「桃栗三年、柿八年、柚子は九年で花が咲く」
読み始めてすぐに中に引き込まれてしまう。
殺された村塾の教師、梶与五郎の謎を追ううちに、かつての教え子の日坂藩士の筒井恭平は他藩の陰謀に巻き込まれる。
善悪の差はあるけれども、誰もが自分の信じる道を進んでいた武士の時代を真面目に描かれている。
悩みながら苦しみながら、懸命に生きている姿は凛として清々しいものだ。
揺るぎない信念を持っている人間をとても優しく温かく表現しているから思わず涙腺が緩んでしまう。
例えば、鵜ノ島藩との干拓地にまつわる覚書の謎が解かれる時にはさらに心が動いて涙ぐんでしまいそうになった。
村塾―小さな学び場が愛おしい。あの小さな藩の者たちが愛らしく感じられた。
1951年福岡県生まれ。作家。2004年『乾山晩愁』で第29回歴史文学賞、2007年『銀漢の賦』で第14回松本清張賞、2012年『蜩の記』で第146回直木賞受賞
350P「解説」江上剛
葉室さんの小説の魅力は、なんと言っても主人公の生き方だ。とにかくまっすぐ。その不器用な生き方に感銘を受け、すくっと背筋が伸びる気がする。自分もしっかり生きようと思い直す。
本書『柚子の花咲く』も同じだ。主人公の筒井恭平のまっすぐな生き方が魅力で、ぐいぐいと物語に惹きこまれていく。
「徳は孤ならず、必ず隣有り」
(中略)
読者がみんな幸せになれる、それが葉室さんの小説の最大の魅力だろう。そこからは私がそうであったように「生きる力」を得ることができる。明日へ、一歩を踏み出す勇気とともに。
