例えば、松方コレクションなど。
写真やインターネットで見るだけでなく、自分の目でその場所に足を運んで観て五感で確認しないと、本物でしか発しないパワーがこころで感じとれずに、魂に響かないものだとぼくは信じている。
松方幸次郎が絵画を買い集めた理由。
欧米に負けない美術館を日本に創って、本物の名画を展示して、日本の画家たち、ひいては青少年の教育に役立てたいから。
まるで、実業家の松方幸次郎とともに、ワクワク、ドキドキ、東奔西走しながら西欧で名画のコレクション収集しているかのように。
まるで、美術研究者の田代雄一とともに、クロード・モネの家に訪問して彼らといっしょに吸い込まれるようにして睡蓮を見て感激しているかのように。
まるで、嘱託社員の日置釭三郎とともに、戦時下のフランスにおいて収集した松方コレクションを身命を賭して神に祈りながら奇跡的に守り抜いたときのように。
ぼくはこの物語のそれぞれの場面の中に気持ちまでも入り込んでしまった。
ともに足を運んで汗をかいて冒険をしているような素敵な気分を味わったのだ。
「タブロー」美術系関連の書き手としては、原田マハさん以上の人はいないのではないかと思うくらいすごくよい作品だった。
原田さんのおすすめ本が、「楽園のカンヴァス」や「暗幕のゲルニカ」などのほかに、またひとつつけ加わったのは間違いない事実だと思った。
巻末に「この物語は史実に基づくフィクション」とあり。
また「主な参考文献」の数が半端じゃないくらいに多くて協力団体も数十以上。
事前に十分な研究や調査の上に描かれたものだとわかって更にこころが満足した。
1962年東京都生まれ。フリーのキュレーター、カルチャーライター。「楽園のカンヴァス」で山本周五郎賞受賞。
