広島北警察署捜査二課暴力団係の大上章吾。
周りからは「ガミさん」と親しく呼ばれている。
彼は破天荒な人生を歩んできた人物だ。
まるでやくざのようにどすの効いた声と肝が据わった態度。
暴力団事務所に単身独りで乗り込んで話をつける度胸を持っている。
切った張ったの数々の修羅場を乗り越えてきたことがよく伝わってくる。
広島では、やくざから夜の繁華街のホステスまで、彼を知らない者がいない。
知らない者はもぐりと言われるくらいに有名で、裏社会で一目置かれている刑事だ。
彼は、暴力団のカスミをピンハネをしたり、ご縁があった者をおせっかい焼きぐらいにしてしっかりと悪者から守ってくれる器量を持ち合わせるなど、世の流れに身を委ねながらも清濁併せ呑んで、まさに清き川に魚は住めない状況を実践している男だ。
彼は、口が滑らかで初対面からなにかしらほめるので女性にはもてるのだった。
手なずけたSや檀家などを使うなどして麻薬などの犯罪の検挙率を高めるので、裏社会と丁度の頃合いを見極めながら、警察官として表社会でもうまく世を渡っている。
また警察の正義を貫きすぎるだけではうまく娑婆は渡れないこと、邪悪な部分だけでも生きてはいけないことをなんとなく教えてくれる。
224P
「わしゃァのう。堅気に手ェ出すやつは許さん。極道だけじゃない。愚連隊や暴走族も、じゃ。まあ、そいつらは大概、極道にケツ持ちしてもろうとる。こんなら、一本でやっとるそうじゃない。極道や不良に喧嘩売りまくって―ええ根性しとる。根性があるやつが、わしは好きでのう」
大上がソファから立ち上がった。沖を見下して言う。
「わしの仕事はのう。堅気に迷惑かける外道を潰すことじゃ。そういうことよ」
悪人同志であって堅気には一切手をださなければ、多少は見逃す度量を持っている。
もし堅気に迷惑が及ぶと、鬼の形相で徹底的に相手を追及して容赦はしない。
そんなガミさんの志を引き継いだ、元部下の呉原東署捜査二課暴力団係の日岡秀一の活躍を期待したくなった。
こんなガミさんは、太く短い花火のような人生を、後世に名を遺すような人生を歩んできた。
彼は、ぼくらには持っていない強い信念を持っている。
彼は、ぼくらがけっして足を踏み込めない道を歩いている。
仄聞しているだけでよい世界かもしれない。
こんな人物に興味が沸いてきて、極道やマル暴などの疑似体験ができるのは、小説ならではの読書のメリットだと思った。
終わりに、ガミさんの行動指針を吐露している印象に残った箇所を取り上げたい。
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なにげなく、上空を見た。月は、どす黒い雲で隠れている。
そうだ。世の中、銭と情報を持つ者が勝つのだ。銭で情報が手に入り、情報を売ることで銭が入る。そのふたつを巧みに操る者が、生き残る術だ。
根本まで煙草を吸い、煙を吐きだした。見上げた空を、紫煙がよぎる。
<目次>
プロローグ
一章から二十三章
エピローグ
1968年岩手県出身。2008年「臨床真理」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、16年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。18年『盤上の向日葵』で「本屋大賞」2位
