き付けているだけではないと思った。よりリアルに再現したいというだけでもないだろう。

宮下さんはきっと、骨そのものではなく、それを超えて広がる自然と対峙している。

一つ一つの曲線に自然が込めた意味を、漏らすことなく写し取ろうとしているのだ。進化によってその形が生まれるまでの悠久の時を、鉛筆の先で刻もうとしているのだ。

 

心に沁み入る話があり、ちゃんとした人間ドラマが根底にあり優しく温かい気持ちになった。

 

 <目次>

八月の銀の雪   

海へ還る日   

アルノーと檸檬 

玻璃を拾う   

十万年の西風

あとがき

 

1972年、大阪生れ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、博士課程修了。2010年、『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞。2019年、『月まで三キロ』で新田次郎文学賞、静岡書店大賞、未来屋小説大賞を受賞。著書に「月まで三キロ」など。