「歴史にifがある」
江戸無血開城には、勝海舟と西郷隆盛の直談判によるだけではなく、山岡鉄舟や皇女和宮、天璋院篤姫らの陰ながらの大事な役割があった。
もしも江戸が戦火にまみれて江戸城が焼き払われたならば、その後の明治政府のインフラが大きく遅れ日本の近代化の歩みも遅いものになったであろう。
また、例えば、鳥羽伏見の戦いのとき徳川慶喜が大坂から江戸に敵前逃亡せずに、もしも旧幕府軍と新政府軍が戦い続けてしたとしたならば、イギリス、フランス、ロシアなどの列強国が虎視眈々と日本の領土を狙って、国防力に弱った日本が中国の清のように植民地化されていたのかもしれない。
徳川慶喜の大政奉還、勝海舟の無血開城、皇女和宮と天璋院篤姫の嘆願、西郷隆盛の西南戦争など、NHK「英雄たちの選択」という番組をまとめたものであった。
彼らがほかにどんな選択肢があったのかを、歴史学、政治哲学、脳科学、文学などの専門家がそれぞれの事件に関し各専門家の意見も交えて、「歴史にifはない」という考えをせずに「もしも別の選択をしたらどうなったか」と侃侃諤諤と話を進めていく。たとえ相手と意見が相違していても尊重しながら話を進めているのだ。
彼らのイキイキと語っている姿を見ていると楽しい。
歴史から何か大事なことを学ぶことが好きなのだろう。
見ているこちら側も楽しいし歴史が好きになる番組だ。
磯田さんのこの番組に対する考えや想いがわかる箇所を、長いが引用させていただいた。
199-200P
人間や社会は、時代の川を流れてゆくなかで、必ずなんらかの分岐点に立ちます。右を選ぶか左を選ぶか、いくつかの選択肢があるはずです。常に正しい選択ができるとは限りませんが、人はなんとかして正しい選択をしようと、選択肢の先にどのような未来があるのか見通そうとするはずです。
そのときに必要とされる能力・素質は、「もし、こうしていたら、こうなる」という「if」を考える力なのです。これは個人の人生の選択を向上させます。戦争の防止や福祉の向上、防災にも必要な考えです。
歴史とは、過去の出来事を興味本位に拾い上げ、記録する営みにとどまるものでは決してありません。人生や社会を正しく運用していくための知識を集積し、必要に応じて引っ張り出せるレファレンスでなければならないと思います。
それこそが、まっとうな歴史なのです。
(中略)
そして、人生の分岐点で先を見通し、目の前に並べられた選択肢のなかから、自らの責任で選択肢を選ぶということは、自分の人生を主体的に、積極的に取り組むことにもつながると思います。特に若い方には、そのようにして歴史を活かしていただきたいと思います。歴史は人生を安全に歩くための靴です。必須の実用品です。歴史は好き嫌いで選べる酒やタバコのような嗜好品ではありません。
<目次>
序章 薩摩藩島津家の躍進を支えた「四本柱」
第1章 戦うべきか?退くべきか?最後の将軍徳川慶喜の決断(慶喜の外交感覚、大政奉還の真意は? ほか)
第2章 勝海舟の秘策 江戸無血開城への道(“選択”内戦も起こさず、江戸の町も守るには!?江戸焦土作戦の真の目的とは ほか)
第3章 女たちの江戸無血開城 和宮と篤姫 大奥の闘い(和宮の人間的成長とは、“選択”いかにして徳川家を滅亡から救うのか!? ほか)
第4章 西郷隆盛の苦悩 なぜ西南戦争は勃発したのか(島津斉彬が西郷の行動の基本、民主政治を求めた西郷 ほか)
あとがき
「四つの分野の専門家」プロフィール
「英雄たちの選択」番組スタッフリスト
1970(昭和45)年、岡山県生まれ。歴史家。慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。2018年7月現在、国際日本文化研究センター准教授。『武士の家計簿』(新潮ドキュメント賞受賞)、『天災から日本史を読みなおす』(日本エッセイスト・クラブ賞受賞)など著書多数
