歴史家の小和田哲男さんは、戦国時代の歴史研究の第一人者です。
著書は多数あって、歴史番組の出演も多いのでよく拝見しています。
NHKで現在放映中の大河ドラマの「麒麟がくる」を含めて、時代考証を七度も務めておられます(ちなみに「麒麟」は令和3年2月7日まで放映されるとのこと)。
時代考証には、出演者のセリフや言葉遣いを戦国時代に実際に使われていたものか、名前の改名が多かった時代にその年月にはその名前が実際に使われていたのか、呼ばれていたのか等々その時代の史実に基づき、詳細に検証して大河ドラマをさらにリアルに反映させる玄人も唸るような重要な役割です。
「腹八分目」など満腹を戒めることばがありますが、辛勝だったならば、えぐりだすようなことをして反省するので、「勝って兜の緒を締めよ」と慢心にならないようにということです。
4P 七分勝ちを説いた信玄の真意
「勝負は完勝より辛勝のほうがいい」などといえば、おかしなことをいうと一笑に付されてしまうかもしれないが、歴史からすると、そのようないい方になる。完勝した結果、驕りの気持ちが生じ、そのために家を滅ぼしてしまったケースが多いからである。
「名将とは、一度大敗を喫した者をいう」
徳川家康が武田信玄に負けた三方ヶ原の戦いなど、どうして負けたのか反省をすることで、次の戦いには負けないようにしようと作戦を練り上げさせることができて負けん気根性が強くなります。
人は、挫折の経験が必要であるということです。
50P 朝倉宗滴が重視した大敗北の経験
失敗したり、負けたりすることはいやなことである。ところが、昔の人はそういう経験が必要だと説いている。挫折をし、壁にぶちあたることで、人間として一まわり、二まわり成長することを知っていたのである。
「昨日の敵は今日の友」人の心や運命がうつろいやすく、あてにならないものであります。
徳川家康は滅ぼした武田信玄や今川氏、北条氏などの家臣団を組み込んでいることから、敵に対する恩讐だけではなく、敵を憎まない勝者の寛容さがあり日本人の叡智というしかないのでは。
78P かつての敵将をどう遇すべきか
西洋発祥のチェスは、取った駒は使えない。しかし、日本の将棋は手駒として使える。戦国時代、武将たちは敵と戦った場合、その破った敵とどう向き合うかは大きな問題だった。織田信長の殲滅も辞さないというやり方はどちらかといえば例外で、ふつうは、敵を憎まず、味方に加えていることの方が多い。敵とは、絶対に相いれない相手ではなく、自分にないものを学べる存在だったことを知っていたからである。
諫言を言える家臣を忠臣とするならば、よいことばかりを挙げたり、イエスマンや胡麻をすってばかりいる家臣は寵臣と言えます。寵臣ばかり囲まれた戦国大名は没落していくのです。
「良薬口に苦し」忠言や諫言は聞きにくいが、身のためになります。
これは、現代においても活かせることです。
特に総理大臣や社長などのトップの方には、歴史から真摯に学んでほしいと思います。
87P 諫言が活かされる組織づくり
他人から批判されたい人はいない。ほとんどの人は、あまり耳の痛いことは聞きたくないと思っていて、偉くなるほどその傾向はあるようである。しかし、聞く耳をもたなくなったために没落したり、衰退していったことも歴史的事実で、耳の痛いことをいってくれる部下がいることの重要性は昔の人も気づいていたのである。
戦国時代の娯楽には、囲碁、将棋、太鼓、小鼓、笛、尺八、音曲、謡のほか、和歌、連歌などがありました。
茶の湯は、主客同座、一味同心。
主客無刀で招いた側の亭主と招かれた客人の主客が同座して茶を点ててそれを飲む。茶室という狭い空間に主客が同じ空間を共有する、同室で膝を突き合わせるようにして座る、茶を点ててそれを飲みながら世間話をすることにより、心のふれ合い、通い合いが生まれてくるのです。
茶の湯は、連帯感を強めて相手の心のうちを確かめ合う戦場以外での慰みの場であったのです。
117P 緊張を解きほぐす茶の湯の効用
自動車のハンドルに「遊び」があるように、人間にも「遊び」は必要だった。いつも緊張してばかりいると長続きしないわけで、そのことは先人たちも気がついていた。ここでは茶の湯を通して、戦国武将たちのストレス解消の実態に目を向けたい。
<目次>
はじめに
第1部 戦国武将のリーダーシップ(「七分勝ち」を説いた信玄の真意、刀狩りから元和偃武へ、「名を惜しむ」という武士の美学 ほか)
第2部 戦国大名の人材活用術(かつての敵将をどう遇すべきか、諌言が生かされる組織づくり、武辺咄に学ぶ若手の育て方 ほか)
第3部 戦国日本の文化と教養(ものまね文化で発展した戦国日本、おみくじを合戦に活用した島津義久、戦国時代の教養と遊び方 ほか)
初出一覧
1944年静岡県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。静岡大学名誉教授。専攻は日本中世史。NHK大河ドラマ等の時代考証も手がける。
著書に「明智光秀・秀満」など多数。
【No.678】戦国武将の叡智 人事・教養・リーダーシップ 小和田哲男 中央公論新社(2020/05)
