フランスの作家ギー・ド・モーパッサンの短編小説。
馬車の中の描写は非常に絵画的であり、作品の挿絵も見ていてなかなか面白い。
普仏戦争を舞台に、プロシア軍に占領された町を逃げ出すのにたまたま大型乗合馬車に乗り合わせた面々を通して、上流階層といわれる人間たちの醜い利己性、偽善性、欺瞞性を見事に曝した作品である。
アイロニーに満ちた物語構造だが、短編ならではの簡潔でわかりやすく小気味のよい展開が十分に活かされている。
描かれる「いけにえ」を供出する構図は、人間社会における集団心理と利己精神そのものだが、馬車に乗り合わせたのが、修道女2人組、伯爵夫妻、工場主夫妻、ぶどう酒販売店夫妻、共和主義者の男性、そして美人だがかなり豊満な娼婦ブール・ド・シェイフ(脂肪のかたまり)という面々である。
一番の社会的弱者のブール・ド・シェイフが最も純真として描かれる反面、下の階層から順番に偽善性が高くなっていくという皮肉な描写がなかなか巧みである。自らを犠牲にして公共性に尽くすとは、必ず「上流階級」の人間から「下流階級」の人間に発せられる一方通行の言葉であるが、権力や宗教や社会性の仮面を身にまとい、自らを安全な位置としつつ、臆面もなく繰り出されるこのような醜い人間性を、モーパッサンは見事に描き切った素晴らしい文学作品だった。
