どの物語にも記憶の中の香りが思い起こさせられる。
人はなぜ香りに惹かれるのか、香りの魅力に酔いしれるのか。
犬のように鼻が利く個人的なオーダーでその人だけの希望の香りを作る天才調香師・小川朔と、その屋敷で偶然働くようになった家政婦の女性・若宮一香、小川朔に寄り添うようにいてある一定の距離を保ちつきあっている幼馴染の新城の三人を中心にして物語が素敵に流れて終始落ち着いた感じで話が進んでいく。
ぼくには嗅いだ記憶がなくても、それぞれの登場人物たちによって匂い立たせるように描かれている。
街ですれ違った移り香のあと、忘れていた何かが胸の奥にふと湧きあがってくることがあった。様々な思いは匂いとともにあるのだ。記憶という言葉だけでは言い表せない不思議な感覚だった。
とても魅力的な香りや繊細な色彩が満ち溢れている。
あくまで文字でしかないのに、何かのきっかけで周辺に香り立つような流れがある文章が美しい。
香りで破滅する人もいる。
香りで家族に自分の心に向き合える人もいる。
まるで魔法のようであり、香りは人に影響を与えるのは僕の経験上から間違いない事実だと思う。
もしこんな素敵な場所があったならば。
ぼくはどんな香調の香りをオーダーするだろうか?
134P
香りは再起動のスイッチ
朔さんはそう言っていたことがあった。人に果物や植物のフレッシュな香りを嗅がせると、不安感や疲労感の数値が軽減したという実験結果があったらしい。ショックやストレスを受けてフリーズ状態に陥った脳は、香りで目を覚ますことができるそうだ。
<目次>
Top Note
Floral Note
Chypre Note
Woody Note
Spicy Note
Citrus Note
Animal Note
Last Note
1979年、北海道生まれ。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。翌年、同作にて泉鏡花文学賞を受賞。13年『あとかた』で島清恋愛文学賞を受賞。同年に『あとかた』、14年に『男ともだち』でそれぞれ直木賞候補となる。その他の著書に『正しい女たち』『犬も食わない』(クリープハイプ・尾崎世界観との共著)『わるい食べもの』『神様の暇つぶし』『さんかく』など。
